第378話 届けてほしいものと届いたもの
「ジョージア様は、先に寝てください」
領地での話を聞き終え、当たり前のようにジョージアを執務室から追い出そうとした。
「アンナは、まだ寝ないのかい?」
「私は、明日、ジョージア様が帰るときに持っていってもらうために、セバスに
手紙を書かないといけないので……」
一緒に眠るつもりだったのか、驚いていた。
「明日、俺はやっぱり帰らないとダメかな?」
「そうですね、これほど人が集まってしまっては、ジョージア様を守れませんから
領地か、公都の屋敷に戻っていただく必要がありますよ!
ディルに警護を手配してもらいますから、お帰りください」
昼間の騒ぎを思い出しているのだろう。
幸いしたのは、ジョージア単身で来てくれたこと。
アンジェラやジョージが一緒に来ていたなら、もっと大変であった。
子どもたちの相手もしつつ、人数の少ないこの屋敷で警備までとなったら、とてもじゃないが人手不足だ。
まして、紛い物の公爵である私や公爵家の血筋とは離れているジョージならともかく、ジョージアとアンジェラは本物の公爵の家系。
とりわけ、アンジェラはあの大規模な断罪の発端ともなった子どもなのだ。
また、命を狙われるようなことがあったら……と思うと気が重い。
もう、出来ることなら人が死ぬことは避けたかった。
「わかった。考えなしで、悪かったね」
「いいえ、心配して来てくれたこと、嬉しく思ってますよ!ありがとう!」
首に腕を回し、少し背伸びをしてジョージアの頬にキスをする。
それがこの部屋から追い出すための合図だと気付いたのか、そのままジョージアは寝室へと向かってくれた。
「おやすみなさい!」
「あぁ、おやすみ。あまり遅くならないように」
「いつもと逆ですね!」
笑って執務室からジョージアを追い出し、私は机に向かう。
アンジェラや領地の話を聞いて、余計に領地が恋しくなった。
少しずつ変わっていくアンバー領を私はとても気に入っている。
みなの知恵と協力の下、目指す領地像に近づいていっていることはとても嬉しかった。
「あぁ、早く帰りたい!」
「まだ、執務しているのか?」
視線を上げると、ノクトがいた。
夜の見回りをしてくれているのだろう。
「お勤めごくろうさん!」
「本当だな……旦那にはよく言い聞かせておいてくれ!」
私はふふっと笑うと、怪訝な顔をされる。
「私がジョージア様にそんなにきつく言えると思ってる?」
「思ってない。旦那には激甘だからな……」
「あぁ、バレてたの?」
「当たり前だ!剣すら向けたことないだろ?」
私はどうだったろうと思いに耽る。
そういえば……と思い出したので、披露することなった。
「あるのか?」
「剣じゃないけど、ナイフならあるわよ!」
「ナイフ?」
「そう、まだ、ノクトがこっちに来る前だったかなぁ?
ジョージア様とはね、別居してたの。そのときにおいたして、ナイフで長かった
髪をバッサリ切っちゃったわ!」
「アンナよ……旦那は大事にしてやれ。そもそも、男女逆転で生まれたんじゃ
ないか?」
「やっぱり?私もたまに思うのよね……お兄様も大人しいのよ。
でも、私は私が好きだわ!だから、今のままでいいのよ!」
おかしそうに笑うとノクトまで笑い始める。
「確かにアンナがアンナでなければ、俺もここにはいなかったからな。
おもしろいおもちゃを見つけた気分だったが、まさに正解だった」
「おもしろいおもちゃってひどくない?」
「爵位すててまで来てんだ、それなりのものは必要だろ?」
「それなりのものが、私でおもしろいおもちゃ?そんなの嫌よ?」
冗談だとわかっていてこんなふうに話せるのは、ノクトの気遣いだろう。
ジョージアがこの屋敷にいたことで、多少なりの気を使っているのは確かである。
「じゃあ、早いうちに寝ろよ?旦那もどうせベッドで寝られないと嘆いている
だろうし」
「安眠枕か、私は……」
部屋から出ていくノクトを見送る。
やっと、セバス宛の手紙を書き始めたのは、夜もだいぶ深まった頃であった。
◆◇◆◇◆
「起こしましたか?」
「いや、待ってたから……」
いつも、この時間くらいまではジョージアは起きている。
寝室に置いてあった私が書いた今後の予定を見ていたようだ。
「ジョージア様、それ、私の領地事業計画書ですよね?」
「あ……あぁ、そうだね。俺、ここまで書かれた事業計画なんて見たことないよ。
色々考えているんだね……」
「そうですね、それだけ考えても、準備しても成ってしまえば一瞬なんですよね。
今、領地で育っている麦や砂糖は、アンバー領の強みになりますし、コーコナ領
の綿花や養蚕にしても国中に求められる……そんなものになりますわ!」
「領地内だけでなく、領地外、さらに広げて国中、もっと広げてトワイスや
エルドアへ出していって、そこからお金の流通をさせる。
そのお金で領地を発展させるか……領地内が整えば、ちょっと外に目を向け、
領地から公都までの道を便利にする。
ここまで先を見据えていろいろなアイデアが出ているなんて……俺はアンナの
足元にも及ばないな」
「そうですか?ジョージア様の知識が無ければ、このあたりは思いつきもしな
かったですよ?私たちは持ちつ持たれつの関係でいいと思いますよ!
