第363話 見つけたの?

「それじゃ、ちゃちゃっと報告を終わらせて、俺は修復作業に行ってくる」

「わかったけど、報告はちゃんとしてね?」

「あぁ、そりゃ、姫さんが望む報告をしてやるさ!」



 姫さんと呼ばれムスッとしてノクトを睨むと、そんな顔しても可愛いだけだとからかわれてしまった。

 なんだか、ノクトの掌の上で転がされているようで悔しい。



「それで、見つけたの?」

「あぁ、見つけた。養蚕をやっているのはこの領地では3軒だそうだ。

 そのうちの1つは、事業として大きめにしているが、それもなかなか今のご時世、

 続けるのが難しいと言っている」

「私が後ろについたとしても、それは、難しいかしら?」

「まず、養蚕って蚕のふ化をすることは別になるんだと。俺も初めて知ったけど

 なぁ……奥が深いな。蚕を飼い、繭を作るまでが養蚕でするところだそうだ。

 その次に、繭を糸にする製糸があり、そのあと布にするそうで、アンナのドレス

 1つ作るのに大体、3000から5000の繭が必要になるそうだ」

「そんなに……シルクを使ったドレスって、貴重ね?」

「だからこそ、上級貴族に高く売れる。しかし、養蚕は末端の仕事だ。

 手元に入る実入りも……」

「少ないというわけか。適正価格で買い取ったとしても、末端まで降りていくと

 工程が多いほど、金額も少なくなるわね」

「そういうことだ。昨日訪ねたところは、500万匹を育てているとは言っていたが、

 それでは、採算が取りにくいそうだ」

「例えば、蚕の繭の糸が少しでも多くなったりすると、いいわよね?」

「そりゃな?1匹で2、3匹分の繭が取れれば……」

「品種改良の話をしてみるのもいいかもしれないわね。それにしても時間が

 かかる」

「そういうことだ。それには時間も金も労力もかかるわけだ」



 なるほどと、私は考え込む。

 品種改良がうまくできたとしても年単位での掛け合わせだのなんだのとしないといけないわけで、それまでに、養蚕が無くなってしまうかもしれない。

 それは、本末転倒な話だなと思える。これは、慎重に進めないといけない案件のようだった。



「繭にさえなれば、あとはなんとかなりそうなんだがな……

 綿工場にも寄ってきたから、そこで作っているものをもらってきた。

 品質には、特に問題もなく、肌触りもいい」



 執務机の上に置かれた布を手に取ると、確かに今までさわった布製品の中でも一番と言っていいほど、上質である。



「こっちは、すぐにでもいいかもしれないわね?」

「綿花については、僕から……」



 ニコライに頷くと説明が始まる。



「綿花農業は、意外と盛んらしく、この領地では7割が今は綿花を作っているそう

 です。小麦にしても、温暖な気候な上、土がいいらしくよく育つそうで、領地内の

 主食なら補えてしまえるくらいは、取れ高があるようです。

 なので、余った土地を綿花畑にかえ、量産しているようですね。

 また、加工技術もさることながら、今手に取っている布で普通の素材らしいです。

 最上級くらいのものになると、シルクにも及ばない程の肌触りだとか……

 さすがに、そちらは単価が高いからってくれませんでしたが、作られたものを

 見る限りでは、アンナリーゼ様の普段着にも十分使えるかと。

 それに、たくさん作れるので、綿花素材の布は、単価もわりと安めで買えそう

 です」

「例えばなんだけど、ナタリーが展開させようとしている計画があるじゃない?

 同じ服の量産をして、領地外にも売り出してみようと思うって。

 ハニーアンバーが作ったものだとわかるようにしてと」

「あれですね。

 ナタリー様が言っていたお話、確かにここの領地の布地を使えば、安価であって

 も、手触りがいいから着てくれる人が増えるかもしれませんね!」

「そうだよね……ニコライ、お金渡すから、布地の調達してくれるかしら?

