第220話 ディルとの約束

 約1ヶ月ぶりに帰ってきた我が家。

 出迎えてくれたのは、アンバー公爵家筆頭執事のディルだった。



「おかえりなさいませ、アンナリーゼ様」

「ただいま!こちらは、変わりはなくて?」

「そうですね……特にこれということはありません。

 侍従もそのままですよ!」




 ディルのその言葉にホッとする。

 ジョージアが、ソフィアと一緒に夜会に参加したことで、私の悪評や見捨てられたという噂は、さらに広まっているらしい。

 アンバー領でも、知っている人は、知っている、そんな状況である。

 領地では、私が公爵夫人だと明かさずにいたので、気軽に話してくれた中、そんな話になった。

 でも、領地での公爵夫人アンナリーゼは、お掃除隊のことを含め領地をよくしてくれるのではないかという期待感で、うなぎ上りに好評であったので私は、そちらが嬉しい。



 この屋敷も、ジョージアがいないだけで、侍従たちは、私を慕ってくれているし、私やジョーのために住みやすいようちゃんと整えてくれている。

 やはり、ディルを味方につけていたことが大きいように思える。



 早速パルマは、私の荷物を部屋に運び、ナタリーはジョーを抱いて私の部屋へ向かう。

 私は、そのまま執務室へ向かい、ディルに領地から葡萄酒が届くむねの報告や、今後の予定を話していく。



 こちらをと差し出された手紙を確認する。




「公世子様から2通もお手紙が来ているわね?」

「1通は、エリックが持ってまいりました。

 面会のお約束についての手紙らしいです。

 こちらは、昨日届きました次の夜会の招待状です。

 ウィル様が、公世子様へ願い出たらしいですね。

 4名分の招待状を手配してくれているよう……で、

 ナタリー様の分もこちらに届きましたので、後でお渡しします」

「ありがとう。

 ウィルは、仕事が早いわね……

 そして、公世子様も、早い返事だこと」




 私は、先にエリックが持ってきてくれた方の手紙を開く。

 明後日の夕方からなら時間が取れると書いてあった。

 当日は、エリックの護衛日だとも……

 なんだかんだと、貴族としての立場を考えてくれるのは、ありがたい。

 あとは、公然で口説くのだけ辞めてくれればいいのだけど……あれは、治らないわよね。

 はぁ……とため息をつき、次の手紙を開く。



 ウィルから、夜会に参加したいと申出があったことが書かれており、4人分の招待状を用意してくれたことが書いてある。

 文面からは、心配したようなことも書かれていた。

 締めくくりには、是非1曲踊ってくれと書き添えられている。

 たぶん、公世子様なりの気遣いなのだろう。

 こんなに私にまで気を使ってくれていることを嬉しく思った。



「アンナリーゼ様、夜会のドレスはどうされますか?

 ニコライに頼みますか?」

「そうね!こちらにいると思うから、頼んでおいてくれる?」

「かしこまりました。ニコライに任せますね」

「うん、よろしくね!

 あとは、公爵夫人として行こうと思うんだけど、アンバーつけていってもいいかしら?」

「もちろんですよ!

 アンナリーゼ様が、この公爵家の顔でございますから当然ではございませんか?」

「公爵に見捨てられた夫人でも?」

「あぁ、それならなおのこと秘宝をすべてつけて行ったらよろしいかと思いますよ!」




 ディルにしては、ジョージアに対して攻撃的な発言である。

 でも、そんなことをいうディルがおかしくて笑ってしまった。




「ディルでも、冗談言うのね?」

「冗談ではございませんけどね?」

「えっ?」

「えぇ、冗談ではありません。

 事実を申し上げただけですから!」




 そんな会話すら、おかしくてたまらなくなってきた。




「旦那様には、アンナリーゼ様をないがしろにすることはなきよう、筆頭執事として

 ずっと提言はしてまいりましたから、それを聞いてくださらなかったのです。

 私としては、侍従や領地の民を大切にしてくださるアンナリーゼ様を主としても

 いいのではないかと思ってますよ!」

「ディル、嬉しいけど、さすがにそれはダメな気がするわよ?」

「そうでしょうか?

 本宅の侍従は、アンナリーゼ様の味方ですし、領民もそうでしょう。

 領主に愛想つかしていたのだと、初めて領地に行って知りました。

 さらに、ネズミまで飼っていたなんて、領民の皆様に顔向けできません」




 ディルは、正直な話、この1ヶ月で領地の現状を目の当たりにしたのだ。

 知らなかったとはいえ、心苦しいとこぼしていたこともあったので、ジョージアへの風当たりもつよいのだろうか。




「ディルがそんな風に思わなくていいわ!

 なんとか、して見せるから……

 それはそうと、近々、ジョージア様に会えるかしら?」

「そうですね……会えるとしたら、私どもの給金をもらいに行くときくらいでしょうか?」

「そう、じゃあ、そのときに私が行くわ!」

「かしこまりました!

 そのときは、ぜひ私も一緒にお供させてください!」

「わかったわ!約束ね!一緒に来て頂戴、お願いね!」




 かしこまりましたとディルは、私に言ってくれる。

 この筆頭執事は、私にとってとっても心強い味方の一人だ。



 ジョージア様、待っていてくださいね!

 領主代行権をいただきに、会いに行きますから!



 その前に、公世子様の夜会で会えそうですけどね……

 私、一体ジョージア様に会ったら、どんなふうに思うんだろう……少し不安に思った。

 でも、その日も友人たちが側にいてくれると言ってくれていたからきっと大丈夫だろう。




「ディル、これを公世子様宛に送ってくれる?

 葡萄酒を売り込みに行ってくるわ!!」




 公爵夫人は、領地のためにニコライに劣らず負けじと商魂たくましく公世子へ葡萄酒を売りつける算段をするのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る