第492話 10人の魔法使い20

 今日は、何をするかというと、麦の種まきの打ち合わせに同行することになっていた。

 ヨハンの改良した肥料もまきおわり、ちょうど土が落ち着いたころだという。



「アンナちゃん!」

「サラおばさん、今日はよろしくね!」

「こっちこそ、領主自らこんなところに来るなんてことないのに……」

「私が来たかった来ただけだから、気にしないで!」

「そうかい?珍しい領主もいたもんだね……って、この領地を綺麗にしたのは他でも

 ないアンナちゃんだったね……領主に見捨てられたなんて、今じゃとてもじゃ

 ないけど、言えないね!」



 そういってもらえると領主としても嬉しいわ!と微笑む。

 あれ以降もサラおばさんとの関係は、良好ではある。これもそれも、カルアが残していってくれた縁だと私は大事にしたいと考えていた。



「それで、今日は何だい?打ち合わせがしたいっていう話だったけど……」

「うん、昨日こっちにクレアっていう子が来たでしょ?」

「あぁ、物知りなお嬢さん!」

「そうそう!あの子、美味しい作物や野菜を作る研究をしているんだけど……また、

 サラおばさんに協力してもらえないかと思って……」

「なるほど……それで、詳しかったのかい!横についてた太っちょの男の子なん

 て、尻に敷かれっぱなしで可哀想だったけど……確かにおもしろい話を二人が

 していたのを聞いたよ!それで、打ち合わせってわけだね?」



 いいかな?と聞くと何を今更とサラおばさんは豪快に笑う。

 そして、私の背中をバシバシと叩くのでむせこんだ。



「コホコホ……」

「あぁ、すまなかったね……力が強すぎた」

「うぅん、いいの!じゃあ、クレアと打ち合わせにいきましょうか!」



 そういって、サラおばさんを広場へと誘う。

 簡易黒板を用意して、石筆で何か書いていたクレアは、私たちが近づいたことに気が付いたのか、こちらを振り向く。

 足元ではタガヤが何か言って、黒板を書き直す様に進言していた。

 自分で立って書け!と叱られるタガヤは、確かに可哀想だが……体型を見る限り、少々でも動いた方がいいだろうとクレアの優しさだと思えば微笑ましい。



「アンナリーゼ様!サラさん!」

「サラおばさんに協力のお願いしたから、何をしたいのか相談かけてくれる?

 私は、ここでそれを聞いているわ!」



 ちょこんと地べたに座り始める私を慌てて立たそうとするクレアに、大丈夫よと微笑む。

 お忍び用の汚れてもいい服を選んで着てきている。

 もちろん、明日は種まきもこっそり手伝うつもりだからもっと汚い恰好だ。

 サラおばさんは、私の最もみすぼらしい姿を見ているので何も言わないだろうが、初めて見たクレアは大慌てだった。



「始めてちょうだい!」

「……はい、本当にいいのですか?」

「えぇ、構わないわ!」

「その……デリアさんに怒られません?地べたに座ったりして……」

「うん、大丈夫よ!言わないから!みんな、しぃーね!って言っても、筒抜け

 だから……今更よね?」

「確かにアンナちゃん、2回目に会ったときは、顔中真っ黒だったし……ゴミや汚物

 掃除を物凄く頑張っていたもんね……あれから、もう1年以上たつんだ……

 早いものだね」



 サラおばさんは懐かしそうに話をすると、事情を知らないクレアとタガヤは驚いている。

 そのうち、広場で始めたのでみなが集まってきて、なんとなく周りに座り始めた。

 私がいたので、また、何かするのだろうとみな興味を持ったようである。



「あの、凄く人が集まってきたのですけど……」

「いつもこんなもんだから、気にしないで!私が始めたことにはみなが興味あるのよ!」



 はぁ……と、言いつつクレアは始めますよ!と教鞭を取り始める。



「みなさん、麦ってどうやってまいてますか?」

「適当にばらまいてる!他にやり方なんて、ねぇよな?」

「収穫量もおおいしよぉ?」



 クレアは、うんうんと頷いている。私もそれしか見たことが無かったのだが……他にあるのだろうか?クレアは、不敵に含み笑いをしていた。



「私の提案したいのは、一列にまくです!」

「一列にだぁ?んなことしたら……余っちまうじゃないか?」

「確かに間があく場所があります。でも、それって、適当にばらまいているときも

 起こってなかったですか?」

「うーん、あったような……なかったような……」

「あるんですよ!それに、適当にばらまくことで、根の張りも弱く栄養価にも

 バラツキがでてしまっています。それを、1列にすることで、成長も均一にする

 ことができ、さらに根の張りもよくすることが可能なのです!アンバー領の麦は

 とても美味しかった!

 それをもっと美味しくして、主食の麦で食卓を潤しませんか?」



 クレアの問いかけに、それぞれ顔を見合わせている。

 そこに、すっと手をあげるサラおばさん。



「美味しくなるって言うのは、ありがたいね。でもね、収穫量もなければ、この領地

 や他の領地で売る量が減ってします。その辺は、どうなんだい?」

「収穫量ですか?実が今より大きくなりますから、同等かもしくは増えますね!

 一列に並べることで、風通りも良くなるので、病気になりにくいですし、詰め

 すぎないことで、麦も一回り大きくなるはずです!

 フレイゼンでは、それで成功しています。こちらでは、2期作ができるという

 ので、1期だけでもお付き合いしていただければと、思うのですけど……」

「あぁ、私はアンナちゃんからの要請があったから、その実験付き合うよ!

 他のところとの差がみたい。それに付き合ってくれるところはあるかい?」

「んじゃ、おれんとこと比べてみたらいい。おんなじくらいの作付け面積だ!」

「じゃあ、そういうことで、いいかしら?種まきは、お掃除隊も参加するから、

 教えてあげて!あと、近衛もくるかも……他の地区でも応援に行ってもらう予定

 だから……」



 私たちの話し合いが終わり、納得するようにまとまった。

 これが、教授であるクレアの実力?なのだろうか。



 こんな感じで、他の魔法使いたちも快進撃が始まるのであった。

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