憧れよりも恋を重視する(3)

 椋居と羽計。共に相亀の友人であるらしい二人は恋人同士のようだ。仲良く腕を組む二人の様子に、東雲が密かに驚いていると、椋居が東雲の顔をじっと見ていることに気づいた。


「えっと…何かついてる?」


 東雲が自分の顔に触れてみると、椋居は笑顔で何でもないと答えながら、その背後に立つ我妻と久世に目を向けている。


「どちらかというと、頼堂君側の感じか…」

「チーくん、どうしたの?」


 羽計が椋居の腕に抱きついたまま、不思議そうにそう聞いた。椋居は羽計の耳元に口を近づけ、何かを言ってから、納得したように頷いている。


「あのさ、三人は弦次と仲がいいの?」

「仲がいい、よね?」

「まあ、良好な関係だよ。手にキスくらいはできるね」

「え?久世君と相亀君ってそういう関係なの?」

「東雲さん?冗談だよ?」


 困惑した顔の久世を尻目に、我妻が頷く姿を確認した椋居がニヤリと笑い、三人に顔を近づけてきた。少し離れた位置で、何故か落ち込む相亀を確認しながら、相亀に聞こえない声で質問してくる。


「なら、三人は弦次が仲のいい女の子とか知らない?」

「女の子?どうして?」

「ほら、あいつ女の人が全般的に苦手だから。そろそろ、克服した方がいいと思うんだけど、その機会もなくて」


 椋居の質問を持ち帰る形で、東雲は我妻と久世の顔を見た。二人は揃って、東雲と同じようにきょとんとした顔を見せてから、先に我妻が「あ」と声を出した。


「そういえば、この前いたな」

「え?誰?」

「ほら、バイト先の知り合いっていう」

水月みなづきさん?」


 東雲は幸善の見送り会で逢った水月悠花ゆうかの顔を思い出し、そうだったかと考え込んだ。東雲は幸善との仲は疑っていたが、相亀との関係は気にしていなかった。


「いや、そっちじゃなくて、その友達」

「ああ、そういえば」


 我妻の隣で久世が思い出したような声を出した。水月の友達というワードから東雲は考え込んで、穂村ほむら陽菜ひなの顔を思い出した。


 その穂村と相亀のやり取りを思い出し、東雲は我妻が言わんとするところを理解した。確かに今の質問に対する正答は穂村のようだ。


「穂村さんは確かにそういう感じだった」

「その穂村さんって、どんな子?」


 今度は羽計が顔を近づけ、興味で彩った声を出した。子供のように純粋無垢な好奇心が漏れ出ている。


「どんな子…ちょっと難しいけど」


 東雲がこの前にあったことを二人に話すと、二人は顔を見合わせて納得したように頷いている。その様子を東雲が不思議そうに見ていると、背後で我妻が声を出した。


「気になるなら、逢ってみるか?」

「え?逢えるの?」

「相亀に頼めば呼べるだろう。そういう流れを作ればいい」


 まさかの我妻の提案を受け、椋居と羽計はキラキラとした顔をしていた。すぐに我妻の手を取り、「お願いするよ」と言ってきた瞬間、我妻が久世に目を向けている。

 久世は一瞬、その視線に嫌な顔を見せたが、すぐにその表情を笑顔に変え、「僕が行ってくるね」と言って、頭を抱えていた相亀に近づいた。


「ねえ、相亀君」

「あ?何だ?久世か?」

「君の友達と今度、遊ぶことに決まったから、君も来てよね」

「は?」

「あ、そうだ。この前にいた水月さんだっけ?彼女とその友達も呼んでね。お願いだからね」

「いや、ちょっと待って」

「日程はそうだな…今度の土曜日でいいかな?」


 振り返った久世に椋居と羽計が頷き、東雲がどうだったかと確認しようとした瞬間、久世は相亀に目を戻した。


「頼んだよ、相亀君」

「いや、ちょっ…」


 相亀は何かを言い返そうとしたが、それを聞く前に久世は相亀に背を向けて、問題なく決定したことを東雲達に伝えてきた。嵐のように訪れ、嵐のように去っていった久世の後ろ姿に、相亀は言葉を失ったのか、魚のように口をパクパクさせている。


 その姿に同情しながら、東雲は一つ相亀に言いたいことがあって、その近くに近づいた。


「あの相亀君」

「あ、何…?」

「幸善君がいつ帰ってくるとか聞いてない?」

「いつ帰ってくるか分からないけど、そうだな…週末までに帰ってきて欲しいな…」


 そう呟き、ぐったりと項垂れた相亀の姿に、東雲は苦笑いしか出てこなかった。

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