第28話 エリザベスの宝飾品を探せ!

 ドレスの打ち合わせをしたのは、ちょうど夏季休暇に入る前だった。


 兄は、この夏季休暇をエリザベスのドレスにあう宝飾品を選ぶのに費やしていたようで、屋敷に商人を呼んだり、出かけて行ったりと忙しそうにしていた。

 当日まで、お互い衣装について、内緒にすることになっていたので、私たちはお互いどんな衣装になったのか知らなかった。



 ただ……兄のセンスが……イマイチすぎたのか……さすがに、渡す宝飾品が決まらなくて泣きついてくる。




「いーもーとよー!! 今すぐ助けてくれ!緊急会議だ!」




 バンっと勢いよく部屋の扉をあけられて正直驚いた。

 座っていた椅子からちょっとお尻が浮くぐらいにだ。

 扉の前まで、兄は気配も音もたてずにきたから、よけいに驚いた。

 差し脚抜き足がうますぎる……私は、そんなくだらないことを頭の隅の方で考えしまう。




「お兄様……ビックリしたではありませんか!

 それにしても、顔色悪いですよ……?」




 扉の前で仁王立ちしている兄は、とっても顔色が悪い。

 その理由は、エリザベスに贈る宝飾品が未だ選べないということへのプレッシャーだった。

 ずっと悩んでいるようだから知っていたけど、さすがにこれは兄の試練だ。

 エリザベスとの将来を考えるなら、一人で頑張るべきなのだが……そうも言ってられない様子に、私は見かねてため息一つつく。

 何も言わずに扉の前で仁王立ちしてぶつぶつ言っている兄は相当怖いのだ。




「お兄様、そんなところでぶつぶつ言ってないで入ってきてください。

 一緒に考えましょう。

 エリザベスには、告げ口しませんから……ほら、ここに座って!」




 妹自ら席を用意すると、渋々そこに座る。




「それで、ドレスは決まったのですよね?」




 コクンと頷く。




「あとは、宝飾品ですか?」




 再度コクンと頷く。




「めどはたってますか?」




 フルフルと首を横に振る。

 しゃべらずに動きだけで会話をしてくるので、相当めんどくさい。




「お兄様、めんどくさいです」




 そういうと、俯き加減だった兄は、こちらにぐわっと顔を向けてきた。




「お兄様、近いですし怖いです!」

「……アンナ……僕は……僕は、どうしたらいいのだろう……?」

「どうしたらって、エリザベスに似合う宝飾品を選べばいいだけの話ですよ?」




 頭を抱えてフルフルとしている。

 本当にめんどくさい。




「お兄様、めんどくさいので、出てってください!」

「妹よ……見捨てるのか……!」




 寧ろ、妹にすがるのか……?




「着替えるから出てけって意味ですけど。

 お兄様も着替えてきてください。街にでますよ!」

「妹よぉぉぉ!!!」




 ガシッと抱き着つかれる。

 避けたつもりが、ガッチリ腕の中におさまってしまった。

 あぁ、本当に面倒なことに巻き込まれた。




「めんどくさいので早くしてください。

 用意しないなら、私は、行きませんよ?」




 涙目になっている兄を軽く脅しながら、部屋から追い出す。

 そして、お忍び用のワンピースに私も着替えた。

 兄もさっそく着替えてきたのだろう、今度はちゃんとノックの音が聞こえる。

 私も着替え終わったので入るように促すと、お忍び用に着替えて意気揚々としている。

 さっきまでのめんどくさい兄はいなかったが、基本的に変わっていないと思っておいていいだろう。




 馬車を用意してもらって、街まで出る。

 貴族御用達の宝飾品の売り場は、全部見たけど心惹かれるものはなかったと兄が言うので、庶民のお店に向かうことにした。

 デザインさえ気に入れば、何とでもなる。

 ようは、金に物言わせるだけでいいのだ。

 とても簡単なことだ。




「アンナ……ここは庶民の店だぞ?」




 貴族子息令嬢の卒業式で飾るにしては安上がりと思われるが、意外と掘り出しものもあったりする。

 そして、何より気に入るデザインを見つけてデザイナーと交渉すればいいのだ。




「いいからいきますよ!」




 馬車から兄を引きずって歩く。

 まるで、アクセサリーを買ってとせびる彼女みたいだ……

 無駄な抵抗とわかりつつも、妹ですからねーっと周りに小さく呟く。

 誰も聞いていないだろう。



 お店に入ると色とりどりの宝石がガラスケースに入っている。

 とても品質のよさそうなものだった。

 これなら、普通にエリザベスに渡しても問題ないように思う。




「さて、お兄様。どんなものがいいのかイメージはありますか?」




 私はエリザベスのドレスを知らない。

 どんな仕上がりになるのかは、当日の楽しみとしているからだ。




「イメージなんだけど、蝶がいいと思うんだ。

 ドレスも花っぽい感じだから、たぶんかわいい感じのものがいい!」




 想像しているのだろう……だらしない顔をしている。

 そんな兄はほっておいて、私はショーケースを見ていく。

 赤みがかった髪にルビーのような瞳。

 たぶん赤とかオレンジ、ピンクなどの暖色系のドレスが思い浮かぶ。

 それなら、紫の蝶はどうだろうか?

 少し青みがあれば髪や瞳が映えるのではないだろうか?

 あとは、真珠。

 大ぶりの真珠を付けるのもかわいいと思う。

 今、貴婦人の中では真珠がはやり始めたのだ。

 上級貴族ともなれば、流行りは大事だ。

 それとなく兄に言ってみると、じゃあと店員に話しかけ、それらしいものはないか尋ねていく。

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