第251話 準備しましょう

 昨日、迫真の演技と思われた本音駄々洩れを言った手前、ジョージアにもディルにもなんだか恥ずかしくて会いにくい。

 ただ、目を覚ませば、隣にジョージアがいるし、そうすれば、必然とディルが部屋の出入りをする。

 まぁ、元々、ディルは、私の部屋に出入りしていたが……




 寝坊助なジョージアを置いて私は起き上がると、何を察知したのかジョージアにベッドに引きずり込まれる。

 寝ぼけているのか、起きていてワザとしているのか……どのみち、起きられないのは困るので、ジョージアを起こすことにした。




「ジョージア様、朝ですよ?起きてください!」




 お腹の前に回された手をぺちぺちと叩くが、さらにギュっと抱きつかれる。


 これは、寝ぼけているのね……?


 仕方がないので手を伸ばして、ベッドサイドのベルを鳴らそうとすると、それを阻まれる。




「起きているのですね!」

「あぁ、起きてる。でも、もぅ少しだけ……」




 そういうと、私の首筋にキスをしてくる。




「いつぞやは、噛みつかれたな……」

「また、噛みつきましょうか?それとも、噛みつきますか?」

「噛みつくのは、痛かったからキスマークにしておく。

 今日、公世子様との面会だからね!取られるわけにはいかないし……」

「もぅ!取られませんから、そんな見えるところに辞めてください。

 ほら、つけるなら胸元でいいじゃないですか……提供しますよ!」

「なかなか大胆なことをいうね……?」

「あっ!でも、準備に忙しいので、本当にそろそろ放してください!

 今日は、公式に会うわけではないですから、ジョージア様も行くのですよ!」




 クルっと、ジョージアの方に向きを変えると、あぁ……はいはい、また今晩ね……なんて言いながら、キスマークをやっぱりつけて満足している。




「満足ですか……?」

「はい、満足しました、奥様」




 ニコッと笑って、二人で起きる。

 ちょうど、ディルが入ってきて、寝起きの悪いジョージアが起きていることに驚いていた。




 朝の支度も終え、私とジョージアは、書類を持って城へ出かける。

 もちろん当然のごとく模擬剣を携えている私に、ジョージアは頭を振っていた。




「馬車は要らなさそうですね?」

「そうね、行ってくるわ!」

「ねぇ、アンナ?

 当然のごとく持ってるそれって、模擬剣だよね?」

「はい、持ちますか?ジョーを抱いてくれても構いませんけど……」

「じゃあ、模擬剣を持つよ」




 何回抱いても泣かれるジョーをジョージアは、遠巻きに見ている。

 でも、頭を撫でたりすると不思議と泣かないので、そういうスキンシップをジョージアとジョーの間で少しづつしてならしているところだ。



 城まで、二人で並んで歩く。

 ジョーを抱いている私を時折覗くようにチラチラっと見てくるジョージア。

 なんだか、久しぶりすぎておかしくなる。

 今は、冬も深まる寒い日が続いていたが、今日は比較的暖かいので、歩くには、程よい。




 前から、男の子が走ってきた。

 その子は、前を見ていなかったので、私とぶつかって転んでしまった。

 私は、ジョージアが支えてくれたので、大事ない。





「大丈夫……?」




 手を差し伸べると、母親だろう。

 この子の妹だと思われる子を抱きかかえて私に謝ってくれる。




「僕、名前は?

 レオノーラ・ダドリー、こっちが妹で、ミレディア・ダドリー」

「ダドリー男爵の次男かしら?さしずめ、第三夫人?」




 ダドリー男爵には、子どもがたくさんいるのだが、男の子は2人しかない。

 第一夫人の子と今目の前の子しか。

 なので、男の子を生んだメイドが、第三夫人として格上げされていると聞いたたことがある。




 母親が私の言葉を聞いて、見上げてくる。

 ジョージアの瞳が、目に付いたのだろう。




「公爵様とは知らず……とんだご無礼を……

 レオ……ほら、謝りなさい!」




 レオと言われた男の子は、何故謝らないといけないのか、わからないようで、不服そうだ。




「いいのよ。

 レオと言ったかしら?」

「うん!レオノーラだ!」

「じゃあ、私もレオって呼んでいい?」

「いいぞ!お姉さんは、なんていうの?」

「アンナよ!」

「アンナ?可愛い名前だね!」

「ありがとう!

 これから、お城に向かうのだけど、一緒に行かない?」

「め……滅相もございません。

 公爵様と一緒になんて……」

「あら……ダメかしら?」




 悲し気に私は、目を付しがちにした。

 そんな私にレオは、私の空いている手を握り、行きたいと催促してくれている。

 子どもなりに私を慮ってくれたようだ。

 それを母親が止めているが、レオが行きたいとなら決まりだ。




「ジョージア様、一緒にいいですか?」

「あぁ、もちろんだ。ご婦人も一緒に。

 アンナは、言い始めると、聞かないから諦めた方がいい!」



 第三夫人は、しどろもどろしているので申し訳ないが……一緒に連れていく。

 先ほどからずっと握っているレオの手を離さず、私はお城に向かって歩き始める。



 お城の門前まで来ると、いつもの門兵が私だと視認すると手を振ってくれる。




「おはようございます!

