風は止まる所を知らない(3)
連絡は
それは二人が待ち望んでいた一報であり、その日の午後には二人揃って、その連絡を送ってきた人物の元を訪れていた。
そこはフクロウカフェ『ミミズク』だ。
連絡はそこの店主、
仲後よりも先に
その視線に葉様が睨み返し、一触即発とも言える雰囲気に水月が苦笑する。
流石の葉様でも刀を作ってもらった恩義から、福郎に手を出すことこそないとは思うが、その険悪な雰囲気のまま、店の中に入っていくのかと思うと、水月の胃は店に入る前から痛みを訴え始める。
「喧嘩しないでね」
水月が注意するように葉様に言うと、葉様は不満を顔に出しながらも、一応小さく頷いてくれた。
それを信じることにして、水月と葉様が店に入ると、カウンターの向こうに立っていた仲後が軽やかに挨拶してきた。
「いらっしゃい」
そう言い切ってから、水月と葉様であることに気づいたようだ。
二人がもう来るとは思っていなかったのか、二人の来店に少し驚いた表情を見せてから、「早いね」と笑いながら言ってくる。
「その方がいいと思って」
「確かに。なら、こっちに入ってきて。奥で渡すよ」
仲後はカウンターの向こうの扉を開きながら、福郎に客が来店したら伝えるようにお願いしていた。
福郎が軽く俯いたような動きを見せてから、仲後は水月と葉様を連れて、店の奥に進んでいく。
そこには仲後の居住スペースと思われる空間が広がっていた。
仲後は二人にしばらく待つように言ってから、その場所に入ってすぐのところにあった扉の向こうに消えていく。
やがて、その奥から戻ってきた仲後は三本の刀を握っていた。
「これが君達の新しい刀だよ」
そう言って、仲後はその三本の刀を水月と葉様に渡してきた。
水月が受け取った刀は二本あった。
一本は普通の太刀のようで、これまで水月が使っていた小太刀よりも少し大きいサイズをしている。
もう一本は脇差くらいのサイズの刀だったが、そのサイズで二本なら未だしも、一本は普通の太刀のサイズで、水月は両手で扱えるのかと不安になった。
「この二本ですか?」
「ああ、そうだ」
「私、片手に一本ずつ持って、刀を扱うこともあるんですが?」
「確かにその大きさだと不安だろうとは思うけど、二本扱う内の一本はそれだけで運用できるように考えていないと、もしもの時の対応力が落ちる」
確かにこれまでの小太刀だと、一本だけでうまく立ち回れない時があった。
それをなくすためには、一本だけでも十分に扱える刀を必要としていた部分はある。
しかし、そうなると二本での扱いが難しくなるのではないかと、渡された二本の刀を見た水月は思った。
「それはそうですが、この二本を扱えますかね?」
「扱えるかどうかという問いに対しては分からないと答えるしかない。それは君の努力次第だ。ただ刀の専門家から言わせると、その二本を扱えるようになった方がこれまでよりも戦えるはずだ。これまで以上に間合い取りがしやすいはずだ」
水月は試しに納刀状態の二本の刀をそれぞれ片手で持ってみる。
確かにこれまでの小太刀と比べると、カバーできる範囲が広がり、相手との位置取りを調整しやすい。
これまではリスクを排してでも踏み込まないといけない瞬間があったのだが、これだと今までの間合いの外からも触れるので、場合によっては相手を動かすこともできそうだ。
それは水月が抱えていた弱点の一つをうまく緩和するものになる。
問題は扱えるかどうかだが、それは確かに仲後が言うように、自分の力量次第の部分だったので、水月は扱えるように自分の力を高める必要があると思った。
「君にはこの刀だ」
三本持っていた刀の最後の一本を仲後は葉様に渡していた。
それは見るからに普通の太刀のようだったが、唯一普通の太刀と違っている場所があり、それが柄だった。
柄が普通の太刀よりも少し長く作られているように見えた。
「この作りの方がいろいろと都合がいいと思ったんだが、どうだろうか?」
仲後の言葉を聞きながら、葉様が一通り刀を軽く振ってみて、満足したように頷いている。
「悪くない」
「それなら、良かった」
無事に二人の刀は完成し、こうして手元に渡ったのだが、一つだけまだ足りていないものがあったらしく、最後に仲後が言ってくる。
「ただその刀の名前だけまだ決まっていなくて」
「名前…?」
かつて仲後筱義の妻である仲後
水月は自分で考えるべきなのだろうかと考え、葉様は興味がなさそうだったが、仲後は名前を決められなかった代わりに別のことを決めていたらしい。
「それで名前は秋奈さんに決めてもらって欲しい」
「え?秋奈さんに?」
「その方がいいだろう」
そう仲後に言われ、水月と葉様は思わず顔を見合わせていた。
それはそれで、あまり良いイメージが湧いてこない。
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