雑木林の記憶をつなぐ木々と花の物語

武蔵野の雑木林が伐採され、住宅地へと変わった土地を舞台に、かつての風景が残した“名残”を丁寧に描いた一編です。

クヌギやナラなど、伐採を免れて点々と残った木々。
それらは、かつての森が吐いた“ため息”のように存在し、現在の景色の中でひっそりと過去を語ります。

さらに語り手の庭では、西洋の園芸品種に混じって「うけらが花(現在のオケラ)」が咲き、
万葉の時代と武蔵野の雑木林、そして現代という三つの時間が重なり合います。

失われたものを追うのではなく、
“まだ残っているもの”から過去をそっと手繰り寄せる――
そんな静かで優しい視点が印象的な作品です。

読み進めるほどに、胸の奥でじんわり温かいものが広がるような、穏やかな余韻が残りました。

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