友人たちには……頼ってばかりですけどね。そろそろ、寝ましょうか?」
ジョージアに微笑むと、計画書を閉じ明かりを消した。
「おやすみ、アンナ」
「はい、ジョージア様もおやすみなさい……」
◇◆◇◆◇
ぐっすり眠った朝。
安眠枕は私ではなくジョージアの方ではないのかと考え始めたことは胸の内にそっとしまっておく。
「おはよ、デリア」
朝の支度をするために来てくれていたデリアに声をかけ、整えてもらう。
私のいないことに気付いたのか、のそのそとジョージアが起きる。
「もう、朝……?」
「おはよう、ジョージア様。早いですね?」
「おはよ……アンナ。最近、朝、早いんだ……アンジェラに起こされる」
「そうなのですか?」
「アンナと一緒で朝型みたいで、一緒に寝てると起こされるんだ。
おかげで、最近早く寝てしまうんだ……」
「今日は、もう少しゆっくりしていてもいいですよ?」
ジョージアに微笑むと、首を横に振り朝の支度に取り掛かる。
「アンナと朝食取りたいから、起きるよ。早く帰らないと行けないだろ?
今日は、公都の屋敷に戻るから領地へ戻るのは、4日後とかになるかな……
公都に戻って話はつけておくよ!」
「お願いできますか?まだしばらく、帰れそうにないので」
「わかったよ!無理はしないようにね」
労わってくれることが、こんなに嬉しいのか……私は、ジョージアが来てくれたことに感謝をする。
「アンナ様、荷物が届いたのですけど?」
朝食を取るためにジョージアと机を挟んで向き合っていると、デリアが一抱えの箱を持ってきてくれた。
朝早くから、荷物がくることに驚く。
ちなみに、荷物を運んでくれたのは、エレーナが旦那と一緒に経営している運送業を使ってくれているらしい。
そもそも、この国で運送業へ仕事を手配してくれる人はかなり限定されるのだ。
誰かが嬉しいことをしてくれたと、私の口元は綻ぶ。
「誰からかしら?」
「箱には、何も書いてないですね……」
デリアが箱を開くと、中にはこちらの布でできたワンピースが入っていた。
中に手紙が入っており、ナタリーから送られてきたのだ。
「ナタリー……」
私は箱の中から1着を出し、ギュっと抱きしめる。
くしゃっとなった、ワンピースは肌触りがよく、これから夏に向けてとてもいい色合いをしている。
「さすがですね、ナタリー様の選ぶ布は、アンナ様によく似合うものばかりですよ!」
デリアに言われ、他の服も中から出すと、スカートやブラウスなど、可愛らしかった。
「アンナによく似合うね。それを来た姿を見れずに帰るのが寂しいよ!」
ジョージアが少し肩を落とすので、またいつでも見せてあげますよ!と笑う。
それより、ナタリーから送られて来たことに胸躍らせる。
嫌われていない……私、お礼の手紙を書かないと!思いたってナタリーにも手紙を書く。
「ジョージア様……」
「ナタリーとセバスに渡して欲しいんだろ?」
「えぇ、お願いしてもいいかな?」
あぁ、と色よい返事をしてもらえたので、感謝をして二人分の手紙を預かってくれた。
今朝から嬉しくて仕方がなかい出来事だ。
ナタリーは、元気にしているかな……?思いを馳せジョージアを公都へと見送るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます