第581話 待ち合わせの場所まで
みなで集まった翌日、ニコライに来てもらい、エレーナと会う約束の話をした。
「準備は整っていますから、いつでも大丈夫ですよ!」
「本当?エレーナに会うのは、久しぶりなのよ。何かお土産を渡した方がいい
かしら?」
「お土産は、いいと思います!何か用意いたしましょう」
「準備、お願いできるかしら?」
もちろんと返事をくれ、私は次の話をすることにした。今回、エレーナに会うのは最終目的であるのだが、それ以外にも、この国の特産品とかまだ見ぬ何かを見たいというのも目的でもあるのだ。
「アンナリーゼ様は、今回、エレーナ様に会う以外に目的があるんですか?」
「よく知っているわね?」
「父から、そんな話を聞きました。何かおもしろそうなものがありそうなところへ
連れて行って差し上げろと」
「そうだったのね。さすが、ビルね!ニコライが言うように、私、他の領地も
見てみたいの。アンバーにはなくて、あると便利なものとか……何か持ち帰ら
れるものがあれば、ヨハンを始め、魔法使いたちが考えてくれるでしょうし」
「それなら、ご案内したい景色があるので、楽しみにしていてください!」
ニコライは、いいことを思いついたような顔をする。私より地道に三国を歩き回っているニコライにとって、そういうことはお手の物だろう。
「今回は、家族で向かわれるのですか?」
「えぇ、そのつもりよ!アンジェラも外の世界と触れる機会を与えて行かないと。
ただ、ネイトも行くし、大きくなったとは言っても、アンジェラもまだまだ小さい
から、長旅はちょっと心配ね」
「そうですね。さらに体力がないネイト様もいらっしゃるので、1日の馬車での移動
距離を短めにしましょう。移動時間に日数がかかりますが、その分、アンナ
リーゼ様が言っていたようなところを回るのもいいかと思います」
「それ、いいわね!」
「今回、エレーナ様と会う場所は、馬車で10日程のところとなります。15日かけて
向かうこととしましょう。あと、向こうでも5日ほど滞在をし、出回られるように
馬の手配等しておきます」
「わぁ、ありがとう。それ、すごく助かるわ!」
「アンナリーゼ様の話は聞いていますので、今回は慎重に慎重を重ね、カレン様の
ご実家の領地での滞在とさせていただきました。カレン様が、是非にという
ことでしたので」
カレンはどこまで動いてくれているのだろう。今回の申し出はとても嬉しかった。
「カレン様もナタリー様と同じですよね。アンナリーゼ様について行きたいらしい
です。でも、侯爵夫人としてやるべきことがあるから、その責務と共に支援できる
方法をと考えていらっしゃるらしいですよ。アンバーの葡萄酒が繋いだご縁です。
私も含め、大切にしたい縁ですね」
「まさにそうね。葡萄酒がなかったら、この縁はなかったかもしれない。ちょっと
したことで、お互い知り合いにすらなれなかったのかもしれないわ。私は、
本当に人に恵まれているわね!」
「いい巡り合わせも、悪い巡り合わせもだと思いますけど」
たしかにと笑うと、ニコライも苦笑いする。
私の財産は、たくさんある中でも、1番は人だろう。私やアンジェラ、アンバーを取り巻く人は、いいも悪いも含め大きな波のように蠢いている。なるべく、いい状態でアンジェラに、次代に渡したいとは思っているのだけど……
「そうだ!今回はご家族だけですか?」
「そのつもりよ!まぁ、警備の問題もあるから、ノクトが一緒に来てくれるよう
言ってはあるけど……ジョージア様は、護衛には向かないし」
「あぁ、なるほど……ノクト様が一緒なら、安心ですね!」
「そうね。結局、何かあったとき、私はあんまり役に立たないでしょうね」
「それは?」
「人の命を奪ったことがないから……この手で。狂った場所に身を置いたことが
ないのよ。お母様と違って」
「……狂ったですか」
「そう、戦場ね。結局、命のやり取りをしているノクトには、私は勝てないし、
ウィルにすら勝てない。模擬剣でいくら勝っても、そういうのって、その場に身を
置かないと……」
「私は、アンナリーゼ様が、その場に立たないでいてくれることこそが、勝者なの
だと思いますよ」
そうかしら?と首を傾げると、そうですと頷いてくれる。
「キングやクイーンが、剣を持って先頭で戦うより、ナイトがかっこよく両者の敵を
打ち砕いている方がかっこいいですし、ウィル様はその覚悟をお持ちだと思い
ますよ?」
「そうだと嬉しいけど、私は出来る限りウィルにもそういう場から遠いところにいて
欲しいとおもっているの。甘いのはわかっているけど、大事な人は自分が守り
たい、盾になりたいと思わずにいられないのは、性格かしらね?」
その後は、予定の確認をして1週間後に出発することになった。
それまでにしておかないといけないことを考える。
今回の遠出は往復で1ヶ月。ちょうど社交の季節が終わる頃であるのだ。
「公への挨拶も必要ね……面倒だけど、それを忘れるともっと大変なことになる
からなぁ……ニコライ、悪いんだけど、3年物の蒸留酒を用意してくれる
かしら?」
「わかりました。普通の瓶でいいですか?」
「えぇ、もちろんよ!」
ニコライが手紙を届けてくれることになり、私は公への手紙を書く。
明後日は、公も休みのはずなので、その日に行くから待っていてね!と有無を言わせる手紙を書いて渡したのである。
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