第517話 コットンの答え

 静かな時間が過ぎていく。耳に聞こえるの頬を撫でていく生暖かい風の音だけであった。

 コットンは目を塞ぎ、さっきから考えている。



「アンナリーゼ様」

「何かしら?」

「俺だけでは、決められません。この辺の農家の代表を集めて話を聞いてから

 決めるとしてもいいですか?」

「もちろんよ!領主として、あなたたちが思う最善を聞きたい。私たちは、何を

 おいてもあなたたちの生活や命を大事にしたいのだから、話をきかせてくれる

 なら、その方が嬉しいわ!」



 私はコットンに笑いかけると、ありがとうございます、さっそく集合をといって呼びに行ってくれたようだった。

 時間のない、私に取って、すぐに動いてくれることで次の行動が取りやすくなる。

 私たちも準備をするべく席を用意って……ここに拠点がないことに気づき焦ると、落ち着けと声がかかった。

 ウィルは、こういう時いてくれると助かる。

 コーコナ領では、私はあまり出歩いてなかったので、拠点と呼べる場所を作っていなかった。まさか、こんなふうになるとは思ってもなかったので、どうしようか?とウィルに相談をすると、地べたに座ればいいんじゃないか?それか、コットンに頼むとか?と言い始めたので、私はコットンが帰ってくるのを待つことにした。


 しばらくすると、10人程の人を引き連れてコットンが帰ってきて、こちらにどうぞと連れて行ってくれた。

 とても大きな屋敷に連れて行ってもらい、客間に通される。

 私は、いつものように上座に通され、左にウィル、右にコットンが座し、他の者達も適当に席に着いた。



「あっ!あいつら、この前からでたらめ言ってた奴らじゃないか!」

「コットン、こんな奴ら、とっとと領地から追い出せ!」

「そこまでにしないか!説明をアンナリーゼ様からしてもらうことになっているだ。

 爺さんたちが騒いでも仕方がないだろ?」

「まぁ……そうじゃが……」

「そこに座っているのが?新しい領主様か?」



 おじいさんの一言で一気に注目を浴びる私は、ニコリと微笑む。こういう時、難しい顔をしても仕方がない。




「お初にお目にかかりますわ!アンナリーゼ・トロン・アンバーです。皆様には

 いつも領地への貢献感謝します!」

「けっ!女が領主だなんて聞いたことないぞ!」

「そうですわね?私も聞いたことはありませんわね?女王なら知らないわけでは

 ないですけど……領主の陰になって表舞台に立っていないだけで、領地の半分

 くらいは、ご婦人が采配を取っていらっしゃるって聞いたことがありますけどね?」



 ふふっと口元に手をあて微笑むと、さっきまで何か言いたそうにしている老人たちは、お互いの顔を見合わせていた。

 私のいう女王はもちろんハニーローズであるのだが、歴代のハニーローズは表に出ていないだけで、公を支えていたことは文献にも残っている。

 優秀さだけを言うのであれば、歴代のハニーローズは、国を治めていても何の問題もなかったであろう。アンバー公爵家に縛られていなければ、もっと活躍の場はあったのでは、ないだろうかと想わない日はなかった。

 彼女たちは、それで不満ではなかったのだろう。厄災と繁栄の象徴として語り継がれている彼女たちは、静かに暮らしたかった子たちも多かったように思う。

 能力がありすぎるから、借りだされてしまう。それも、公の都合のいいようにされて……

 国民が幸せに生活できるならと、権力に興味もなかったんだろう。



「それで、私の話は聞いてくれるかしら?」

「もちろんですが、ここにながいこと生きているのに、一度もそんなことはあり

 ませんでした。今更、そんな土石流があるだなんて思いましませんよ!」

「そうだ、そうだ!そんなこと起こるはずがない!」

「そうですか……残念です。過去や現在に起こっていないからって、未来に起こら

 ないとは、限らないわよね?実際に、調査の結果、地盤に何かしらの綻びが出て

 いる。水の貯水量が、異常なほど、多いのよ!」

「どういうことですか?」

「この領地のことは、それ程詳しいわけではないのだけど……今年、冬があけて

 からも日照時間が極端に少ないんじゃないかしら?蒸発する水分が少ないと見て

 いるの。あと、これは仮定なんだけど……山の整備ってしている人、いるかしら?」



 山の整備だって?誰かしてたか?去年、町はずれの爺さんなくなったんじゃなかったか?

 口々に話始めるおじいさんたち、コットンはわかるように話してくれというと、代表になったおじいさんが私へと口をひらいた。



「ここには、山の整備をしていたものがいました。今年の雪解け前に亡くなったん

 です。それと、何か関係があるんですか?」



 そういったおじいさんに持ち合わせる答えは私にはなかった。リアノへ視線を向けたが、専門外だと視線を下に向けられる。

 そこに扉ばんっ!と開かれる。驚いてそちらを見ると、簀巻きにされたアルカが連れてこられた。



「怪しいヤツが山をうろついていたので捕まえてきました!アンナリーゼ様、どうか……」

「……アルカ?」

「何ですか?アンナリーゼ様」



 物凄く不機嫌極まりないアルカが、こちらを睨んでいる。


 うん、不審者っぽいよね……その、スーツで山を歩き回るとか、不審者ですから捕まえてくださいと言っているような気がするわ。


 胸の内は、話さずに苦笑いして、縄を解くようにお願いした。

 領民からは、不服そうにされるが、この人物がいないと話は進まない。



「紹介するわ!アルカよ。水に関することの研究をしているの。さっきの話もアルカ

 から聞いた話よ!山の手入れが出来ていないことで、悲しい事故が起こるなら、

 起こらないように、私は最大限努力したいの」



 アルカに今まで調べてきたことの話をみなの前でさせる。

 ただ、不審者扱いをされ物凄く機嫌の悪いアルカをおだてながら、話をさせると……山が荒れていることが、原因の発端であることがわかった。同時にやはり天候不順が続いており、雪解け水や雨水、元々の貯水に流れ込んでくる水量が、山の貯水量をゆうに越えていることを知った。



「どうしましょうね?」



 わざとらしく悩まし気にため息をつくと、おずおずと手を伸ばし挙手をする一人の若者が、発言する。森林を、まず、手の空いているものからラ始めようかというのだ。

 全くもってありがたい話であった。それに便乗し、私たちはその日の話し合いはそれ以降順調に進むのであった。

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