第270話 領地での用事にむけて

「公、公爵位の用意ですが……どれくらいかかりますか?

 私、先ほども申しましたが、領地へ行かないといけなくて……」

「裁可さならすぐにでも出せるが、任命があるのとそなたの要望でもあるウィルとセバスチャンの用意も

 あるから、2週間程時間が必要じゃ。

 とりあえず、仮発行だけすまそうぞ」

「ありがとうございます!では、お願いします! 

 あの、どなたか、ペンってありますか?」

「あぁ、あるぞ!」



 私は、宰相からペンを借り、2枚の離婚の申立書にサインをする。

 貴族社会は、上位主義でとても面倒なのだが……自分が上位になるとこんなに便利なことはないと感じる。

 今、私を立場上押さえられるのは、公と公世子以外いないことになった。

 夫として、ジョージアが窘めるくらいはできるが、実質、ジョージアの権限より上になったのだから……



 さらさらっとサインを書き入れる。

 これで、公的な書類となり、私に反対しようと思えば、公か公世子の裁可が必要となる。

 誰も、国の最高権力者である公や公世子に、たかだか離婚の取り消ししてくれというような貴族はいないだろう。



「ジョージ様、これで、私だけのジョージア様ですね!」



 ニッコリ笑いかけると微笑で返してくれ、それを見て公世子は呆れかえっている。



「家に帰ってからにしてくれ……」

「それも、そうですね。

 それより、公世子様、ダドリー男爵家のことは、お一人で調べることになるのですか?」

「アンナリーゼが調べたこれらを参考にしながら、進めて行く。

 他にも情報提供があるなら、進んでお願いしたいところだが?」

「畏まりました。

 そちらについては、私も協力させていただきます!

 最後の裁可には、私の名前も連ねさせてくださいね!」

「そなた、わざわざ表舞台に立たなくていいのだぞ?」



 私に向け、気遣うかのように言ってくれる公世子。

 でも、私は、首を横に振る。

 向こうが始めた戦いなのだ。

 私だけならまだしも、領地を巻き込んでいる時点で許しがたいし、死ななくていいものまで巻き込んでしまう今回の断罪。

 誰が誰の敵であって、誰が誰によって裁かれたのか、歴上にも書類上にもちゃんと明記する必要がある。

 公世子では、それが、稀薄である。

 ダドリー男爵とソフィアが喧嘩を売ったのは私とアンバー公爵家。

 その喧嘩は、きっちり買って倍返し以上で勝たないと気が済まない。



「売られた喧嘩は買いますよ!

 きっちり、買って差し上げないと、相手に失礼じゃないですか!」

「そなたなら、そんな風にいうと思っていたが……裏切らないな?」

「えぇ、それで、どれくらいお調べになりますか?

 1ヶ月くらいですか?」

「早急だな……3ヶ月くれ……そなたほど、優秀ではないのでな!」

「何をおっしゃいます!

 間をとって、2ヶ月後に情報共有いたしましょう。

 それまでに、もっと調べてまいりますから、それでよろしいでしょうか?」

「あぁ、わかった」



 公世子との話し合いはこれにて終わり、公が仮の公爵位を発行してくれたので、私達は御前を退出することになった。



「それでは、2週間後、また、よろしくお願いいたします!

 あぁ、そうそう……私、ジョージア様恋しさに嫉妬に狂ってしまった公爵夫人となっていますので……

 領地に引っ込む予定なのです。

 申し訳ないですが、拝命式はひっそりでお願いします。

 でないと、私が狂っていないことが、あちら側にバレてしまいますから……

 それに伴って、私、領地へ療養として引っ込むことになっていますので、何か御用の場合は、領地へ

 ご連絡くださいませ!」



 公妃からジョーを返してもらい抱きかかえると、ジョージアがそっと腰に手を添えエスコートしてくれる。

 私達の退出をしていく姿を見送った5人は、何とも言えないそんな雰囲気で取り残されていたのだった。




「ジョージア様、私、領地に向かってもいいですか?」

「明日にでも?」

「そうです、明日にでも……」

「わかった。帰ってから、準備をしよう。

 俺も、ノクト将軍には会ってみたいし、他にもアンナがお世話になっている人たちを紹介してくれる

 だろ?」



 馬車の中で、明日の段取りをしていく。

 今日提出した離婚の申立書については、効力を発するには、きちんと式を行ってからとすると2週間後にそれぞれに通知することになる。

 ただ、その離婚申立書も直前まで公世子がにぎっていることになるだろう。

 すると、ジョージアもこの2週間することともなくなったので、領地の現状把握くらいだろう。



「わかりました。では、明日の朝一緒に出掛けましょう。

 今回は、馬車でいくので3日程かかりますね……往復6日かかりますねぇ……」

「なんか、とても残念そうだね?何かあるの?」

「いえ、馬だと早いのになって思って……」

「馬?アンナは、乗れるんだ?」

「もちろんですよ!

 私のかわいいレナンテに揺れてお出かけは、最高に気持ちいいのですよ!」



 ハハハ……と空笑いが聞こえた頃には、屋敷に着いて、ディルが迎え入れてくれる。



「ディル、急で申し訳ないのだけど、明日から、ジョージア様とジョーと後リアンたち

 親子を連れて領地へ行ってくるわ!」

「急でございますね……?かしこまりました、準備いたします。

 デリアからの要望の件ですか?」

「お客が到着したのよ。あと、向こうの様子も気になるから……」



 デリアが報告書は、定期的に送ってきてくれている。

 私が選んだ人たちが不正をするとは思えないし、きちんと機能しているとは思っているが、やはりこちらでうだうだと頭を悩ませているより、領地を飛び回っている方が性に合っている。

 そして、目下の楽しみである件の砂糖のことも気になる。

 デリアに繋いでヨハン教授と合わせてくれているだろうが、やはり、何もかもをデリア一人では大変だと思う。



「それでは、リアン様にも声をかけさせていただきましょう。

 あちらの侍女としてお願いする手筈でしたね?」

「そうね!じゃあ、子どもたちの準備もリアンにお願いできるかしら?」

「かしこまりました。

 旦那様は、どうされますか?本当について行かれますか?」

「今回は、一緒に行こうと思っている」

「畏まりました。

 それでは、旦那様の分も含めて準備させていただきます」



 よろしくと言えば、ディルは心得たと部屋を出ていく。

 準備については、ディルに任せておけば、大丈夫だろう。

 明日のことを考えて私たちは早々に休むことにした。


 さて、念願の領地帰還だ。

 なんだかんだと用事が終わらず、1ヶ月半もこちらに滞在していたのだ。

 とはいえ、向こうに行ったとしても、任命式があるのですぐにとんぼ返りになることを思うと少し寂しいが、久しぶりにデリアや領地の人々に会えると思うと嬉しくて仕方がない。

 寝られるかしら……?わくわくして私は寝られなくてあちこちと寝返りをうつ。

 珍しく、ジョージアが先に寝ているので変な感じだ。


 そういえば、ウィルとセバスにお城でのことを伝えてないことを思い出し、こそっと起きて手紙を書く。


 やっと、人が集まった。

 これから……私の思い描く領地改革が始まるのかと思うと、とても寝られる気分ではないのだが、その想いのたけを二人の友人への手紙にしたためれば、少し気分も安らぎ寝られそうだった。

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