第200話 確保したよ!

「アンナリーゼ様、あのような者たちほっておけばいいのです!」




 マーラ商会へ行きすがら、私の判断にエリックは怒りを露わにする。




「なんで、エリックはそう思うの?」

「職務も全うせず、お給金だけもらってのうのうとしてたわけじゃないですか!

 そんな奴らなんて、切ってしまってもいいでしょ?」




 聞けば納得できる。

 確かにそうなのだ。

 そうなのだが……私は、反論する。

 とにかく、今は、人手がいるのだ。

 使えるものは、使う。

 だって、体は鈍ってそうだけど、使えないわけではなさそうだから地元で採用、しかも汚点ありなら、奉仕してもらって経費節約である。




「よくないわよ!

 あの人たちも含めてアンバー領の領民なのよ。

 今のやり方は、よくないことは、わかってる。

 だから、これから、この町を村を領地をきれいにする手伝いをさせるの。

 給金なしでね!」

「給金なしで?」

「そう、ひどい話でしょ?

 3食と住むところは提供するつもりだけど、それ以上の贅沢は許さない。

 着るものも必要なら与えるわ。

 ただ、お金は与えない。

 無駄なものは、しばらく断ってもらう」




 私の言葉は、ウィルもエリックも驚いていた。




「領民はね、少しでもお金があれば、すでに他領へ出て行っているのよ。

 少しでもこの領地にとどめたいっていう意味もあるし、

 一緒にアンバー領を新しくしていく領民であってほしいのよ!

 領地があっての領民じゃないの。

 領民があっての領地なの。

 私達貴族は、そんな領民からお金をもらってより良い領地運営をしていくのが

 本来の仕事。

 社交場もそう。

 特産品を売ったり、買ったり……

 領地の領民の利益になるようにするために、本来はあるべきなのよ!

 ただ、楽しく踊れるのは、デビューしたての子供だけ。

 その子供さえ、領地繁栄のために嫁がされたり養子になったり……

 貴族って、思ったほどお気楽ではないのよ!本来はね!」




 私の持論にウィルは感心してくれる。




「姫さんって、勉強はできないけどそういうとこは侯爵様譲りなんだろうな!

 フレイゼンの学都ってそんな感じするもん!」

「あれは、お父様の完全に趣味よ!

 一緒にしないでほしいわ!!

 最初に戻るけど……エリック、私は、たくさんの人が笑って生きて、

 活かせる領地運営をしたいわ!

 なるべく、切り捨てるという考えは、したくないの!

 それは、ジョーにも教えるつもりよ!

 甘いのかもしれないけど……そこは、私の側にいるなら受け入れてほしいところね!

 どうしてもいやだ!っていうなら……あなたには、アメジストは贈れない」

「アンナリーゼ様…………」




 そこからは、無言でお店まで向かう。

 マーラ商会が見えてきたころ、エリックは口を開く。




「アンナリーゼ様」

「何かしら?」

「さっきの話、もう少し僕なりに考えてみてもいいですか?

 僕は、公都育ちの庶民です。

 正直、アンナリーゼ様の考え方には驚きました。

 なので……」

「いいよ!しっかり悩みなさい!

 今、いったのは私の考えであって、エリックの考えではないの。

 色々な考えがあってもいいと思ってる。

 ただ、この大きな計画の前に、異を唱えられると……

 うまくいかないこともあるから、そこはわかってほしい。

 領民の命と生活がかかってるから……失敗はできないの」

「わかりました」




 ウィルは、私達の話を見守ってくれている。

 もどかしいこともあるだろう……甘いと切り捨てたいときもウィルにもあるだろうけど、今一緒にいてくれるのは、私の考えが信頼されているのだろうと思う。

 それが、見守ってくれている理由だろう。


 エリックなら、きっと、エリックなりのいい答えが出せるはずだと私もウィルも思っている。

 例え、袂を分かつことになってもこればかりは、仕方がないことだ。




「じゃあ、話し合いに行きましょう!

