第336話 楽園に降り立った招かざるものⅩ
あれから私の提供した情報の精査を四人でしていく。
主に確認したところは、ダドリー男爵の血縁がどこに誰がいて、どの貴族を関係づけて捕縛して誰をどの刑に処すかという話になった。
もちろん、私が調べたことは、ダドリー男爵の背後関係も含まれているので、芋づる式にあれやこれやが出てくることも多く、まとめたものですら精査するのに時間がかかった。
まず、背後関係から整理することにした。
公より一代限りの爵位を得ているものに関しては、当たり前だが、爵位取り消し。
文官や近衛の関与があった場合は、役職も最低の見習いまで落とすことになる。
もちろん、何をしたのかも城内外へ明確に発表することになるので、それによって、何をしたが同僚たちや国民にわかり、居づらくなるだろう。
甘い汁を少しでも吸っていたのだから……仕方るまい。
その後、自主退職は認めず、無給にて1ヶ月後クビとすることにした。
これが、一番軽い罪のものだ。
爵位の継げない貴族が多いのだ、実家に帰ることも出来ず、今後生きていくのに苦労するだろう。
城内だけでなく、国内中に周知するすることにしたのだから……
当たり前だが、今回の断罪では、そこそこ高官になっているものが多いのだ。
上の席が空き、喜んでいる人ももちろんいるだろう。
まぁ、席が空いたとしても、椅子取りゲームで望んだ人が座れるかは、また、別の話である。
次に関係した貴族だ。
第三妃擁立しようとしていた公爵家は、まず、爵位の降下を考えている。
領地も一部返還するよう求めると公とは話ができているようだ。
その他にもたくさんの貴族が、上位貴族がダドリー男爵に取り込まれていることがわかっているのだ。
それの処遇としては、領地再編と当主交代とし、現当主が政治や領地に関して一切の裁可権限も口出しもしてはならぬとした。
ちなみに、当主については、公より任命するため、勝手に決めることができない。
現当主と考えが似通ったものや、いのままに操れるものが当主となってしまうことを避けるためである。
爵位は残るが、公の直轄地となる場合もあるとのことだった。
「しかし、何度見てもこんな情報量をよくまとめてあるな……
全部、アンナリーゼの字であろう?」
「そういえば、そうだな?」
「姫さんってバカなのに、綺麗にまとめてあるよ」
あの……ウィル?バカは余分じゃないかな……?
じっとウィルを見つめると、ん?って何食わぬ顔でウィルは見つめ返してきた。
「まとめるくらいなら……私でもできるよ?そういう訓練をずっと受けてきた
から」
「でも、勉強はできなかったじゃん?姫さんの王子様のハリー君にずっと教えて
もらっていたのにさ?」
「う……うるさい!能ある鷹は爪を隠すのよ!」
ウィルに勉強ができなかったことを暴露され、赤くなる私。
勉強はできるにこしたことはないけど……苦手なこともあるのだ。
じゃあ、領地に関することは勉強に入らないのかって言われると……おもしろいことなので何も考えなくても学校の授業に比べれば幾分か入ってきやすい。
それでも、イチアに比べたら、何倍もの時間を有しても追いつけていない。
軍師イチアの頭の図書館は、私のためにある図書館と司書になりつつある。
領地の勉強と学園の勉強、それだけの違いであるのだが……それが、不思議でならないらしい。
私も領地運営がこれだけできるなら、勉強もできればよかったのにとは思う。
実際問題、ジョージアが教えてくれた期間に関しては、学園の勉強もとても優秀な成績だったのだ。
私の成績の急上昇と急降下に周りが驚いたくらいだった。
「なんだ?アンナリーゼは勉強ができなかったのか?」
「うるさいですよ!公世子様。中の上くらいにはいました!」
「いや、姫さん、中の中だったぞ?」
「……万年2位め……」
「ウィルは、できたのか?」
「おう、俺、勉強はできたぞ!ノクトも出来ただろ?こんだけ頭がまわるんだし」
「あぁ、勉強はできたな。もう遥か昔だが、1位だったな」
うぅ……さらに面目ない私は、小さく小さくなっていく。
一縷の望みとして、公世子の方を見ると、満面の笑みである……
あぁ……勉強、出来たんだと思うと何も言えなかった。
「まぁ、勉強は将来の国や領地運営のとっかかりみたいなもんだからな。
できなくても、これだけの領地をしっかり導いていけるだけの度量はあるん
だから、それでいいんじゃないか?」
「ノクト……褒めてない……うちの……フレイゼン一族で勉強ができなかった
のは、私だけなのよ。
あの、女王様でさえ、学年で1桁の順位を誇っていたんだから……」
「あぁ、姫さんのお母様な……姫さん、母親似だとは思ってたけど、勉強面だけは、
誰にも似なかったのか?」
「そうね……領地運営とかは父が教えてくれたし、剣術や体術とかは母が教えて
くれたけど……勉強はハリーに教えてもらっていて、お兄様も教えてくれてた
けどお手上げで、からっきしダメだったんだよね……」
「でも、1回だけ、1桁あったじゃん!ケーキ食べに行ったやつ!」
「あれは……ジョージア様が付きっ切りで教えてくれて……」
公世子、ウィル、ノクト、エリックまでもが、訳知り顔であぁと呟いている。
なにさ!勉強ができなくても、出来る人がやってくれたらいいんだから、私は、領地に関する勉強を引き続きしていくし、細かいところは、セバスやイチアがちゃんと練ってくれるはずだから……
私、ふんぞり返って、この椅子に座っていたらいいだけのはずだと、みなからの視線を受けながらも、知らぬ顔をする。
「もう、この話、おしまい!!!
