第557話 お迎えにあがりましてよ!Ⅱ
「……なんだか、怒られそうな雰囲気ね?」
ウィルがここまで駆けてきて、こっちを見たと思ったらキッと睨まれた。
そりゃそうだろう……門兵を投げ飛ばしたんだから、叱られるにきまっている。
「この門での上役は?」
ウィルの怒気をはらむ声に、野次馬のように集まってきていた街の人や門兵たちがビクリと体を震わせる。
いつもと様子が違うウィルに私も緊張した。
そこに遅くなりましたといつもの門兵が駆け寄ってくる。
「騒ぎになっているようだが、これは一体どういうことだ?」
「すみません、まだ、状況が掴めていなくて……」
「そこにいるのが原因か?公爵に対して何かしたのではないか?」
若い門兵は、ウィルに睨まれ怖かったのか後ろに下がっていく。
いい気味だとは思わない。私もこれから似たような状況になることはわかっている。
そして、ウィルの後ろに私がいるのを見たいつもの門兵は、私に対して申し訳ないと頭を下げる。
公爵が馬車で城へ来ているのに、馬車から降りていることはおかしなことであったからだ。
「アンナリーゼ様、この度はこちらが大変失礼なことをしてしまい大変申し訳ござい
ません」
「いいのよ。私も子どもが泣いてしまったから、感情的になってしまったのも悪いわ!」
「アンナリーゼ様、この度は、お手を煩わせてしまい誠に申し訳ございません。近衛
中隊長の私へこの門での事情聴取と罰則を預けていただだきたく存じます」
ウィルと門兵が深々と頭を下げる。それに伴い、周りで見ていた門兵たちも私に頭を下げた。
私に非がないかといえばなくもないし、門兵とはこれまでようにしてもらいたい。私は、ニッコリ笑いかけ、任せますとだけウィルに伝えると、寛大なお心、ありがとうございますと返ってきた。
いつものウィルとは全然違い、近衛として公爵への対応をしてくれている。
「ところで、門は通ってもいいかしら?兄を迎えに来たのよ」
「サシャ様をですか?」
「えぇ、お兄様、今年の社交はこちらですることになったから、アンバーの屋敷に
泊めて欲しいと連絡があったの。門にも公式に向かうと連絡は入れていたはず
だし……出していなかったかしら?」
「今日のアンナリーゼ様の訪問については、連絡をいただいています」
ほらね?と言うと、ウィルは私を責めることも出来ないので、馬車にエスコートしてくれ乗り込む。
出入口にアンジェラが、まだ、ぐずっていたので、ウィルが抱きかかえるとすぐに機嫌が直った。
「姫さん、あんまり騒ぎを起こすなよ?」
「うん、ごめん。ちょっと、やりすぎたなって思ってるよ……」
「原因は嬢ちゃんを泣かせたからか」
馬車に入ってきて小声で話すウィルは、アンジェラが泣いていたことに気付いた。
「それなら、仕方ないな。嬢ちゃん、もう笑ってるから大丈夫そうだ」
「えぇ、ウィルが来てくれて助かったわ。ところで、ウィルはなんでここに?」
「門兵が呼びに来てくれたんだよ。なんていうか、姫さんが入ったばかりの門兵に
何事か言われているって。姫さんが今投げ飛ばしたの、たぶん……姫さんに逆恨み
している元貴族の息子だからな。気をつけろ?」
わかった、ありがとう!とウィルにいうと、馬車から降りて行き、扉が閉められる。しばらくすると、馬車が揺れ動き始めた。
「アンジー大丈夫だった?」
「大丈夫!」
「そう、よかった……」
初めてのことで、泣いたくらいだからとても怖かったはずだ。馬車の中、大声で男性に罵られることなんて私ですら滅多にない。
貴族、それも公爵家を罵倒すれば、どうなるかなんて行く末がわかっているから、刑罰があるよりかはすり寄ってくる方が多い。
ウィルのいうような人物であれば、少しくらい憂さ晴らしに私くらい捻りあげられるだろうと考えていたのかもしれない。
残念なことに、私がそこそこ強いことを知らなかったようで、門兵には可哀想なことをした。
しばらくすると、馬車は停まる。近衛の訓練場へついたようだ。ウィルはさっきの後始末をしているだろうし、アンジェラを馬車から出して、訓練場の中へ入っていく。
すると、私を見つけた近衛たちがいつものように集まって来る。踏まれないようにアンジェラを抱きかかえた。
「アンナリーゼ様、お久しぶりです」
「お元気でしたか?」
「アンバーでの作業はどうですか?」
矢継ぎ早に質問が飛んでくるが、待ってほしい。
「こんちには!みんなは元気にしてた?」
私の質問には、はいとかおうとかあちこちから聞こえてくる。
ここに来ると、少しホッとした気持ちになった。よく遊んでいたのだ。温かく迎えてくれるこの場所は遊び場としてこれ以上ない程いい場所である。
「今日は、どうかされたのですか?」
聞きなれた女性の声が奥から聞こえてきたかと思うと、その前が開く。
中隊長セシリアである。
「お久しぶりね!セシリア」
「はい、お久しぶりす、アンナリーゼ様。私もアンバーへの派遣に手をあげたのです
けど、旦那様に却下されてしまいました……」
しょぼんとしている彼女は、中隊長というより年上のお姉さんである。
「ふふっ、それは、旦那様がアンバーなど遠いところへ、愛しいセシリアを向か
わせるのが辛いのでしょ?その気持ちわかるから、旦那様を責めちゃだめよ?」
「はい、そうですね。自慢の旦那様ですので!」
あらあらとからかっていると、向こうから聞こえる懐かしい声。
ちょっぴり情けない私を呼ぶ声にセシリアと笑いあってしまう。
「お兄様、ここですわ!」
「アンナ、アンナ―!」
近衛が何十も取り囲んでいる中、かき分けて輪の真ん中に入ってきた兄。
「お久しぶりですね?」
「待ったよ……場違いの場所で……」
日に余り当たらない兄は、少々白い。
ここにいるのは近衛であるため、体も鍛えているが日に当たっているのそこそこやけている。確かに兄は場違いだった。
「あっ!このこが、アンジェラかい?ジョージアに似て美人さんだね?」
そう言って兄がアンジェラに手を伸ばそうとした瞬間、何を思ったかペシンと兄の手を払いのけてしまった。
そんなぁ……と、落ち込む兄に初めて会うようなものだから仕方ないですよというとそっかといいつつ肩を落としているのであった。
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