第596話 アンナ様とそっくりですね?

 ノクトを伴ってルイジが出て行ってしまったので、エレーナと子どもたちのところに向かうことになった。ジョージアは私たちの後ろをついて歩くだけで何も言わない。



「ただいま!」

「ママ!」

「……ママ!」



 扉を開くと、一目散に飛び出してきたのはアンジェラで、その後ろを少し遅れて走ってくるジョージ。

 私は屈んで、二人の頭を撫で、両手に片方ずつ手を繋いで部屋に入る。



「ジョージア様そっくりの女の子ですね!可愛らしい、コロコロと。そちらの

 男の子は……?ちょっと、ちが……」

「エレーナにご挨拶しましょうか?二人ともできるかな?」



 アンジェラとジョージは、私の顔を眺めながら考えるそぶりをする。やはり、アンジェラが先にするのだろう。エレーナの方を見てニコッと笑う。

 私の手を離し、ミアに教えてもらったのだろう、スカートをちょいっとつまんでいる。



「アンジェラです!」



 元気よく、名前をいうとエレーナがニコリと微笑む。よくできました!という子を持つ親の顔であった。

 ジョージは、アンジェラを見て、自分もするのかと上を見上げ私を見つめてきた。ジョージは人前で何かするのは得意ではないので、逆に私の後ろに隠れた。



「あらあら、坊ちゃんは、恥ずかしがり屋さんかな?」



 エレーナに言われ、少し拗ねたようにしている。



「ほら、ご挨拶してごらん?お名前教えてあげないと、お話出来ないでしょ?」

「僕……僕……ジョージ」

「ジョージ様ね!初めまして、私はエレーナ。アンナ様のお友達よ!」



 そういうと、隠れていたジョージが少しだけ前に出る。そんな様子をエレーナも見守ってくれる。



「アンナ様、先程言っていた双子みたいなって、アンジェラ様とジョージ様のこと

 ですか?」

「えぇ、そうよ!同じ日に生まれたの。別の母からね……」

「!!」



 ジョージアの方をキッと睨みつけるエレーナ。ジョージアは、その視線に一歩後ろに下がった。



「エレーナ?」

「アンナ様、少々、旦那様を自由にさせすぎではありませんか?」

「……」

「ジョージア様は、元々第二夫人だったソフィアと結婚することが決まっていた

 のよ。私が割り込んだわけだから……」

「それにしたって!」

「そんなふうに怒ってくれるのは、今はエレーナくらいね!」



 私はふふっと笑うと、ジョージアはそぉーっとソファの隅に座って、ジョージを呼び寄せていた。



「ここだけの話、ソフィアはもう、この世にいないわ」

「アンナ様、それは一体?」

「私が、殺したのよ。いろんな出来事があったのよ……アンジェラが生まれる

 前後にね」



 エレーナにだけ聞こえる声量で話しかけると、立ち入ったことを……と謝ってくれる。貴族の間では、よくある話ではある。

 正妻が、妾を殺したとか、愛妾が正妻にのし上がったとか。愛憎劇を語れば、貴族程おもしろい話はないのではないだろうか?どんな物語より、濃い話はたくさんあるのだ。

 人の数だけ物語があるが、喜劇も悲劇も貴族社会にはたくさん転がっているなので、それ以上は、エレーナも立ち入ってはこなかった。



「その……アンナ様は、良かったのですか?ジョージ様をお育てになることは、

 辛くは……」

「私は、ジョージア様がどうしたいのかと聞きましたよ!育てたいと言われたので、

 そうすることにしただけです。予想外だったのは、想像以上に懐かれたことなの

 よね……」



 ジョージと呼ぶと、ジョージアの膝から飛び降り私に抱きついた。さっきまで物怖じしてエレーナの近くには来なかったけど、仲良さそうに話しているのを見て気を許したのだろう。



「ママ?」

「ジョージは、何が好きかしら?」

「僕は、ママが好き!抱っこして!」



 そういうので、私は抱きかかえると、頬にキスをする。それを見て、エレーナは驚いていた。



「一緒に並ぶと、可愛い娘と息子なのよ!もう一人、息子がいるんだけど……」

「今は、お休みですよ!」

「だそうね。アンジェラも、いらっしゃい!」



 とたとたっと走ってきて、足にまとわりつく。ジョージを抱っこしているので少しだけ拗ねているようだった。

 エレーナが声をかけると、アンジェラはニッコリ笑う。



「私で良ければ、手を繋ぎましょうか?」



 うん!と返事をしてエレーナの手を取る。もう片方の手を私と繋いでソファに来ると、私たちの間に座った。



「アンジェラ様は、見た目はジョージア様にそっくりですけど、中身はアンナ様と

 そっくりですね?」

「そう?」

「好奇心旺盛ですし、人懐っこい。将来、大変ですね!」

「エレーナも、そう思うかい?」

「えぇ、ジョージア様もそうだと?」

「あぁ、心配だよ……もう少ししたら、アンナのお茶会とかについて行く日もある

 かもしれないし、学園とか行くようになったりしたら、変な男に引っかから

 ないかって……」

「それは、大丈夫じゃないですか?」

「アンナ、そうは言ってもだよ?」

「そうですよ!アンナ様も悪い男に引っかかっているんですから、そこは、しっかり

 見る目を養わないと!」

「……悪いって、俺のこと?」



 他に誰かいますか?とエレーナに言われ、乾いた笑い漏らすジョージア。



「ジョージア様は、悪くないですよ!見た目もいいし、爵位もあるし、勉強熱心で

 すから。あとは、社交上手になれば、いうところなしです!」

「アンナ様、旦那様のフォローになっていませんよ?ほら……」

「えっ?ほめたつもりなのに……」



 私は肩の落ちたジョージアに驚いた。



「アンジェラ、パパのところに行って、頭を撫でてきてくれる?」



 目がちょっと嫌そうなのは、なんでだろう?と思ったが、もう一押しする。



「お願い!パパ、大好きよって言ってきて!」



 耳元でジョージアには聞こえないようにいうと、アンは?と返ってくる。



「アンジェラのことは、ママは大好きよ!」



 その言葉を聞いてニッコリ満足そうに笑い、ソファを滑り降りてジョージアのところへかけていく。ジョージアの膝をポンポンっと叩くとアンジェラは膝の上に座らせてもらえるらしい。私も、次、やってみようと心の中で思った。



「パパ、大好き!」

「パパも、アンジー大好きだよ!」



 親子で微笑ましく好き好き言い合っているのをエレーナは、温かい目で見守ってくれたのであった。

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