 セバスとニコライが先に話し合いを進めてくれているはずよ!」




 私達は、マーラ商会の居住部へ入っていく。

 すでに始まっている話し合いは、かなり白熱していた。




「アンナリーゼ様!」

「どうでしたか?」

「もちろん、確保してきた。ざっと50人ほど!」




 3人の商人たちとセバスとニコライは、安堵した。




「これで第一段階の町を村を綺麗にしよう作戦が実行できるね!

 お願いしてた、空き家とかの状況はどう?」

「それは確保できました。

 30軒ほどですが……」

「十分ね!単身者にはシェアしてもらいましょう!

 あと、女性も何人かこの作戦にいれるわ!

 ナタリーから借りる予定!」

「それは……どんなふうに取り入れられるのですか?」

「例えばなんだけど、隊員以外でも参加したいって人がいれば雇えばいいと思うのよ!

 で、子供を見る人も必要でしょ?一つの家で、子供を預かるの!

 預かった子供に文字とかそろばんとか教えたりしてね!

 ゆくゆくは、学校も作りたいから……今から、次の布石ね!

 子供の興味を勉強に向けて、識字率をあげたり計算ができるようになったり、

 子供も大人も領地全体の底上げをしたいと思っているのよ!


 まずは、子供!

 子供ができれば、親に聞くでしょ?

 『お母さんもお父さんもこんなの出来ないの?』って。

 そしたら、こっちのものなのよ!

 あと、今年好評だったカゴバックもレベル上げて作ったりね!

 ナタリーのとこの子たちは優秀だから!!」

「姫さん……姫さんの口から勉強なんて言葉が出たなんてハリー君が聞いたら

 泣いて喜ぶぞ!」

「もう、ウィルは何回も茶化さないで!」




 私は意気揚々と、箱庭計画の話をしていくのに、横からウィルが茶々を入れてくる。



 私だって、領地のこと、領民のことをちゃんと考えているのだ!

 例え、他領へ出て行ったとしても、文字が読めたり計算ができるというのは、どこへ行っても強みになるはずだ。




「あと、報告書を統一したいわ!

 忙しいと思うんだけど、みんなにも1週間に1回報告書を書いてほしいの!

 今、公都の屋敷では、この様式を使っているのだけど、結構優れものだって

 侍従達は言ってくれてる。

 ニコライ、配って!」




 目の前に置かれた報告書を各自まじまじと見ている。




「これ、僕も使ってますけど、書きやすいですよ!

 例えば、仕入れをするときにリストを書いておけば、そのまま伝票に書き写し

 したらいいだけだし、注文するときに忘れにくいですしね。

 こちらに残しておけるから、どの額で買ったとかもわかりやすいですから!」

「へぇーなるほどな」

「使い方は、ニコライが知っているから聞いてもらったらいいわ!

 ここには、町の様子を教えてほしいの。

 もちろん、それぞれの町や村にナタリーとこの子たちを配置させてもらって

 報告書はもらうつもりだけど、あなたたちからも欲しいわ!

 主観が変われば、報告書の内容も変わるし、見えているものが違うから

 必要だと思うものも違うから!」

「なるほど……

 それで、報告書……」




 商人3人は、私を見て、ただただ頷いている。




「この様式って……うちの店でも使ってみてもいいですか?」

「もちろんよ!

 その使い勝手も教えて!

 例えばなんだけど、今渡したのは、領主への報告書という意味でのものなの。

 商人には商人の使い勝手のいいものがあるでしょ?

 そういうの教えてほしい!

 今度、工事するときの資材の発注用紙とか、あらゆる様式を揃えたいと

 思っているから!

 その辺も、手伝ってくれるかしら?」

「それは、いい!

 我々も、バラバラの独自のものを使っているので、統一されれば、わかりやすいです」




 セバスが、何かソワソワしているわね……




「セバス、この件は、お願いしてもいいかしら?」

「もちろんです!

 皆さん、いい様式を作りましょうね!」




 いい笑顔で笑っているので、ニコライがセバスの肩に手を置いて俺も混ぜてって言っている。

 なかなか、いいコンビだと思える。

 きっと、私が思っている以上のいいものができるように思えた。




「さてさて……

 今日は、もっと具体的な話をしないと……明日には、クビにした隊員たちが

 来てしまうわ!」




 私の発言を最後に、脱線はおしまいになり、具体的な箱庭計画の話をしていくのであった。

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