第100話 デザインは、どうしましょう?

 お屋敷に帰ってきて、また、しばらく領地や公爵家夫人としての勉強をする日々。

 少し覚えたことも多くなってきたので、聞いていてもぼんやりでもイメージができるようになってきたおかげか、1日の疲れ方も少し変わってきたようだった。


 兄の結婚式でジョージアと話していたが、そろそろ来年の結婚式に向けて、ドレスのデザインを決めないといけない。



「お義母様、ジョージア様と先日話していたのですが、そろそろ結婚式のドレスを

 決めなければいけないと思うのですが……」



 義母との勉強会のときに私は、結婚式のことを切り出してみた。



「そうね……そろそろ、準備も始めないと……時間はいくらあっても足りない

 ものね。早速、デザイナーを呼びましょう!!」



 そういって、侍女に予定を聞き、デザイナーに来てもらうよう連絡をとる。

 翌日にはデザイナーが来ていて、早速、私のウエディングドレスのデザインの話になる。



「アンナリーゼ様、奥様、この度のご婚約、誠におめでとうございます!」

「ありがとうございます!」

「ありがとう」



 デザイナーのお祝いの挨拶から始まったのだが……どうも、おかしい……



「今回のドレスですが、どういたしましょうか?」

「えっ?」

「アンナリーゼ様のご希望に沿わせていただきます」



 デザイナーにまっさらなデザイン帳を目の前に置かれる。

 普通は、私が気に入るドレスをデザインして見せ、それを選ぶものだが……好きに要望を出してくれと言われると、困ってしまった。



「少し、考えさせて……」




 私は窓際の文机に移動して考えていたのだが、楽しそうな声が聞こえ、チラッと見ると義母の方はちゃんとデザインされたものを選んでいた。

 羨ましい……ジョージア様、来てくれないかなぁ……?

 そんな都合よすぎることを窓辺の文机でデザインを考えながら思っていた。

 すると、客間の扉がノックされ、ジョージアが顔を出す。



「アンナ?ドレスのデザインを決めるって言ってたから見に来たけど……」



 私だけ窓際の机に悩まし気に鉛筆をもてあそんでいる姿を見て、ジョージアが寄ってきた。



「ジョージア様が来ればいいのにって思ったら、来てくれました……」



 気弱そうに笑う私に、どうしたの?と覗き込んでくる。



「デザイン……描かなきゃいけなくて……」



 ふむと私の目の前にある真っ白なデザイン帳をジョージアも見ている。



「難しく考えなくていいんじゃない?例えば……肩は、出す?それともワンショル

 ダーにする?」

「うーん。肩は出したいですね?」

「じゃあ、オフショルダーね」



 私から、鉛筆を取り上げ、真っ白なデザイン帳に描いていく。



「次は、胸回り……」

「見ないでください!」

「失礼……」



 私は、どんなのがいいかなぁ?と考えていると、ジョージアが私を見てサラサラと描き始める……上から下まで総レースのマーメードドレスのような形のドレスが描かれている。

 レースは、もちろん、薔薇の刺繍とメモに書いてある。


 さらに、続きを描き続ける。

 ウエストのところで切り替えしになっており、透け感のある羽のような布と書かれたメモが書いてあった。

 スカートのようになっており、下のマーメードドレスが透けて見えてとっても可愛いのだ。



「ジョージア様、とってもかわいい!」

「よかった。喜んでもらえて……」

「ねぇ、ここのウエストのところを重ねてほしいな。ちょうど、あのカーテンのように!」

「カーテンかい?」

「うん。あんな感じでドレープが……」



 二人で、やいのやいのとやっていると、満足そうにデザイナーが覗きにくる。



「ジョージア様、とっても素敵なデザインですね!アンナリーゼ様にぴったりです!

 さすが、ジョージア様ですね!例えば、ですけど……

 こちらに、アンバーの秘宝のブローチをつけてもいいかもしれません!」



 サラサラっとデザイナーも書き入れていく。

 アンバーの秘宝をそれぞれデザイン画に追加していくと、さらに素敵なった気がした。



「背中なのですが、少しあけても大丈夫ですか?」



 うーんと悩んでいると、横から声がかかる。



「できれば、あんまり見せたくないな……ここまでならいいよ!」



 答えたのは、私ではなくジョージアだった。



「あら、ジョージア様ったら……そんなアンナリーゼ様のこと見せたくないのですね?」

「いや、自慢のお嫁さんだけどね?だから、自慢したいんだけど、見せるのはねぇ……?

 しかも、背中はねぇ?奥さんの背中は、大事じゃない?」



 ジョージアは、意味の分からにことを言い始める。



「かしこまりました。ジョージア様のご希望どおりにさせていただきます」



 二人とも出来上がったデザインに満足そうなので、私は、とりあえず任せることにした。



「ジョージア様のはどうしますか?」

「俺のは、普通でいいよ」

「普通ですか……?フロックコートはどうですか?とっても似合うと思いますよ!

 殿下の正装、とっても似合っていたので……」

「フロックコートか……」

「ダメ?」

「いや、いいよ。アンナがいいと言ってくれるなら!」

「あの……その辺で……あとは、こちらで……」



 ジョージアの服の袖を握り甘えて聞いていたので、全くデザイナーのことを忘れていた。

 そう言われると、恥ずかしくなってきたし、デザイナーもちょっと逃げたそうにしているのがわかる。



「ごめんね。アンナを前にすると、こんなもんだから……」



 ジョージアは、私にとても甘い……そして、私にべたべたと触ったりくっついたりしているのだ。

 遠くから見守っていた義母は、呆れた顔をしているのがチラッと見えたのだった。

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