 アンナリーゼ様、今日は、大人数ですね!」




 振り返ると確かに人数が多い。

 私とジョージアとジョーとエマ、そこにダドリー男爵の第三夫人と子ども2人だ。




「そうね、紹介だけするわね。

 じゃないと入れてくれないでしょ?」

「そうっすねぇ……一応、お願いできますか?」

「うん、じゃあ、この方は、私の旦那様!」

「はっ?アンナリーゼ様は、公爵様まで、歩かせているんですか……?」

「そうね……いいじゃない!運動も必要よ!」




 私の言い分を聞き、苦笑いしているのは、目の前にいる門兵だけではないだろう。

 でも、少しばかり体は動かした方がいいと思う。

 やだよ……お腹の出たジョージア様とか……

 チラッと、ジョージアを見上げると、やっぱり苦笑いを返されてしまう。




「で、こちら、ダドリー男爵の第三夫人。

 そこで、出会ったの。

 あっ!身分証ある?」



 すると、身分証を出してくれ、城に入る許可が下りた。

 そのまま、ぞろぞろと訓練場へ足を運ぶ。

 公世子とも、ここで落ち合うことになっているのだ。





「ウィル!」

「おう、姫さんって……何その……あぁ、はいはい!」



 目ざとくウィルを見つけてジョーは手を伸ばしてたので迎えに来てくれる。




「紹介するね!

 ジョージア様は知ってるから省略!

 こちら、ダドリー男爵の第三夫人。

 で、子どものレオノーラとミレディア」

「げっ……姫さんの敵!」

「しぃー!!」



 私は、ウィルの口元を手で押さえる。

 聞こえてないよね?っと恐る恐る後ろを振り返ると、目が明らかに泳いでいる。

 聞こえてしまったのなら仕方ない。

 小声でウィルに話しかける。




「ウィル、子どもいらない?」

「は?」

「レオとミア」

「なんで、俺が……?」

「預かってくれるだけでもいい!」

「え?第三夫人はどうすんの?」

「うん、そうね……

 ちょっとさ、聞いてくれる?」




 私とウィルは、二人でしゃがんでコソコソと話始める。





「あの子ども二人が欲しいのよ。

 だから、ダドリー男爵と、離婚させたいんだけど……どうしたらいいかな?」

「はぁ?姫さん正気か?」

「うん、正気」

「とりあえず、仲良くなっておけよ……?」

「そうね……私とっていうより……レオとミアをジョーと仲良くさせたら、いいかしら?

 第三夫人とは名ばかりで、メイドだった頃よりひどい扱いって聞いたことあるのだけど、

 こちらになびいてくれるかしら……?」

「この前話してたカレン様なら、その辺知っているかもしれないよ?

 なんか、因縁があるらしいってきいたことがあるから……」

「確かに、公世子様の第三妃が誰の子どもか知っていたわ!」

「まぁ、そっちから攻めていけば、いんじゃね?」

「わかった……また、協力して頂戴!」

「了解です、お姫様!」




 屈んで話をしてたので、話し合いも終わり立ち上がると、不思議そうに見られる。

 私達は普段からこんな感じなので特に気にしていないが、ジョージアからすれば、距離が近いし、第三夫人からすれば、公爵を前に他の男とコソコソ話始めた私に信じられないという顔だった。




「何かしら……?

 私たち、いつもこの距離だから、気にしないで!」

「普通の距離でないことは、自覚した方がいいと思うぞ?姫さん」




 肩にポンと手を置かれ私は、きょとんとする。

 わかってないな……とジョージアは、頭を振っているし、第三夫人は固まってしまった。




「それで、公世子様は、まだ、公務が押してるから、まだ来てないぞ?

 遊んでいくんだろ?ジョージア様の持ってるそれで!」

「えぇ、そうね!

 じゃあ、ジョージア様、少し遊んできますので、お待ちくださいね!」





 ウィルと、演習場の真ん中へ行く。

 もちろん、ジョーは、ウィルが抱いたままだったが、何食わぬ顔でウィルに抱かれ私の遊びをおもしろそうに見ている。




「おぉーい、集合!

 姫さんが、遊んでくれってよ!

 じゃあ、適当に遊んでって!」




 声だけかけると、ウィルはジョージア達のところへ戻っていってしまった。

 取り残された私は、手に持っていた、模擬剣を振り回す。

 体をほぐしたころには、相手達が決まったようで、公世子が来るまでの間、かなり遊んでもらったのである。

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