風は止まる所を知らない(1)
太平洋上に観測された謎の島から、遠征に出ていた二級仙人達が帰還し、その島で得られた様々な情報がQ支部に齎された。
特に
それによって、奇隠は対人型の動きと同時に、対11番目の男の動きも進めていくことになるのだが、そこに一つの問題があった。
それが島で判明したいくつかの謎だ。
奇隠がその中でも重要視しているのが、キッドを始めとする仙術使いの存在だ。
これまで、
しかし、その使用者がキッド以外にも存在すると判明し、仙術の使用者がどのように誕生しているのか、その部分が大きな謎として残った。
何らかの修行か、それ以外に特殊な方法があるのか分からないが、どちらにしても、その方法次第では、その使用者の数は人型の総数を大きく上回る可能性がある。
その場合、キッドの保有する戦力は人型を大きく超える可能性が高く、奇隠が直面する脅威の中で、最も危険な存在となりかねない。
人型と匹敵するか、それ以上の戦力を奇隠だけで対応しなければならない。それも人型の対処と並行して。
その困難さは語るまでもなく分かることで、奇隠は慎重を期して行動しなければいけなくなった。
もしも、同時に相手するようなことが起きれば、奇隠という組織が保てるか分からない。
しかし、そこで一つの大きな問題が発生した。
それがようやく判明したキッドの所在が再び分からなくなったということだ。
太平洋上で確認された島から、キッドの姿が消えたという話ではなく、その島自体が消失してしまった。
これによって、キッドの居場所は再び分からなくなった。
これまでなら、再び調査を進めることに決めて、この話はすぐに終わっていたのだが、今回はその戦力の大きさが判明した後だ。
その所在が分からなくなったことを簡単に考えることはできず、この消失を重大な問題と認定するしかなかった。
その解決のためにいくつかの手段が考えられたが、どれが決定打となるか奇隠は判断がつかない。
それもそのはずだ。何せ、キッドの所在も考えも何も分かっていない状態なのだから、その手段が特定できるはずがない。
いくつかの手段を並行して行うことに決定し、その内の一つがキッドの島の調査を進めたQ支部にも与えられた。
それを実行に移すために、
最低でもキッドと一緒にいるシェリー・アドラーと接触したが確認され、Q支部に捕らわれていた人間である
Q支部に捕らわれていたが、その生活は外部と接触する可能性のある行為以外は全て許されていた。
生活リズムも整ったことから、全体的に血色は良く、見た目だけなら捕らわれた当時よりも健康的に見えた。
「このタイミングで面会ですか?」
鈴木は今更自分に何を聞きたいのだと言いたげだったが、鬼山はその態度も正当と思っていた。
鈴木から話を聞けるとは鬼山も思っていない。
ただ解放することで元から接触していたキッドや、Q支部内で捕らわれていたことを知っている人型が鈴木から情報を得ようとする可能性がある。
既にキッドはQ支部に侵入しているが、それでも知り得なかった情報を鈴木が手に入れていた場合、奇隠は弱点を晒すことになる。
だから、鈴木は解放できない。それだけの話だった。
しかし、今回は違っていた。
「今日は話を聞くわけではない」
そう言いながら、鬼山は部屋の中にいくつかの荷物を運び込ませる。
それを見た鈴木が分かりやすく表情を変え、鬼山の顔をじっと見てきた。
「これはまさか?」
「長らく拘束して悪かった。解放の許可が出た。今日から自由だ」
鬼山の一言に笑みを浮かべ、鈴木はテーブルの上に置かれた荷物を見ていた。
それらは鈴木が捕らわれた時に持っていた鈴木自身の持ち物だ。
「しかし、急にどうして?」
不意に笑みを消し、何か裏があるのかと考えたらしい鈴木を見て、鬼山は優しい微笑みのまま、かぶりを振った。
「上の頭が固かっただけなんだ。許可が出るまで時間がかかってしまった」
鬼山が優しい口調で告げると、鈴木は少し納得がいかない表情を見せながらも、説明されることはないと判断したのか、それ以上は聞いてこなかった。
その姿を見ながら、鬼山は心の中で頷く。
もちろん、鈴木の解放には裏があった。
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