 ナタリーに送って反応見てみることにするわ!」

「それがいいかもしれませんね!」



 売る側のニコライは、大いに気に入ったらしい布地を作る側のナタリーが気に入れば、直送手配をすればいい。

 それで、安価に服を作って売れれば、これもひとつの産業となるわけだ。

 今は、私のドレスを作ることに専念していたのだが、領民が手に取りやすい服を作りたいと言っていたナタリーに手を貸すにはいい話であった。



「あと、染めもなかなかの技術があるようです」

「染め?」



 聞きなれない言葉に私は首をかしげる。

 こちらも布をもらってきてくれたので、私の目の前に置いてくれた。

 水玉のような模様ができていたり、花のような模様ができている。



「これが染め?」

「染めは、この周りの色です。

 これは、応用してあり、水玉模様が入っております」

「なるほど……鮮やかな色ね」

「この布地には、色が馴染みやすいそうです。なので、色も鮮やかになるのだ

 とか……」



 布をひっくり返したりしながら、あっちやこっちを見ている。

 それにしても綺麗に丸く色抜きされているのがおもしろくて、どうなっているの知りたくなった。



「ねぇ?この白丸はどうやってするの?」

「特殊なのりを使うそうです。すると、そこだけ色がはじかれてしまうようで、

 その後、洗う作業でのりがとれるそうですよ。するとそんなふうな模様になるの

 だとか……」



 へぇーっと感嘆してしまう。

 今までは無地の生地に刺繍がされたり、レースが重ねられたりとしていたが、この赤い布に水玉模様がとても可愛らしい。

 これで、ワンピースとか作ってほしいなとか、思ってしまった。



「ねぇ、ニコライ」

「なんでしょうか?」

「この柄って他にもあるのかしら?」

「まだ、水玉模様しかないようです。ただ、これからは増えるかもしれないという話

 でした」

「それは、何故?」

「型があるようなのですが、それを作ってくれる職人がいなかったのだとか……」

「なるほどね……じゃあさぁ?」

「今度は何を思いついたのですか?」

「そののりを何工程かにわけたら、こういうのもできるかしら?」



 さらさらっと絵に起こしていく。

 私は絵も苦手なので、ぼんやりと大きく薔薇を描き、さらに少し小ぶりの薔薇を描く。

 それを5枚ほど描いたら、適当にちぎっていった。

 興味深そうにニコライは覗き込んでくるが、私は作業を続ける。

 青い絵の具とかあるといいのだけど……というと、すっと出てきて驚いた。



「えっ?」

「絵具です」

「あ……ありがとう、デリア」



 いつのまに側にいたのか、どこかで持ってきてくれた絵具と筆を渡してくれた。

 私はちぎった薔薇のふちに適当に青の絵の具に白を混ぜてを塗る。

 それを繰り返して、段々と濃い青へとなるように重ねていく。



「あぁ、なるほど……」

「わかってくれた?」

「えぇ、そういうことなんですね。これは、出来ると……おもしろそうだ」



 最後に、白い紙の上に重ねた青薔薇を載せたら完成である。



「こんな感じのものとかできるかしら?私、今、適当に話しているから……

 ナタリーに聞けば、もっと面白いものになるかもしれないけど……

 これを夜会用のドレスとして作って、私が着れば流行るかしらね?

 ちょっと、この辺にレースも使えば豪華に見えるし、地紋に使ってもいいかも

 しれないわ!

 ただの白いところに、真っ白じゃなくて……こんなふうに縁取りを付けて、

 さりげなく模様をつけたり……今までにない感じしない?」

「確かに、主流は刺繍にレースだ。

 これは、なかなか面白いドレスになりそうだな……ナタリー様をこちらにお呼び

 したいですね!これは、是非とも意見がききたい!」

「ダドリー男爵は、これには気づいていたのかしら?」

「いいえ、これには気づいてないと思いますよ。

 ドレスは基本的に女性の方が気になさいますからね。いくらおしゃれな男爵と

 言えど、ここまでの発想はなかったかと……」



 私はノクトとニコライを見て頷きあうと、早速ナタリーに手紙を書くわ!と約束をして、報告を終了とした。


 その後は、それぞれお手伝いへと行き、私はまた、隠し部屋へと潜ることにした。

 動き回れない今、私の最大の知識の泉は男爵が書き残した本や日記しかない。

 男爵と私は、意外と似通った考えの持ち主だったようで、同じような考えがわいていることもあった。

 明確に違うのは、潤沢な資金があるかどうかだけである。

 男爵にお金があれば、この領地の発展は目まぐるしかったことだろう。


 成し遂げられなかったことを代わりにしてあげるわ!と私は日記を読み進めて行くのであった。

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