星は遠くで輝いている(3)

 幸善の留学は決定と同時に広がりを見せていたようだ。


 帰宅した千明と父親である頼堂善明よしあきに幸善は留学の一件を話そうとしたのだが、幸善が話すよりも先に二人は既に留学のことを知っていた。

 幸善が口に出そうとするよりも先に、二人は幸善に留学するのかと聞いてきて、幸善は千幸の拡散能力の高さを知ることになった。


 幸善が話にある留学を受ける意思を伝えると、二人は非常に現実的なことを心配し始めた。特に善明は父親として、息子が海外に行った際の安全性やそもそもの金銭面の心配があるようだ。


 ただし、その辺りは既に七実や羽衣が答えを用意していたので、幸善が答えるよりも先に千幸が全て政府の手配があることを説明してくれていた。


 留学のためにかかる費用は全て国から出ることや、政府の人間が同行することから、向こうでの安全は確保されることを伝えられ、善明は取り敢えずの納得をしていた。


 千明も幸善が外国に行って、日本の恥さらしにならないかと不安に思っているようだったが、同行する人間が言語的なサポートや現地での行動に関わってくれると分かり、その心配もなくなったようだ。

 最後には気楽にお土産を頼んできたので、確約はできないながらも、買う時間があれば買ってくると幸善は答えておいた。


 この時の家族への話の広がり方は十分に幸善を驚かせたが、その起爆剤が千幸であることを考えると、他のことでもあり得ることだ。

 最初に膨らんだ驚きはすぐに納得に変換することができた。


 しかし、それもここまでの話だ。すぐに幸善は納得に変換できないほどの驚きを得ることになった。


 そのきっかけが一通の連絡だった。


 それはスマホに届いたもので、幸善は本部に行くための準備を進めながら、そこに表示された名前を確認した。


 東雲しののめ美子みこ。その名前を見た時は特に何も思わなかった。


 例の人型ヒトガタの一件から、東雲からの連絡は何故か増えていた。それも何気ない話題が多く、その理由は良く分からないが、その時の衝突があったから、変に気を遣っているのだろうと幸善は思っていた。


 それと同じ連絡が今日も届いた。それくらいの気持ちで幸善は届いた連絡を確認した。

 そこで幸善は目を見開くことになった。


『幸善君、留学するって本当?』


 どこから聞きつけたのだと言いたくなる話題に幸善は頭を悩ませ、数人の候補者の顔を思い浮かべた。


 幸善の海外行きを知っている人で考えると、まずは相亀あいがめ弦次げんじが思い浮かんだが、相亀は本部に行くことは知っていても、留学するという話は聞いていないはずだ。


 それにあの相亀が東雲に連絡を取れるとは思えない。流石に文面上の会話や直接的な接触のない会話なら、相亀も人並みにはできると思うのだが、それでも東雲に声をかけるとは考えられない。


 相亀ではないとしたら、次に思いつく人物は東雲との繋がりもあって、留学の話を持ってきた七実だ。


 七実なら、その話自体は知っているので、東雲にすることはできるかもしれないが、教師である七実とその教え子である東雲が個人的に連絡を取るとは考えづらい。


 それも男子生徒ならともかく、女子生徒なら無用な問題になりかねないので、その危険を七実が冒すとは思えない。

 序列持ちのNo.7がそこまで馬鹿とは思いたくない。


 そうなると、候補者は幸善の家族に限られるのだが、その誰かと思っていたら、すぐに答えが送られてきた。


『千明ちゃんから聞いたんだけど』


 子は親に似る。母親の拡散能力の高さはしっかりと娘が受け継いだようだ。

 それを再確認しながら、幸善は東雲に本当であることを伝える文面を送った。


 そこから、東雲からの連絡は少し途絶えたが、その間にも幸善の話は広がりを見せていたらしく、我妻あづまけいからも同じ確認の連絡が届いた。


 それに東雲と同じように答えている間に、東雲が話を進めていたようで、幸善の知らないところで、幸善の見送り会の開催が決定され、幸善が出発する前の放課後に集まろうという話ができていた。

 どうやら、久世くぜ界人かいとも参加する予定らしい。


 そこまで、ほんの数十分の出来事であり、幸善は東雲から送られてきた見送り会の開催の知らせを見ながら、小さく苦笑を浮かべる。


「本人の意思は?」


 因みに、主役である幸善は強制参加である旨が東雲から伝えられていた。

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