第186話 第1回アンナリーゼ杯Ⅵ
大会3日目。
今日から決勝トーナメントになる。
出そろったのは、私、ウィル、エリック、将軍職にある偉い人3人、中隊長、それと自分も出たい!と無理くり入ってきた近衛団長。
計8人でのトーナメントだ。
私とエリックが同じ山を難なく登り、ウィルと近衛団長が同じ山を登った。
残すは3試合となった。
「姫さんも残ったな!
後は、俺があのおっさんを倒せば、決勝だ!」
ガハハハ!と豪快に笑っているのが近衛団長。
ひげを蓄えていて、威厳たっぷりだ。
その前で話しているのは、公世子だった。
今日、杯の頂が決まるというので、見に来たらしい。
暇な人だなぁ……と思ったが、確か、この中で優秀なものは、公世子の近衛となるはずだ。
見に来ておいて損はないということだ。
まず、私とエリックの試合である。
「どっちも頑張れよ!」
ウィルは、いつもの軽い感じで声をかけてくるが、エリックは、たぶん聞いていない。
目を見ればわかる、集中力。
今持てる全ての力で、私に勝つ!という気概がわかる。
そういう、ピリッとしたものを感じ、私は、歓喜する。
こういう緊張感が欲しかったのだ。
模擬剣だし、模擬戦だから命のやり取りがあるわけではない。
でも、それなりの緊張感が欲しかった。
今、エリックに対峙してわかる。
強者への挑戦と言わんばかりの空気が、伝わりブルっと体が震えるようだ。
私もエリックを見据える。
初めて見かけたときとは、見違えるように変わった体格。
ウィルに仕込まれた剣技。
どれをとっても一級品だ。
私は、非力な女であることを悔やまずにはいられない。
真正面から打ち合ってみたいのだ。
でも、体格からいって、絶対に力では勝てないのはわかっている。
全身全霊で倒しに来るであろうエリックに対し、私ができる最大限で応えようと思う。
「始めっ!」
審判の声に固唾をのんでいた見物人達。
きっと、エリックの気迫が伝播したのであろう。
仕掛けるか……
今日は、なんとなく返り討ちにあいそうだ。
でも、あえて行く!
一歩目を踏み出せば、私は早い。
重戦車のようなエリックに、軽装の私が、どう戦うのか……?
自分でも見ものである。
指摘したことは、すぐ直すエリックに、私から見える隙は一つもない。
味方にすれば、心強いが、今日は敵だ!
これほど、頼もしい敵もいないものだと思える。
実は、天武の才は、ウィルではなくエリックにあるのだと最近思っていた。
ウィルは、どちらかと言えば努力型。
私という目的のために、頑張って努力を積み重ねてきている。
エリックは、吸収するのが早すぎるのだ……
でも、まだ、私にも勝機はあるはず。
駆けていって、一つカーンと打ち鳴らす。
それだけでも重い剣戟だ。
手が、痺れるような感覚があったけど、気にせず私は、打ち込む。
少しできた隙は、ウィルの好きな罠だろう。
ウィルならワザとはまりに行くが、エリックは容赦なしだろうから、わざわざ危ないことはしない!
「アンナリーゼ様、攻めあぐねています?」
「そうね、今、ない頭で勝機を考えてるところよ!」
そんな言葉くらいで、エリックは油断はしないだろう。
昨日、叱ったばかりだから……
剣じゃなくてもいいのよね?
私は、エリック目掛けて駆けていく。
しめた!と思っただろう。
経験の浅い今のエリックならいけそうな気がする。
上段から切り落としてきた剣バックステップで躱し剣を足場にして、エリックの首根っこに抱きつき体重をかけて背中から落としてやる。
どーんっと鈍い音が響く。
そのまま、ギューッと私は、エリックの首を絞めていく。
暴れていたが、だんだん大人しく絞められてくれる。
さすがに息ができなくなってきたのか、ジタバタとして抜け出せないでいたため、ギブアップを要請するエリック。
何とも微妙な幕切れとなった。
剣で勝たないといけないとは、どこにも決まっていなかったはずだ。
「勝者、アンナリーゼ様!」
勝者のコールがされたということは、私は、見事エリックに勝てたということだ。
でも、次は、勝てる見込みないなぁ……と落ち込むのである。
「アンナリーゼ様!
あれは、ずるいですって!」
起こしてあげると、顔を真っ赤にしながら、私に詰め寄るエリック。
「ん?
何がずるいの?」
「胸が……その……」
「役得だと思っておきなさい。
そして、きれいさっぱり忘れなさい!」
私は、エリックの言おうとしたことに反論だけしておく。
「でも、エリック?
そういうこともあるのよ!
今日は模擬戦だから、命があるけど……
戦場なら殺される場合もあるのだから、肝に銘じなさい!」
「わかりました……」
よく頑張ったね!なんて、ほめると年相応の可愛らしいエリックになったのである。
次は、ウィルと騎士団長との試合だ。
こっちは、重厚感のある二人の打ち合いであった。
1つ1つがとても重いので、模擬剣とはいえ打ち合う音が低音に響く。
ウィルもこの1年で、相当強くなっているようだ。
私が見ただけでも、エリックではないが、本当に勝てるか疑問になる。
インゼロ帝国との小競り合いにも参加していただけあって、何とも言えない纏う空気がある。
もちろん、近衛団長は、その空気はけた違いだ。
でも、その威圧的な空気に負けじとウィルも打ち込んでいるのは、すごいことだと思う。
経験、剣技、どれをとっても近衛団長の方が、数枚も上だ。
ただ、有り余る体力だけは、ウィルの方が上のようでだんだん形勢逆転しそうな雰囲気だ。
しかし、これだけ打ち合ったりしていれば、ウィルも消耗が激しいようだ。
まぁ、罠かなとも思えるよろっとした近衛団長の剣をウィルは、叩き落とし、首元に切っ先を向けた。
「大番狂わせだ!!
ウィル・サーラーが近衛団長に勝ったぞ!」
皆食い入るように見ていたのに誰かの一声で、歓声へと変わる。
「勝者、ウィル・サーラー!」
審判の勝名乗りだけ聞くと、へなへなっと座り込むウィル。
あぁーもうくたくた……と、ぼやいているのが小さく聞こえてくる。
そして、こちらを向いて、ニヤッとする。
勝ったぞ!と言っているのだろう。
決勝は、ウィルと踊ることになった。
1年ぶりの対戦。
私は、心躍る1戦となりそうで、わくわくするのであった。
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