第424話 未来ある領地の若者

 ボンゴレを食べ終わり、私たちは美味しい紅茶で一息入れた。

 私は、目の前にホットミルクが置かれ、ふぅふぅと冷ましているところだ。



「お腹も満たされたし……再開してもいいかしら?」

「そうですね。始めましょうか!」

「アンナちゃん、美味しいランチをありがとう。こんなに、美味しいボンゴレは、

 初めてだったよ!」



 ワンダは、御馳走したボンゴレを美味しかったと言ってくれたので、私は微笑む。



「料理長に言っておくわ!私もこんな美味しいのは初めてなの!」

「聞いてもいいかい?」

「何かしら?私に答えられること?」



 ワンダの質問に私は小首を傾げると、微笑まれた。



「アンナちゃんは、いつもこんなふうにみなとご飯を共にしているのかい?」

「ジョージア様がいないときは、いつもそうね!公都のお屋敷から始まっているのだ

 けど、一人で食べる ご飯ほど美味しくないものはないわ!

 だから、侍従たちにまざって賄いを食べているわよ?」

「賄い……」

「イメージが違うかしら?ちゃんとコース料理も食べられるわよ!

 でも、こうやって、大勢で食卓を囲む方が好きだし、美味しいもの!

 今日のは、お客様用に作ってもらったものだけど、基本的に侍従たちは、私たち

 貴族が食べた後の残り物を食べるのが普通なのよ」

「そうなのかぇ?」

「うん。私たちはこれからまた話し合いを再開するけど、侍従たちは今からお昼を

 食べるのよ!」



 貴族のイメージがあっただろうが、私の話を聞いてワンダたちは驚いていた。



「公爵様はもっといいものを食べているのかと思っていました……確かにお子様の

 誕生日のときに振る舞っていただいた料理は、少し高級でなかなか食べられない

 ものでしたが、わしたちが普段から目にしているものばかりでしたな」

「ピュール……そういう貴族もいるわ!ここに集まっている貴族がちょっと変わって

 いるだけともいうんだけどね?アンバー復興のためにお金を使わなくてはいけない

 し、安いものでも調理の仕方で最高級の食材にも勝ることだってあるわよ!

 領地で作れば、その分値段も抑えられるから!」

「あの……貴族って……」

「えっと、私は知っての通り公爵ね。セバスは、一代限りの男爵よ。

 あとは、ノクトが元公爵ね!

 この中で、位だけなら、ノクトの肩書が1番上かしら?」

「あぁ、そうかもしれんな。もぅ、捨てたからいいけどな!」

「と、言いますと?」

「皇弟よ!」

「なんですと!」

「みなさん、平然とされてますけど……」

「そんなに恐縮することなんてないわ!だって、今は私の部下だもの。

 クワ持って畑耕しているわよ!領地に砂糖畑作ったの知っているかしら?」

「えぇ、もしかして、あの畑で1番張り切ってクワで畑を耕していた人だったり

 しますか?」



 私はノクトを見れば、ノクトもこっちを見てくる。

 なんか、否定できなさそうな話なので、私は自分で答えるよう視線で促した。



「たぶん、そうじゃないかな?俺、結構がんばってたし……あぁ、そうだ!

 忘れてたけど、褒めろ、アンナ!」



 公爵になるために走り回っていたこともありすっかり忘れていたが、そういえば、砂糖を作るために協力してくれていた農家や砂糖を作ってくれた職人にお礼をしていないことに気づいた。遅くなってしまったが、後で、何か差し入れておこう。


 私たちのやり取りに目をぱちくりさせている。

 まぁ、私たちはこんな感じの寄せ集めであるから、うまくいってくる部分もあるのだ。



「驚いたでしょ?私たち、みんなここに集まった事情が違うのよね!」

「まぁ、みんなアンナに惹かれて集まったってことだけは確かだな!」



 ノクトがニッと笑えば、ワンダたちも納得したようだった。

 私、磁石か何かなのかしら?と首を傾げるけど、みなの笑いを誘った。



「アンナちゃんの人柄なら、惹きつけられる人がいてもおかしくはないな」



 ワンダの一言は、みなの賛同を得たようであった。



「仕事の話をするって言って、ずいぶん脱線したようだから、元に戻しましょう!

 石灰を作るための貝殻はなんとかなるかもしれないけど、交渉するまで、待って

 いてくれるかしら?」

「えぇ、それはもちろんです!」

「カノタ、あといるものは?」

「橋の設計図ですね。もうすぐ、フレイゼンから師匠が来てくれるはずなので、

 そちらをあてにしようかと……」

「カノタは、設計図をかかないの?」

「さすがに……」

「案くらいは作っておきなさい!フレイゼンからの受入れはもう少し先になりそうだ

 から、自分なりに考えてみてもいいと思うわ!」

「なぜ、そう思うのです?師匠が作れば、簡単にできます!」

「それじゃ、カノタは、師匠に頼りっぱなしで、自分は成長しなくてもいいと思って

 いるの?」

「いえ、そういうわけでは……」

「じゃあ、やりなさい!あなたの師匠は私の呼びかけで来てくれるけど、所詮よそ

 者。アンバー領に住むカノタが、領地のみんなに使って欲しいものを創造してみな

 さい。それは、あなたの成長にもなる。ダメなところを師匠がきっと補ってくれる

 から。言っておくけど、弟子の未来を潰すような人は、受入れないから!

 カノタの師匠は、そういう人ではないでしょ?失敗してもいいの。まだ、図案なん

 だから。

 弟子がアンバーの領民を思って作ったもので師匠の心をうてるものを考えてみて」

「……わかりました。やってみます!」



 俯き加減だったカノタも今では私の目を見て頷いている。

 それでいいのだ。

 アンバー領は、俯いている領民が圧倒的に多かった。

 少しでも、顔をあげるきっかけになる出来事を広めていきたいし、未来あるカノタの可能性も広がるだろう。



「街道の穴掘りは、どのみち進めて行った方がいいわね!お掃除隊に声をかけてみま

 しょうか。農家の方も、春に向けて時間が余っているようだったら、声をかけ

 ましょう。どこから始めるかしら?」

「石切の町からお願いします!実験的にもなりますし、材料も揃っているので……」

「わかったわ!あと、ひとつ提案なのだけど……」

「なんでしょうか?」

「溝は定期的にお掃除ができるように蓋になるといいわね!」

「蓋ですか?わかりました。その辺も少し考えてみます!」

「うん、よろしくね!

 ピュール、石切の町の方でも手伝える人がいれば、声をかけてくれるかしら?

 コンクリートでって話もあったけど、それって、何か作業があるような気が

 するし……」

「たぶん、型を作らないとダメなんじゃないですかね?」

「型ね……流し込んでってことだよね?」

「えぇ、その辺については、町に帰ってから詳しいヤツがいないか、聞いて回り

 ます。石切の町というだけあって、そういうのにも詳しいヤツは、何処かには

 いるので」

「それは、頼もしいわ!また、何かわかったら、教えてちょうだい!」

「わかりました!石畳のほうももうすぐ予定枚数は全て終わるので、そうしたら、

 他にも手伝えることがあると思いますので、呼んでください!」



 今日はここまでということになり、気がついたら日が傾き始めていた。

 秋も深まってきたとはいえ、長々と話をしていたようだ。

 なんにしても、止まっていた改革が動き始める。

 それは、とても、胸躍る楽しい出来事だ。



 3日後、隣国バニッシュ領から手紙が届く。

 明後日、こちらを訪問したいとの旨が書かれており、私はノクト達を招集して、バニッシュ子爵との有意義な話し合いについて打ち合わせをするのであった。

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