第580話 だいたい揃ったので、私は旅に出ます!

 カレンからの予定表を半分くらい過ぎた頃。

 今回の命を狙われるかも!の全容が見えてきたので、私はみなを集めることにした。



「集まってくれて、ありがとう。やっと半分くらいの予定をこなせたわね!」

「あぁ、やっとな……まだ、あと半分あるのかと思うとげんなりしそうだ」



 ウィルは、毎晩の夜会続きに疲れている。アンバー領で少々好き勝手していたから、貴族らしい付き合いをするのが疲れるらしい。

 でも、爵位持ちなんだから、ウィルも夜会に出ない選択をするのは難しいだろう。

 独身の貴族は、夜会に出ないだけで、噂になったりする。

 ウィルは別に気にしないだろうけど、サーラー子爵たちが許してくれないらしいので、カレンの予定より多くの夜会を回ってくれていた。



「ウィルは、どれくらい回ってくれているの?」

「ここ1ヶ月で40くらい?訳あって、はしごしてるのもあるから……」

「40だって?それ、回りすぎじゃない?ウィル、体壊すなよ?」

「あんがとさん、セバス。心配してくれるのは、レオとミアとセバスくらいだよ。

 あとの、特に姫さんとかさ?カレン様とかさ?ナタリーなんて、ここもどうか

 しら?とか、追加を言うんだぜ?」



 ウィルは、大きくため息をついて、おかしいだろ!と怒った。

 私は苦笑いをして、ウィルを宥める。



「ウィルに朗報よ!」

「……何?これ以上増やせって言っても、もう、無理だからね?体が足りない」

「大丈夫。減らすわ!」

「アンナリーゼ様、減らすって……いいのですか?」

「えぇ、なんとか大物のしっぽを掴めたから、いいかなって」

「元々、目星はついていたのですものね?」



 えぇと微笑むとやれやれとソファに沈むウィル。



「お疲れ様!お兄様が動いてくれたのも大きいわ!」

「ソルトさんですね!どこの会場にもいるので、驚きましたよ?どれくらい回った

 のですか?」



 ナタリーが、みんなから少し離れた場所に座っている兄に質問すると、うーんと唸っている。



「そうだな、エールと一緒に回ったのと一人で回ったの。あとは大小合わせて

 お茶会と夜会で……89かな?」

「89?えっ?俺より行ってるんだけど……」



 くたっとするウィルに、兄がソルトの微笑みをすると、もうその笑顔いいですと項垂れた。

 始まりの夜会の日に黒の貴族にエスコートされ、彗星の綺羅星のようにあらわれたソルトという女性は、瞬く間のうちに社交界で引っ張りだことなったのだ。

 ダンスもさることながら、豊富な知識量と磨き上げられた話術に男女問わず、老い若い関係なく魅了したようで私以上の招待状をもらっていた。

 いつ寝ているのかわからないくらい、あちこちに行っていたのだが、さすがにドレスが足りない!

!って嘆いてきたときは、箪笥の肥やしになっていた私のドレスを引っ張りだしてきた。



「それで、掴めたんだよね?」

「えぇ、掴めた。ただね……」

「手を出しにくい相手って?」



 曖昧に笑うとなんとなく誰が相手なのかわかったらしい。

 そうそう、みんなが思うその人物が後ろにいるわよ!という顔をしておく。


 ローズディアの二翼と言われる筆頭公爵家アンバーと、第二位の公爵家ゴールド。公国がなったときから犬猿の仲であった。

 領公爵家は、何代おきかに公妃となる娘を排出している貴族でもある。アンバー公爵家がのほほんとした貴族なら、ゴールド公爵家は傲慢でずる賢い貴族であった。

 当代の公妃その人の生家である。だから、みなが残念な顔をしている。


 ゴールド公爵家は、血筋も申し分ない。

 ハニーローズと呼ばれた原初の女王の末裔であるローズディアの公室の始まりには、三人の兄妹がいた。

 腹違いの男兄弟と内乱を起こし、自国を得た兄。その兄から絶大な信頼と愛情を注がれていた妹のハニーローズ。この二人の話は、空想の物語になるほど有名な話になっていたりする。

 そのお話には決して出てこない、もう一人の妹姫が現実の世界にはいた。

 兄からは信頼されず、ハニーローズを妬み、狡猾な妹姫。


 ハニーローズの降嫁先として作られたアンバー公爵家と嫌われていた妹が自ら選んだ降嫁先がゴールド侯爵家である。

 ゴールド侯爵家は、妹姫の降嫁先になったときに公爵と格上げされた。



「あぁ、それなら、手を出しにくいわな……」

「アンナ……」

「わかっていますわ、ジョージア様。私たちから何かをすることはできません。

 これからは防衛戦ばかりとなるでしょう」

「でもさ、下級貴族なら、削り取っていくことは出来るんじゃない?」

「えぇ、それはもちろん。お金とうま味だけで動いている者たちも多いのよね。

 うちと違って、権力もお金も潤沢ある公爵家ですからね……それに比べて……」

「……すまない。そんなところでも、足をひぱっているのか」

「ふふっ、足を引っ張るなんて思っていませんよ。今回、みなに調べてもらったり、

 情報収集してもらったおかげで、掴めていることも多いですから!」

「それでも!」



 苦しそうにしているジョージアが何か言おうとしたので、人差し指でジョージアの唇を抑えて黙らせる。

 ニコリと笑いかけ、みなを見た。



「私たちは、まだ、小さな一歩を歩み始めたばかりの赤ちゃんみたいなもの。

 アンジェラの成長をみなが感じてくれているように、アンバー領も着実に成長を

 しています。ここに集まったみんなのおかげだし、領地で手助けしてくれている

 領民のおかげ。これから、小さな歩みを着実にして、元の位置までアンバー公爵

 家を押し上げましょう。せっかく、ハニーローズも生まれたことですから、

 ゴールド公爵家に対して逆転かけましょう!中立の貴族や力がない貴族たちを

 少しずつ味方につけていく……いつか、としか今は言えないけど……確実に来る

 であろう未来に備えて今一度、みなの力を貸してちょうだい」



 当たり前だと返ってくる言葉は、私の心を何度救ってくれるのだろう。心が折れそうになったときは一度や二度ではなかった。兄に家族に友人たちに、私は救われてきた。



「ジョージア様。私は、恵まれていますね?」



 ジョージアに微笑みかけると、指で目尻に溜まった涙をすくってくれる。



「アンナだけじゃなく、俺もアンジーやジョージ、ネイトもだ。アンナを支えてきて

 くれて本当にありがとう」

「ジョージア様さ、姫さんを一人で支えるとか無理だから!突拍子もないことを

 するし、すぐどっか飛んでくし。みんなで見張ってないといけないから!」



 ウィルがジョージアにニッと笑いかけると、あぁそうだ!と私が言葉を続ける。



「飛んでいくというとあれなんですけど……だいたい揃ったので、私は旅に

 出ます!そろそろエレーナとの約束の時期ですから!」

「姫さん!ここ、感動のところだからさ……」



 空気の読まない私に、ため息をみながつく。



「アンナらしいよね……」



 ジョージアと兄がわかっていたよと的に言うと、情報収集組と私とエレーナに会いに行く組みと別れた。

 子どもたちも一緒に連れて行くことをいうと、静かに黙っていたデリアが、私が必ずついて行きますから!と宣言し、報告会の終了となった。

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