第477話 10人の魔法使いⅤ

 昨日は、とんと疲れた。

 執務室に一人になってからしばらく動けなくなり、心配したデリアが迎えに来てくれたくらいだ。

 ヨハンを知っているとはいえ、昨日来た三人、あれほど濃い人間が揃うものかと思うと、すごい人選を父も兄もしたもんだとクタっとする。



「おはようさんって、姫さんひっでぇー顔してんじゃん?」

「おはよ……ウィル。昨日はね、ちょっと疲れたの」

「あぁ、フレイゼンから、例の人たちが来たんだっけ?」

「そう……昨日は三人受入れしたの。今、この屋敷にいるのだけど、ウィルは

 会った?」

「一人だけ見かけたかな?姫さんがよく着ているようなワンピースを着た女装してる

 お兄さん。あれ、すごいな!筋肉ムキムキしてて、思わず見ちゃったよ!

 何したら、あぁ、なるわけ?」

「その人は、リアノっていうんだけど、設計を主にしてくれてるんだけど……土木

 工事もしてるらしい。現場監督とか、実際作業もしたりとか……」

「もしかして、カノタの師匠だったり?」

「そう、私、昨日初めて見て驚いた。カノタとのやり取りみて、さらに驚いた」

「俺も今聞いて驚いた。もっと真面目な人だと思ってたのに……いや、恰好がどうの

 ってわけもなくもないけどさ……カノタの話からして、勝手な想像してたけど……」

「だよね……昨日きた三人がなかなかの曲者で……疲れたよ……」

「昨日は、イチアも出てたんだろ?」



 私は頷くが、イチアもたぶん頭痛を起こしていたので、今日は最悪な状態でくるか、開き直っているかどちらかだろう。

 私は、最悪な状態で執務室でだれていた。



「出てた……イチアが私のいない間に手伝ってくれることになったのだけど……

 ちょっと、苦手な人がいて……」

「へぇ、姫さんでも苦手な人がいるなんて思いもいなかったわ!」

「いるわよ……お兄様みたいな頭でっかちが苦手……」



 へぇーと意外とウィルは笑う。



「なぁ、馬車が来たぞ?」

「今日、受入れの人かなぁ……?イチア、呼んでくる……」

「俺も出ようか?」

「お願い出来る?」

「って、言っても、俺、いるだけだよ?」

「うぅん、いてくれた方がいい。さてさて、今度は、どんな人が来るのかな?」

「姫さんは、知らないの?どんな人が来るって……」

「知らされてない。農業系の人がまずは欲しいって言ってあるんだけど……」

「まぁ、なんとかなるだろ。セバスもイチアもいるんだし。おっさんも手伝って

 くれるだろ?って、最近、おっさん見かけないな?」

「今、トワイスに行っているはずよ?」

「そうなんだ?何しに?」

「ハニーアンバー店が開店したから、その手伝い。ニコライだけだと、大変だから

 しばらく向こうにいるかな?」

「砂糖はいいの?」

「うん、もう農家さんに任せても大丈夫だよ!人手も足りているみたいだから、麦

 農家の方が、大変ね……リリーが手伝いに行ってくれてるけど……なんだか、

 あっちもこっちもリリーに任せっぱなしで申し訳なくなるわ」

「そんな言葉が姫さんから出るなんて……」



 茶化し始めるウィルをよそに、扉がノックされたので入出許可を出す。

 入ってきたのは、デリアと少し年の取ったひげを蓄えたおじいさんだった。



「アンナリーゼ様、フレイゼンからお越しです」

「ありがとう、デリア。どうぞ、おかけになって!」

「これは、これは、アンナリーゼ様。お初にお目にかかります。フレイゼン侯爵

 より、こちらへと移動を言われて参りましたスキナと申します」

「初めまして、スキナ!」



 どうぞと椅子を促すとそこにスキナは腰掛けた。

 イチアも聞きつけたのか、部屋に入ってきたので、四人で机を囲む。



「わた、私は……」

「いつものように話してくれたらいいわ!公のところ以外は特に言葉遣いを咎めた

 りしないから!」

「そうですかい?それじゃあ……ワシは農耕を専門にしておりまする」

「農耕?」

「畑に関してじゃな。畑の耕し方や、農機具の使い方。開発もしており……」

「農機具の開発も?それ、聞かせて!」



 私が話に乗ると、ふぉっふぉっふぉっと笑いひげを撫でるスキナ。



「そんなものに興味があるのかい?」

「えぇ、この領地の農作物を作るにあたって、作業する人がやりやすいようになると

 いいなって思っていたの。農機具って、その中でも手を加えたいと思っていた

 分野なのよ!

 私は、あまり詳しくないのだけど……使い勝手のいい農機具を作ることって、

 農業に携わる人だけでなく、農機具を作る人にもうま味があるから……」

「姫さん、ちょっと……うま味なんか言っていいわけ?お金儲けの話になってる

 から……」



 ウィルに窘められると、またスキナに笑われてしまった。

 スキナの瞳は、純粋に私に興味があるというふうで、じっと見つめられる。



「さすが、フレイゼンの娘ということじゃろうかな?」

「どういうこと?」

「アンナリーゼ様の父君がワシを救いあげてくれたのじゃがな……ワシの研究何ぞ、

 誰も見向きもしなかったんじゃ。

 まさか、親子で、ワシの研究を農機具の利便性を考えてくれるとは思いもおら

 なんだ。父君にここに来るよう言われたときは、残念な気持ちになったもの

 じゃが、ここには、大いにおもしろい娘さんがおるのじゃな。

 これは、楽しみじゃ!」

「そう?それなら嬉しいわ!無駄なものにはお金は出さないけど、どんどん設計図は

 出してみて!その中で、採用できそうなものとか、使ってみたいっていう要望が

 あれば試作品を作ったり、試作品を使ってくれる農家さんを紹介してもいいから!

 あと、教壇に立ってほしいわね!この領地では、学ぶ機会を領民にも与えようと

 思っているの。その学校の先生になってくれないかしら?」



 ほう、またおもしろいことをと微笑むスキナ。

 人好きしそうなスキナには、たぶん適任なのではないだろうか?

 クレアと一緒に授業をしてもらえるとおもしろい研究成果がでそうだと考える。



 よく考えて見たら……一人一人と相対するとその分野のみの研究者が集まってきたように思うが、ちゃんと横のつながりがあるように見えてきた。

 それさえ導ければ……とてつもなくいい人選がなされているように思える。

 ただ、性格には難ありな人が多いような気がするのは、昨日の三人のせいではないだろうと願いたい。

 あと六人の受入れも、おもしろい人材であることを願うばかりだ。

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