第564話 何か悪いことしたの?
翌朝、私室のベッドにいたジョージアは、一晩中起きていたのかとても不機嫌であった。
久しぶりに兄と会って、朝方まで領地改革や子どもたちの話をしていてベッドに戻らなかったからだ。
積もる話もあるだろうけど、きちんと寝ないと叱られる。
もちろん、デリアも私たちが起きていたので、寝てもいいよと言っても起きていてくれたようだった。
その様子をみて申し訳なく思うが、何より兄との時間も大切にしたかった。
あと、何回会えるかわからない私の家族の顔を見ておきたいというのは、我儘だっただろうか?
そう思うと、叱られるのも少し辛くなる。
「今日は、お兄様とお店に行ってまいります」
「わかったよ。子どもたちは、俺が見ているよ」
ありがとうと言って、私は私室を出た。今日はジョージアと二人で朝食を取りたい気分ではない。
叱られたから……そうかもしれないが、賑やかな場所にいたかったのもあった。
「アンナ?」
部屋を出た私を追いかけてくるジョージアに、どうかされましたか?と答えると、ここで朝食は取らないの?と聞かれた。
私は少しだけ口角を上げて微笑み、食堂で……と言ってジョージアに背を向け歩き始める。
それ以上、ジョージアは何も言わなかったが、何かを感じたのかもしれない。
トボトボと覇気のない歩き方で廊下を歩いていると、アンジェラとジョージが何事か話をして廊下を歩いている。
その後ろからエマが、ネイトを抱え見守るかのようについて行く。
子どもたちのその姿が、荒んだ気持ちを和らげる。
私、なんだか緊張しているのかしら?
ただ、目の前の子どもたちが不意に笑う姿を見れば、自然と笑みが零れた。
「おはようございます、アンジェラ様、ジョージ様」
「おはよう、デリア」
「おはよう」
二人がきちんとデリアに挨拶して食堂へ入っていく。
私はあまり二人との時間を作れていない悪い母親だけど、ときたま見かける二人の子の成長は、手放しで嬉しかった。
目尻を拭きとっていると、デリアに見つかって、どうかされましたか?とデリアにしては、優しい顔をして尋ねてきた。
デリアに駆け寄り、おはようとと挨拶し、肩にポンと触れる。様子のおかしい私に若干戸惑うデリアをよそに、私は食堂へ入っていった。
「あっ!ママっ!」
アンジェラが、目ざとく見つめトタトタと走ってくる。屈んでやると飛びついて来た。
遅れてジョージが駆けてくる。
二人とも足取りがしっかりしてきたように思うなと考え込んでいたら、食堂の扉が開いた。
「わぁ!アンナ。こんな扉の前でいたら危ないじゃないか!」
「ごめんなさい」
「サシャおじさん、おはよう!」
私の肩口からひょこっとアンジェラが顔を出し、兄に挨拶している。
「あぁ、おはよう、アンジェラ!」
頭をクシャッと撫でられて喜んでいるのか、嫌だったのか、腕の中で少しだけ暴れる。
それも少しの間だけで、ジョージがアンジェラの服の裾を引っ張っていた。少々見知らぬ兄に怯えているような雰囲気で、アンジェラに耳打ちしている。
「アン、だぁれ?」
「サシャおじさん!」
「……サシャおじさん?」
「そう!ママとネイトと一緒の髪だね!ふふっ」
無邪気に私たちの髪色を指摘するアンジェラのおかげか、ジョージは恐る恐る兄の方を見たらしい。もそっと腕の中で動いたあと、一緒だ!と驚いていた。
「おじさん、怖くない?」
「おじさんは……ママより優しいよ。君のお名前は?」
「僕、ジョージ!」
「そうか、君がジョージか。大きくなったね?」
「サシャおじさん、私は?」
「アンジェラも大きくなったよ!こぉーんなに小さかったのに……」
兄がアンジェラをからかうと、アンジェラがそんなに小さくないっ!と反論した。
「僕がアンジェラに会ったのは、まだ、ネイトと同じくらいだったよ!」
「本当ぅ?」
私の腕の中からスルッと抜けていき、不思議そうにアンジェラが兄を見上げる。
本当だよとアンジェラの頭を撫でると昨日とは打って変わって、嬉しかったのかニッコリ笑っていた。
「女の子いいな……可愛すぎる。あぁ、うちにもこんな可愛い女の子がいたら、
毎日がもっと楽しいんだろうな。いいな、アンナは」
「羨ましがられても……」
「だよね?でも、うちは男の子ばかりじゃない?やっぱり、女の子が欲しいから、
エリーを拝み倒してみようかな……」
「オガミタオス?」
アンジェラは小首を傾げきょとんとしている。ジョーは知っている?と聞いているということは、仲のよさが伺えた。ジョージは、首を横に振ると、そっかぁと言ってアンジェラは兄へと視線を向けた。さっきの言葉が気になったようで、じっと兄を見つめ始めた。
「あの、アンナ?」
「あぁ、興味をもったみたいなので、教えてあげてください。そんなに難しいこと
でもないでょ?」
「いや、でも、さすがに、まだ、早すぎないか?」
少しだけ頬を赤らめながら恥じらう兄。一体、何を説明するつもりなのだろうか?
オガミタオスが気になったのだから、それを教えてあげるだけなんだけど?
アンジェラと二人、同じ格好で小首を傾げると、兄が笑い始めた。
「親子だな……全く一緒だよ。仕草が」
「そうかな?」
さらにおじさん!とアンジェラが迫ると、あぁ、はいはいと今度はアンジェラを抱きかかえる。
もう慣れたのか、アンジェラは嫌がる素振りもなく素直に抱きついている。
「拝み倒すってね、お願いするをたくさんたくさんするんだよ!」
「サシャおじさんは、何か悪いことしたの?」
アンジェラの質問に今度は兄が首を傾げると、パパが、ママにごめんなさいしているときだからと返事が返ってきた。
それを聞いて、苦笑いする兄と、私たちのことをどこで何をどんなふうに見ているかわからないなと思わされるアンジェラの一言に、ドキッとさせられる。
ジョージアとは、仲良くしているつもりでも、そんな些細なことまでみられているのかと思うとなんだか恥ずかしく、私室以外ではもっと気を付けないといけないなと心に留めるのであった。
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