第583話 のびのびとしたところ

「今日は、こちらで休みます!」



 後ろの馬車に乗っていたニコライは、先に宿屋に入っていく。泊まる手続きをしに行ってくれているようで、私たちは、外で待っていた。

 しばらくすると、宿屋の店主がニコライと一緒に出てきて、荷物を運んでくれる。ノクトも手伝いに行ったので、デリアにもお願いした。

 ネイトは私が抱き、アンジェラとジョージはジョージアが手を繋いで、宿屋の中に入っていく。

 デリアによって、整えられていく部屋を見ていたが、ニコライに声をかけられたので、返事をする。



「アンナリーゼ様、まだ、日が高いので案内したい場所があります。馬も借りて

 ありますので、一緒にどうでしょうか?」

「えぇ、行くわ!」



 元々、領地外を見て歩くというのも、今回、私の目的でもあった。子どもたちの体力も考えて、旅の日程も日数を長く取ってあるので、1日にも余裕がある。

 ジョージアに子どもたちを任せ、デリアとノクトに残ってもらうようにいうと、ジョージアが不満そうだ。



「アンナは、護衛なしなの?」

「えぇ、いりませんよ?デリアもノクトも、ジョージア様や子どもたちを守って

 もらわないと。すぐに帰ってきますから!」

「暗くなる前に帰ってくるのは絶対だから!物騒なのは、アンナも知ってると思う

 けど、気を付けて行っておいで!」



 私は頷くと、デリアも行きたそうにしていた。でも、護衛を考えると、デリアもここにいてもらわないと困るので、私は、見ないふりをしてニコライと宿を後にした。



「良かったんですか?」

「うん、もう少しアンジェラたちも大きくなったら連れて歩くこともできる

 けど……今日は、たくさん馬車にのったから、たぶん、これから寝ちゃうん

 だと思う」

「アンジェラ様、大きくなりましたね。私が会えるのは、年に数回ですから、

 余計に感じます」

「そうね、もう、すごい重いのよ!しかも、ちょっと目を離すと、イタズラをする

 ようになったみたいでね……」

「利発そうな子で何よりです!」



 本当ね!と笑うと、私の両親もこんなに手を焼いていたののだろうか?私はもう少し、聞き分けがあった気がするけどって言ったら、兄にそんなわけないだろ?って言われたのを思い出した。


 アンジェラを見ていたら、そんなわけないように思えるのは、やっぱり、私もあんな感じで両親や兄、侍従たちに迷惑をかけていたのかもしれない。

 血は水より濃いとは、まさに私たち母娘のことを指しているようだった。



「今日は、どこに向かうの?」



 馬の背に揺られながら、ニコライに尋ねると、もう少ししたら川につくというので、意図がつかめず、黙ってついて行く。


 アンバーでもサラおばさんの村近くの景色のようで、どこまでも続く麦畑にのどかんだなぁーと呟く。

 私は、吹き抜けてく風がもう夏が来ていることを知らせてくれているようで、少々熱い。



「帽子、かぶってきたらよかったも。デリアに帰ってから叱られそうだわ!」

「日差しがだいぶきつくなってきましたものね。大丈夫ですか?」

「大丈夫!明日以降は、ちゃんと帽子を持ってくることにするわ!」

「はい、そうしてください。デリアさんに叱られるのは、ちょっと……」



 苦笑いのニコライにごめんねというと、アンナリーゼ様以外には厳しいのですよ!というと前を向き、目的地が見えてきたという。


 なんだろうと目を凝らしても、何かわからなかった。



「あの小屋が見えますか?」

「えぇ、見える!今日はあれを見に行くの?」

「そうです。あれを見に行きます!きっと、アンナリーゼ様が喜ぶものだと思いますよ!」



 なんだろう?と、ニコライがご機嫌になっているのを横目に私は考えた。水場で何かあるのだろうか?トイレ事情は……解決に向け、今、みなが動いていてくれるし……と、馬に揺られ、石で造られている小屋を見上げた。

 よくよく見ると、川沿いに点在している。川沿いであることが必要なのだろうか?考えてもわからなかったのでニコライに聞くことにした。



「ニコライ、これは何?」

「アンナリーゼ様でも知らないものがありますか?まぁ、領地にはないものです

 からね!馬から降りて、こちらに来てください」



 言われるがまま馬から降りて、近くにあった木に手綱を括りつける。

 私はニコライについて行って、そのものを見て驚いた。



「これっ!ニコライ、これ何?」

「連れてきてよかった。こんなに目を輝かせているアンナリーゼ様は、やっぱり

 見ていていいものですね!」

「もぅ、からかわないで!それより……」



 私は、水で動いているものを見上げ、わぁ!と感嘆の声をあげた。

 大きな円が、川の水を使ってゆっくり動いていく。ずっと見ていると目が回りそうだったが、まだ、説明を受けていないことに、ニコライにお願いすると嬉しそうに笑っている。



「宿屋の持ち物なので、中に入る鍵も借りてきています。入りましょう」



 そういって、鍵のかかった石畳の小屋に入っていく。中は2階建てになっており、ネズミが入らないよう工夫がされているのが、見て取れた。



「この白いのって、小麦粉?」

「正解です!外にあったのは水車。川の水を利用して、こうやって粉を挽くんです。

 すると、人の手間も労力も省けてるし、労力として使うのは川の水なので、

 一定の力が加わって、粉にしたときもむらができにくいんです。口触りもよくなる

 のですよ」


 ニコライが手に取ると、サラサラとしていて、アンバーで見る小麦粉よりずっと綺麗だった。領地では、領民が総出で粉に挽いていたりするので、力の入れ方で多少肌触りが違う。

 川の流れを利用した場合、一定の流れのときに挽けば確かに、均一のの小麦粉ができる。



「どうやって、作ってあるの?」

「気になりましたか?」

「えぇ、とっても。これ、領地に作ったら……その分、領民の手があくから、他の

 仕事が出来るわね!」

「たとえば、街道整備とか……」

「えぇ、そうね。他にも仕事ならあるけど、そうね。これがあれば……」



 ニコライは不敵に笑う。

 私が、欲しいと言い出すだろうと踏んでいたようで、してやったりだ。

 この丸いのは、水車というらしく、私の好奇心をくすぐる。



「宿に帰ったら、早速手紙を書くわ!セバスとイチアに」

「まだまだ、見せたいものがあるのです。それ程、焦らなくて大丈夫ですよ!

 設計図も手に入れていますから!」



 さすがね!とニコライを褒めた。

 私は、領地に帰るまで時間があるので、どんな活用法があるのか、じっくり考える時間ができた。

 1ヶ月間、ニコライが用意してくれている紹介したいものが、楽しみで仕方ない。



 ご機嫌で宿屋に戻ると、ジョージアも私の浮かれようにどうしたの?と興味をひかれたらしいので、ノクトやデリアも混ざって、視察の話をしたのである。

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