第595話 恋は盲目?偉大ですよ!

「あの、アンナ様、あの、あの……」

「どうかしたかしら?」

「旦那様は、その……」

「あぁ、元将軍に任せて置けば、なんとかなると思いますよ?少々、警備兵には

 痛い目をみてもらうことにな……」



 顔を青ざめていくエレーナに気づいたのは、得意げに話をしていた私ではなくジョージアであった。

 肘でコンコンっとつつかれて、エレーナの方を見るように言われ気が付いた。



「じょ……冗談ですよ!」

「……いえ、あの……あの方、私、見たことがあります!」

「えっ?」



 私は目を丸くしながら、ジョージアを恐る恐るみやると、困った顔をして視線を合わせてくれた。

 が、首を横に振っているので、あんまりいい状況ではないらしい。



「あの方は……インゼロ帝国の前の皇帝の弟様……何故、アンナ様の側に……?」



 可哀想なくらい、カタカタと震えだすエレーナに私は席を立ち隣に座って抱きしめる。



「エレーナ、大丈夫?」

「……はい」



 少しだけ落ち着いたのか、小さく息をはきながら、こちらを見上げてきた。



「ノクトのことが、怖いかしら?」

「……はい。正直に申しますと、とても怖いです。旦那様は引篭もりでしたから、

 あの方を知っているかどうかはわかりませんが、とても有名な方ですから……

 常勝の将軍と」

「そうね。わりと有名な話よね?まぁ、その常勝に終止符を打ったのは、他でも

 ないうちのセバスなんだけどね?」

「えっ?セバスチャン様がですか?あの、アンナ様と一緒にいらした方ですよね?」

「えぇ、エレーナも学園やお茶会で会ったことがあるでしょ?」

「はい、たしか、ローズディアで文官を目指していたことは、知っていましたが」

「えぇ、立派な文官になって、今は、アンバーの領地改革を手伝ってくれているわ!」

「……文官になって。月日が立つのは早いですね。それで、あの……」



 聞きにくそうにしているエレーナに微笑みかけた。

 ローズディアとインゼロとの小競り合いの話からしないといけない。ノクトとの出会いへと続く話は、そこから始まったのだから。



「と、いうわけで、何もかもを奥さんと息子さんに任せて、お葬式をして私の配下に

 なったの。もう、アンバーでやりたい放題よね……」

「ウィル様も近衛になられて……功績を積まれたのですか。セバスチャン様も

 爵位を。私の知らない間に、ずいぶん変わったのですね。その繋がりがノクト様

 という方を引き寄せたのですね……」



 ため息に近いような、ほぅっというエレーナ。



「驚いたでしょ?」

「はい、驚きました。ジョージア様との結婚だけでも、私は驚いたのですけど……

 ウィル様やセバスチャン様、さらにはノクト様まで……驚きです。

 あの、ナタリー様は、どのような……」

「ナタリーもアンバーの領地改革を手伝ってくれているわ!ドレスのデザインを

 したり、作ってくれたり。今日着ているのもナタリーが作ってくれたものよ!」

「まぁ、アンナ様のドレス、素敵だと思っていたのですけど……ナタリー様が?

 みなさん、立派になられたのですね……」



 感慨深そうに話すエレーナにみなの近況を話したら喜んでいた。エリザベスとは手紙のやり取りをしているそうで、トワイスのことは少しだけ知っているけど、ローズディアの話はあまり入ってこないと言っていた。

 確かに、エレーナ宛に手紙は書いていたが、こういった近況はあまり書いていなかったことを思い出し、次からは書くわね!というと喜んだ。



「水をさして悪いんだけど、エレーナって……エリザベス嬢の侍女、ニナだったりする?」



 ジョージアに指摘され、私と視線を合わせてクスっと笑うエレーナ。



「はい、ジョージア様。私は、エリザベスの侍女でニナでした。いろいろと事情が

 あり、エレーナという名をもらい、クロック侯爵家へ嫁いでおります」

「……やっぱり。それって、やっぱりアンナが関わっているの?」

「はい、私は、アンナ様に助けられました。私だけでなく、家族も」

「また、ひとつ、アンナの功績を見せつけられたよ……」

「ふふっ、功績だなんて。お兄様のお嫁選びに少々加担しただけですよ!」

「それが、エリザベスのご実家を助けることにもなりましたし、私たちも助け

 られました。私の浅はかさのおかげで、たくさんの方々に迷惑をかけたことは、

 決して忘れません」

「今、それを返してくれているでしょ?それで、いいのよ!」



 二人して……とジョージアが呟く。



「エリザベス嬢を嫁にと推したのは、アンナだって聞いていたけど」

「ニナもお兄様の嫁候補だったのです。下級貴族ですからね!可能性がないわけでは

 なかった」

「でも、私は、今の方がとても幸せです!」

「それは、よかった。お兄様と結婚したって苦労するだけだからね!」

「……あとで、サシャに言っておくよ!」

「妹に泣きつくお兄様ですよ?」



 すると、三人ともが思い当たるようで笑いだす。

 ちょっと頼りないのが、兄だ。私は、そんなお兄様が大好きだったが、ここに集まったジョージアもエレーナも同じのようだった。



「今は、エリザベスによって、だいぶましになりましたけどね!」

「たしかに……サシャ様は少々頼りない感じがしましたね?そこが、よかったの

 ですけど……」

「どう思います?ジョージア様」

「恋は盲目ってことだね?」

「じゃあ、私もそうだってことですかね……」



 小さくため息をつくと、ジョージアが待って!と反論し、エレーナがクスっと笑う。



「恋は、偉大ですよ!」

「確かに!引篭もりの侯爵を引っ張り出しちゃったんだから、エレーナってすごいよね!」



 そこじゃないよとジョージアは苦笑いしているが、エレーナは照れたように微笑んだ。

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