第202話 お小遣い稼ぎ

「おかえり、エリック!」

「ただいま戻りました」




 エリックへ一息入れるよう言い、その後報告を聞く。




「ナタリー様は、いつまででも大丈夫だということで了承をいただきました。

 ディル様も、お屋敷のことは気にせず大丈夫だということです!

 あとは、ナタリー様から、アンバー領にへ移動できる女性は、ざっと20人程

 いるということでした!」

「20人もいるの……?

 もっと少ないと思っていたわ……

 それだけ、いれば、領地内は、大丈夫そうね!」

「お二人とも、アンナリーゼ様が求めることは、大体できますよ!とおっしゃって

 ましたよ!

 ナタリー様もすごいですね……アンナリーゼ様への心構えが、ビックリしました」




 その話を聞いて納得る私とセバス。




「ナタリーは、僕なんかよりずっとしっかりしているし、アンナリーゼ様に

 陶酔してるからね。

 もう、離婚までしちゃったくらいだからね……」

「えっ!?

 アンナリーゼ様のために、離婚したんですか?」

「えぇ……そうね。

 まぁ、それは、本人にも思うところがあってだから、私のためってことでは

 決してないと思いたいです……」




 私は、遠い目をしておく。

 すると、それを初めて聞いた商人達やニコライ、パルマは、かなり驚いている。




「すごいご婦人が、アンナリーゼ様の側に侍っているのですね……

 負けていられませんね!」

「アンナリーゼ様は、どんな方でも誑し込んでしまいますからね……

 もう、息をするように自然にコロッとやられますよ!」

「パルマ、私をそんな風に言わないでくれる?

 全くそんなつもりはないから……」




 私は、軽くパルマを睨む。

 セバスが苦笑いしているのは、きっと思うところがあるからだろう。



「まぁ、パルマのいうことは、本当のことだから、仕方ないじゃないですか?」

「セバスまで!!」



 もぅ!っと、怒ると一同納得ですと笑っている。

 私、そんなんじゃないよ!!とこれ以上訴えても無駄なような気がするので、黙っておくことにした。




「この話は、ここまで!

 で、お小遣い稼ぎの話をしましょう!」

「お小遣いですか?」

「そう、隊員たちやナタリーに借りた子たちには、基本お給金は出せないの。

 3食と住む場所の提供をするから……

 その代わり、何かお小遣いができるような手仕事をしてもらって、それを買い取るって

 いうことをしたいの。

 去年の手仕事が、なかなかよかったと思って!」

「あれは、商売的には、なかなかよかったです!

 他領でもよく売れましたし、貴族の方がこぞって買ってくださいましたから!」

「そう。

 そういう流行を作って売るのは、これからのアンバーには必要なのよ!

 だから、カゴバックは、需要がまだ今年はあると思うから、それを作りましょう。

 それと……他に何か、あるかしら?

 基本的に、カゴバックは、女性の手仕事って感じだから……

 例えば、男性でもできるものとか」




 なかなか、私達は思いつかないでいた。




「アンナリーゼ様、あれはどうですか?」

「あれ?」

「ジョー様が入ってた藤カゴのベッド!」

「あぁ、あれね!いいわね!!」

「藤カゴのベッドとは、あのカゴバックの素材で作ってらっしゃったものですか?」




 セバスの提案で思い出したが、ニコライにわざわざお願いして作ってもらったものだ。




「そう!

 あれは、ちょっと大きいから、女性ではなかなか難しいからね……」

「なるほど!あれは、いいですね!

 応用として、確かヨハン教授が、薬草を干すためのカゴを作ったりもしてましたから

 台所用で作るのもいいかもしれませんね!」




 話について行けない商人たち。

 カゴバックは、自らが売っていたのだが、ジョーのベッドついては、私が無理を言って職人に作ってもらったものだ。




「実物を見せるのがいいのだけど……」

「あっ!僕、行ってきます!」




 またもエリックが、手をあげてくれる。




「じゃあ、ヨハンのところにも行ってきてほしいわね……」

「ヨハン教授のところのものなら、うちにもありますよ!

 僕が持ってますから、ちょっと待っていてください!」




 エリックは、また、領地の屋敷へ向かい、ニコライは、自分の商売用のカバンを漁っている。




「これです。

 これは、小さいものですけど、ヨハン教授のところのはもっと大きいですよ!

 薬草を干したり、水を切ったりしているらしいです。

 カビも生えやすいので、使うのには多少注意は必要らしいですけど、

 使い勝手はいいと助手の方々は、言ってました!」

「確かに、これなら使い勝手がいいかもしれない」




 商人たちは、手に取ってザルをひっくり返してみたりすかせてみたりしている。




「これは、なかなか丈夫でいいですね!」

「さっきのベッドというのはイメージがつかないですが、大きなものを作るには

 それなりに力もいりそうだから、いいかもしれないですな」

「それなら、ベッドを飾るのに染物や刺繍で可愛らしく飾るのもいいと思うのよ。

 ジョーのは、飾りはないけど……女の子だったら、レースの刺繍なんて可愛いでしょ?

 その子が大きくなったら、それをおもちゃカゴにしてもいいしね!」

「なるほど……

 使い方は、買ってもらったお客さん次第ってことで、どんな用途もあると……」

「ここら辺は、染物の技術とかは、ないのかしら?」

「ないですね……

 特にこれと言って特産品になるようなものが思いつきませんよ……」




 商人たちは、頭をひねるが何もこれ以上は出てこないと腕を組んで悩み始めた。

 私も、領地を回ったときのことを考える。

 この時期、まだ、小麦の刈入れをしている最中であった。


 何か、忘れているような気がするんだけど……何だったかしら?思いつく限り、頭を抱えて考える。




「じゃあ、とにかくお小遣い稼ぎとして、カゴバックを作ってもらう、

 少し大きめのカゴを作ってもらう、カゴバック・カゴにあった中地を作る。

 ナタリーのところの子が作った貴族用のカゴバックはレース編みがついていたから

 そういうのも作れる人ができればいいわ!

 とりあえず……これで考えてみましょうか?」



 そうですねと納得顔の商人たち。

 地元すぎるから思いつかないこともある。

 知り尽くしているという盲点で、何か他にもなかっただろうか……

 この数日見た景色を、もう1度思い浮かべていく。




 私は、目をつぶって、広い広いアンバー領に思いを馳せていったのである。

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