で、ダドリー男爵家の一族捕縛者についてなんだけど……」
「逃げた……」
「逃げてない!!」
ウィルに逃げたと言われ悔しかったが、私は次の話と振っていく。
「ダドリー男爵の系譜はこの前の家系図が役立つな。でも、78人となると……
どうするんだ?」
「一斉拿捕でないと、逃げられますよ?一人あたり二人で捕まえることを考えて、
二百人くらい一気に投入できますかね?中隊を2つ分くらいですか?」
「中隊なら、アンナリーゼの目の前に中隊長がいるぞ?」
「そうですけど、今回ウィルには、領地を守ってもらう予定です。
この争いで言うところの王は、うちのジョーですからね!
ジョーが守れなかったら、こんな無意味なことはないですから!」
「そしたら、アンナリーゼは誰が……?」
「私なら、自分で何とかできますし、ノクトを連れていくつもりですよ!」
不服そうにウィルが口を挟んでくる。
「姫さん、俺を公都に連れて行ってくれよ!」
「ダメ!さっき言ったように、ジョーを守る人が、違う、信用のおける人を
ジョーの側に置いておかないといけないの!
私がいない間に、何かあったら困るわ!
その点、ウィルがいてくれれば、私はとても安心なのよ。
戦場に出たとして、背中を任せられるのは、私、ウィル以外いないもの!
だから、ジョーを守ってほしい。ジョージア様もこっちに呼ぶつもりだけど……
ジョージア様、剣術とかからっきしダメでしょ?」
「確かに……全然向いてないな」
「もぅ!公世子様まで!ジョージア様もこっそり努力しているんですよ!
内緒ですけどね……」
へぇーっと公世子がわけありげにこちらを見てきたが無視をする。
「で、いつにしますか?」
「捕縛については……俺が帰ってから、1週間後でどうだろう?」
「わかりました、では、捕縛の翌日に公都につくよう私は向かいます。
ジョージア様には、当日まで、詳細をくれぐれも言わない方がいいと思います
よ!」
「あぁ、わかった」
「では、そのようにこちらは動きますから、公世子様も上位貴族なんかに負けない
でくださいよ?」
「あぁ、わかっている。アンナリーゼの肩ばかりに寄りかかっていては、ローズ
ディアの男どもは情けないと言われかねないだろ?」
「どういうことです?」
私は、意味ありげな公世子の言葉を聞き返す。
すると、ため息一つついてこちらを見ながら、公世子はごちる。
「あぁートワイス国のサンストーン家から……抗議の手紙が来てる……
ジョージアも知っているが、社交界でのアンナリーゼの噂が、向こうにまで
聞こえてきているのだろうな。
あそこの息子と幼馴染なんだろ?」
「そうですね!ハリーは私の幼馴染です。私のこと、いつも心配してくれてます
よ!」
にっこり笑うと、真紅の赤薔薇のチェーンピアスが揺れる。
「聞いていいか?」
「なんです?」
「そのピアスと酷似したものを見たことがある。
それは……そういうことなのか?」
「何のことか知りませんけど……大切な人から、結婚祝いにもらったもの
ですよ!」
それ以上は答えるつもりはないと、話をきっておく。
ハリーから結婚祝いにもらったこのピアスは、ハリーとお揃いなのだ。
見る人が見ればわかるが、そんなこと言う必要もないだろう。
私の初恋の人。
まさか、公に抗議までしてたのか……未だに大事にされていることがわかって嬉しい。
この前トワイス国に帰ったとき、殿下にも帰ってこいって言われた。
二人の気持ちが私にとってどれほど嬉しいのかは、当の本人たちは知らないだろう。
今度、こっそり『赤い涙』をカレンに贈るガラス瓶のようなものとは別に作ってもらって、贈っておこう。
「じゃあ、今回の大捕り物……公世子様、一緒に頑張りましょうね!」
「あぁ、アンナリーゼに任せっぱなしになっているが、主導できるようにして
おこう。一網打尽といこうじゃないか!」
私と公世子は、がっちり握手をする。
今回の断罪は、アンバーや私のためだけでなく、国のためでもある。
国の中枢まで伸びてきているダドリー男爵の深い欲を根こそぎ取るためでもあるのだ。
見せしめの意味も込められているので、公世子としての立場、アンバー公爵としての今後を考えて、絶対失敗はできない。
固く握られた手を離した頃、私たちは、それぞれの未来のため動き始めるのであった。
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