第224話 楽しい遠出
ウィルの提案で、余裕を持たせて2泊3日の旅に出る私たち。
秋から冬に季節も変わるところなので、馬上で受ける風は冷たい。
「ウィルもセバスも仕事は良かったの?」
「良かったも何も俺、姫さんのおかげで閑職だし。
お飾り中隊長とは、俺のこと!
セシリアが、隊はまとめてるからお呼びじゃないんだよなぁ……」
そうは言っても、ウィルの隊は、セシリアを含めウィルを慕っている。
なので、お飾りなわけがない。
セシリアに言わせれば、いなくなったとしてもウィルの中隊だと言ってくれているらしい。
ウィルの身分そのままに、私にくれ!と公世子に言った手前、いつまでも中隊長にウィルで、セシリアには申し訳なさがある。
「セバスは、どうなの?」
馬車を覗き込むと、セバスは苦笑いしている。
「大丈夫だよ!
今度は、ちゃんと誰とどこに行ってくるか言ってきたから……」
それだけを聞くと、小さな子どものお使いか!と突っ込みたくなったが、小競り合いの締結に行っていたという前科持ちのセバスには仕方ないだろう。
文官の身で爵位持ちになったセバスは、今ではときの人となっており、若手では1番の出世頭とまで言われているらしい。
文官で、爵位を得た人間なんてここ100年であらわれたことがなかったからだ。
妬みもあるらしいが、一目置かれる存在となったおかげで、若手とはいえ、職場では、意見が通りやすくなったそうだ。
今、私達がアンバーで使っている報告書を独自にアレンジしたものを少しずつ職場で広げていっているらしい。
なので、自分に上がってくる報告書も見やすくなったので仕事が捗って役職まで上がったと言っていた。
それって、私のおかげよね……?と思うのだが、黙っておく。
だって、すでに、セバスも私の手中にあるのだから……
城内で株は上げられるだけあげておいてほしいものだ。
その方が、私にとっても都合がいいのである。
ただ、私がほしい!と、公世子に願い出たおかげで、仕事のやり方を教える側になってしまったらしい。いつセバスが辞めても、優秀な人の育成がされているといううま味があるという。
それ、今すぐ、アンバーでお願いしたい案件なのだけどな……
セバスは、悩んでた頃が嘘のように、今ではとんとん拍子だ。
このまま、私と共にあることは、躊躇われたりしないだろうかと心配になるくらいだ。
でも、まぁ、大丈夫だろうと甘い考えをしているところだ。
「職場で、アンナリーゼ様の名前出したら、休みの申請もすぐ取れたし!」
「それ、俺も俺も!
姫さんの名前って、休み取るには便利だよな!
さすが、公爵夫人!
この国で3番目の権力者だよな!!」
二人に言われて、私は苦笑いするしかなかった。
「権力者ね……
そんな権力が振るえるならもっと状況は簡単なんだけどね……
そんなうまくはいかないわよ!!」
ウィルの言葉にごちると、ナタリーに笑われる。
「アンナリーゼ様、何事も一足飛びにはいきませんわ!
一つ一つ重ねていって初めて実ることの方が多いのですよ!」
「ナタリーのいうことは、正しすぎて、ぐぅの根もでないわ……
でも、領地は綺麗に片付いたし、お掃除隊もやる気になってくれてるし、
今のところ、順調と考えて、いいかなぁ?と思ってるところだよ!」
私達は、それぞれアンバー領へ思いを馳せる。
本当にみんなの努力が、少しずつ形になりつつあるのだ。
後は、ジョージア様に領主代行権をもらえば、好き勝手に改革ができるのだ……
1番の難関だと思っている。
「それより、ウィル、一体どこへ向かっているの?」
「あぁ、グランアゲ領だよ。
そこに、姫さんが会いたがっている人物がいるって聞いて」
「えっ?ローズディアにいるの?」
「あぁ、そうみたい。
敵情視察か?って思ったが、そうじゃないらしい。
遊びを兼ねて商人もしているんだとよ」
「遊びで商人ですか?
ウィル様、それは、どちらの方ですか?
ぜひ、お会いしたい!!」
遊びで商いができるという言葉にニコライの興味も引いたのだろう。
「インゼロ帝国の将軍」
「えっ?敵国じゃないですか?
今から、その人に会いに行くとかじゃないですよね?」
「そのまさかだよ。
姫さんが欲しいものをその人が持っているらしいからな……
それに、姫さんに会いたいとも言っていたから、一石二鳥って話だ」
ニコライの顔色は、とても悪くなった。
仮にも敵国の将軍なのだ……内通者と言われても仕方ないのだ……
「あの……アンナリーゼ様」
「ニコライに説得されても、こればっかりは、帰るつもりないからごめんね。
嫌だったら、ついて早々帰っていいわ!
ただし、私は、ニコライにもついてきてほしいと思っている。
商談をするつもりなのよ!」
「なんのですか?
一体何が欲しいのです……?
ローズディアでは、手に入らないのですか?」
青くなっているニコライに、私は微笑む。
「手に入らない。
欲しいのは、砂糖の原料となる苗か種よ!
領地で育てて、砂糖を作りたいの」
「アンナリーゼ様、砂糖は、南国でないとできない代物ですよ?
そんな……」
「そうね、ヨハン教授にも聞いたけど、苗か種か手に入れたら、なんとかしてくれるって
いうから、手に入れてやろうと思って。
私、砂糖がないとダメなのよね……
アンバー領に住むとなると、必需品。
葡萄酒はなくても生活ができるけど、生クリームと砂糖がないと生活できないの!」
私の言葉に、呆れる一同。
実は、ウィルにだけは、この会談の本当の目的は話してあった。
でも、面と向かって力強く言うと、呆れたようだ。
「まぁ、そういうわけだからよ!
ニコライも諦めて、付き合えよ!
悪いようにはならないはずだ。
狸のおっさんでも、狐の姫さんがいるからな!」
「私は、狐じゃないです!
みんなで、砂糖を勝ち取るのよ!」
がんばりましょうね!ってニッコリ笑いかけると、4人が大きく深くため息をつくのであった。
それほど、無理難題は言っていないはずので、できるだろうと甘い考えで指定されたところまで行くのである。
まさか、そんなことになるとは、誰も思わなかっただろう。
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