第523話 謁見は、どうも面倒ごとの始まりな気が

 太陽が昇った事で、道も見えるようになったので、レナンテたちを公都に向けて駆けさせた。

 途中、休憩も挟みながら、早馬もビックリするくらい頑張ってくれたおかげで謁見の2時間前には、屋敷についた。

 屋敷の前でウィルとは別れ、玄関へと入っていくと今か今かと待っていたデリアと何故か待ち構えていたジョージアがいた。



「ただいま戻りました。次は謁見の用意ね!」

「「おかえりなさいませ、アンナ様」

「じゅ……」

「おかえり、アンナ」



 ジョージアが私を迎え入れているくれるのだが、何故か怒っているようだった。優しいトロっとした蜂蜜色の瞳は、なりを潜めている。



「ただいま戻りました、ジョージア様」

「うん、コーコナ領まで大変だったね?」



 労う言葉とは裏腹に、その声音にはチクチクと刺さる雰囲気を持っていた。

 私には身に覚えもなかったので、どうかしましたか?と尋ねると、やはり機嫌が悪い。

 ただ、そんなジョージアの機嫌に付き合ってあげられるほど、今日は時間がなかった。



「ジョージア様、謁見に行ってきてからでもよろしいですか?今から準備しないと

 間に合わないですから!失礼しますね!」

「それは、わかっているけど……」



 デリアには早くと急がされ、私はジョージアをほっておくわけにもいかず、どうしたものか悩んだ。

 何に怒っているかわかればいいのだが、それを考えている時間すらもったいない。

 私は、ジョージに対してよくやることをして、とりあえずその怒りを鎮めてもらおうと試みる。

 まず、馬に乗って早駆けしてきたこともあり、土埃だらけであった。なので、その場でパンパンと体中を叩き、多少綺麗になったことを確認してジョージアに抱きつく。

 不意をつかれたジョージアは驚いたようで、私を慌てて抱きとめる。

 首に腕を回し背伸びをすると、ジョージアの頬にキスをした。ジョージはここでどんなに怒っていても機嫌が直るのだが、ジョージアはそうはいかない。

 そのまま、耳元で囁くと、抱きしめていた私を解放してくれる。

 そのすきに、デリアのところまで行き小言を言われながら風呂場へと向かう。



「旦那様って……ちょろいですよね?」

「どうして?」

「さっきのアンナ様が何を囁いたのかは、なんとなくわかりますよ……

 明日はお休みですからね?」

「あら、ジョージア様はそれほどちょろくはないわよ!帰ってきたら……お小言とか

 を言われるのよ?」

「まぁ、それも、旦那様にとって大事なアンナ様だからということでしょう。

 さぁ、時間はありませんからね!準備にかかりますよ!」

「あっ!デリアもディルも明日はお休みにするから、そのつもりで!」

「えっ?」

「えっ?じゃない。ディルから、新婚ですからって苦情が来ているのよね!リアンも

 いる事だし、大丈夫だから!」



 私の言葉を聞き固まってしまうデリアに、早く早くと自分のことを棚にあげて言うとハッとしたようで用意をしてくれる。お風呂から出てホクホクしていたら、今度はリアンと二人がかりで磨かれ青紫薔薇のドレスを着せられる。

 公爵へと変貌した私は、慌ただしく、今度は城へ向かうため馬車に乗り込んだ。




 ◆◇◆◇◆




「よぉ!迎えに来たぞ!」



 馬車の小窓から覗くとウィルが中隊長の制服を来て馬に乗っていた。



「ごめんね、また……」

「いいさ、ミアは、また何処かに行くのかと少しぐずってたけど、レオがうまく

 宥めてくれたし」

「そう、レオにもミアにも悪いことしたわね……」

「俺んち両親が引退してるから、喜んで面倒見てくれてるみたいだし、仕事だから

 っていえば、理解出来ない年ではないから、大丈夫だよ」

「それにしたって、ウィルは本当に子どもたちに大事にされているわね。預けた

 とき、こんな未来になればいいなっていう理想があったけど……理想通りになって

 嬉しいわ!」



 ニコッと微笑むと城門へとつく。いつも徒歩で出歩く私であるが、今日はアンバー公爵家の馬車で行くのため、何も言われない。

 一応、中を見ることにはなっているので、センスで顔を半分隠したが、いつものおじさんだとわかると、これ差し入れねと紙袋を手渡す。



「異常なし!通って大丈夫です!」

「アンナリーゼ様に礼!」



 外からそんな声が聞こえた気がするが……何も反応をせずにいると呆れたと言葉が聞こえてきた。

 まぁ、誰が言っているかはわかるのであえて何も言わずにいる。




 ◆◇◆◇◆




 馬車が城の正門についたので、ウィルにエスコートされ降りる。

 そこから、謁見の間までは、文官につれられただただ静々と歩いて行く。



 謁見の間の手前で、文官が止まる。

 入ってもいいという連絡がないので、廊下で待ち続けた。

 扉の向こうから聞こえるのは、公妃の声のような気がするが、聞かなかったことにした。

 またか……とも思わなくないが、声がかかるまで中には入れないので、大人しく待っていると、中から疲れ切った宰相が出てきた。



「あ……アンナリーゼ様。お待ちでしたか……今、ちょっと取り込み中ですので……」



 大きく大きくため息をつく宰相がとても可哀想に見えてきた。出来ることなら、その面倒な任をといてあげたい程、気の毒である。



「宰相様、大丈夫ですか?」

「えぇ、大丈夫です。アンナリーゼ様にお会いするのは久しぶりですね」



 私はそれに頷くと、まだ時間がかかりそうですから、少し場所を変えてお話しませんか?と言う宰相にそうしましょうと促すと、近くにあった会議室へと誘われる。

 そこで、もうひとつ大きなため息をついて席を進めてくれたので、私は公からお呼びがかかるまで、少し宰相との時間を楽しむのであった。

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