第26話 獣王

 三体の竜が首を傾げていた中、その後ろから巨大な体躯を誇る一人の獣人が前に出てきた。


「あ~、すまぬ。我も自己紹介しても構わぬだろうか?」

「あなたは?」


 その者は地に片膝をつき、頭を下げながらアースに名乗りをあげる。


「我は獣王。獣王【ガラオン・イル・ゴッデス】。ゴッデス大陸に追いやられた獣人らの王であった。これより我ら獣人はアース殿の指揮下へ入る。如何様にもお使い下さいませ」

「し、指揮下?」

「はい。我らを救うと言う事は人間の意に逆らうと同義。ならば我らはアース殿のためにいくらでも力を振るいましょうぞ!」

「……なるほど。じゃあ俺たちはこれから仲間だ。よろしくね、ガラオン」

「はっ!」


 獣人たちが獣王に倣い一斉に頭を下げる。


「さて、じゃあ上に行こうか。皆ついてきて」


 アースが先頭を歩き、階段を上がる。長い階段を上がるとやがて太陽の光が射し込んできた。そしてアースと火竜以外の全員がその大地を見て驚いていた。


「これが……あの死の大地? 嘘でしょ!?」

「わぁっ、凄いなぁ~! 緑でいっぱいだ!」

「俺はさっき上からチラッと見たけどよ……。近くで見るとスゲェなこりゃ」


 それに獣人たちも続く。


「なんと……! てっきりロクに作物も育たぬ地を宛がわれると思っていたが……」

「凄いなぁ~……。これ芝生じゃないか?」

「ゴッデス大陸より豊かねぇ~……」


 アースはこの地下港がある区画を獣人たちに与える事にした。ここは大陸唯一の入り口であり、今や玄関口となっている。ちなみに森はエルフの長ルルシュに頼み迷いの森にしてもらった。これで仮に人間が森から入って来ようが、延々広大な森でさ迷う事になるだろう。


「さてと……千人だっけ。皆はどんな感じの家に住んでたのかな?」

「我は城だったが……民は煉瓦を重ね屋根に板を渡し葉をのせただけの簡易な家であった」

「へぇ~。じゃあさ、ログハウスでも大丈夫?」

「ログハウス??」

「うん。こういうの」


 そう言い、アースはストレージに入れてあったログハウスを取り出し、目の前に置いた。


「……は? い、今のは??」

「俺のスキル【ストレージ】から取り出したんだよ。ま、そこは気にしないでもらって、とりあえずこれがログハウスね。どうかな?」


 アースの出したログハウスは二階建てだった。中にはやはり魔道具が置かれ、先ほど聞いた話の家よりは遥かに良いものだと思われる。


「こ、これを与えていただけると?」

「うん。何戸必要かわかります?」

「む……。ああ、そうか! 全員が独り身ではないから……少し確認する時間をくれないか?」

「いいよ。なら俺は材料取りに行ってくるね」


 そう言い、アースは森へと飛んで行った。


「アースのやつ……どこであんな知識を? まだ二十年ちょっとしか生きてないだろ?」

「凄いわねぇ……。しかも力も私達と遜色ないし、ああ、知識が凄い分私達より上ね」

「あのストレージってスキルといい、死の大地を復活させちゃった力といい……アースは確実に僕より上だよ」

「……久しぶりに親父らに会いに行くか。寝てたら叩き起こしてアースの事を聞き出そうぜ」

「「了解」」


 火竜が確認作業中の獣王に声をかける。


「獣王さんよ」

「む? どうしたのだ?」

「俺らはちっと生まれた場所まで行ってくるからよ。後はアースを頼ってくれるか?」

「わかりました。そう言えば皆さんはこの大陸の生まれでしたな」

「おう。じゃまたな!」


 そう言い、三体の竜は山の方へと飛んで行くのであった。そしてアースはと言うと。


「獣人が来た?」

「はい。兄たちに守られながら船で」

「そう……」


 ルルシュは頭を悩ませる。


(獣人が来た。つまりゴッデス大陸はもう……。となると……再び力を取り戻し、ゴッデス大陸でも土地が足りなくなったら……)


 ルルシュは顔を上げた。


「アース、私達も外壁の中に行きます。そしてこれからの事について話し合いましょう」

「わかりました。既に内部にはエルフ用の街も作ってありますのでいつでも移住可能ですよ」

「あらそうなの?」


 アースはキョロキョロと周囲を見回す。


「あの、フランとアイラは?」

「ああ、今ダンジョンで修行中よ。二人ともようやくレベル500になったかしら」

「ダンジョンかぁ~。頑張ってますね」

「ええ。アイラはともかく、フランはあなたの力になりたいって必死に頑張っているわ。ここ数年で見違えるように成長してるわよ」

「へぇ~」


 そこにちょうどダンジョンから二人が戻ってきた。


「おぉぉぉぉっ! アースではないか!」

「え? アイラ?」


 久しぶりに会ったアイラはいかにも戦士と言わんばかりに成長していた。そして……。


「アイラ、その眼帯はなに?」

「ああ、ちょっとヘマしてな。左目もってかれちまったんだよ」

「だ、大丈夫なの?」

「ん? ああ、もう慣れた」


 そして、汗を吹いて来たのかフランが中に入ってきた。


「ただいま~……ってアースさんっ!?」

「やあ、フラン。久しぶりだね」

「え? え? なんでここに!?」


 フランは母親の言ったとおり、かなり成長していた。見た目は変わらないが、膨大な魔力を身につけているのわかる。


「ちょっと色々あってね。獣人たちがゴッデス大陸から兄さんたちと逃げて来たんだよ」

「えっ!? じ、獣人が? で、ではゴッデス大陸は……」

「ああ。人間の手に落ちた」

「そんな……」


 そこにルルシュが口をはさむ。


「二人とも、私達も今から外壁の内部に移るわ。まだ時間はあるでしょうが、再び人間が力を取り戻したら必ずここにも来る。ゴッデス大陸のようにならないためにも、今こそエルフ、獣人、魔族が力を合わせる時よ。協力してこの大陸を守らなきゃね!」

「竜は含まれないのかなぁ~?」

「ふふっ、竜には先頭に立ってもらわないと。特にアースさんにはね。外壁の中、どうなっているか楽しみだわ」


 そして、アイラがいつものようにこう切り出した。


「それよりまずは飯だ! 久しぶりにアースの飯が食える! 食材はたんまりあるぞ! さあ、私の腹を満たしてくれっ!」


 数年経っても相変わらずなアイラであった。

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