影が庇護する島に生きる(21)

 第一部隊が上陸後に到着した村。第二部隊が村人に案内され、辿りついた村。

 それに続いて、第一部隊が新たに発見した村は、第一部隊が先に到着していた村と変わらないログハウスの立ち並ぶ村だった。


 突如、森の中から現れた第一部隊の面々に、村人達は驚きこそしていたが、最初の村でそうだったように危害を加えられることはなく、休みたいと言った羽衣の言葉を受け入れて、村の中での休息を許してくれていた。


 傘井と漆野は走りに走った足を休め、羽衣は先ほどまでの出来事を思い出すように考え、尾嶋は頻りに尻の様子を確認し、夜光は湧いてきた眠さを欠伸の形で表した。


「疲れたー。寝ようかな?」

「何で走ってない人が疲れてるのよ…」

「背中、叩きつかれたの」


 欠伸交じりの夜光の一言に、森の子供を発見した際、もっと強めに頭突きを噛ますべきだったと傘井は酷く後悔した。今からでも間に合うのなら、お釣りを渡したいくらいだが、その気力は既に傘井に残っていなかった。


「この村が近づいたことで足を止めたのだろうか?」


 羽衣が先ほどの動物達の行動を思い出し、そう呟いたようだった。


 確かに、さっきの動物の行動は普通であれば考えられないものであり、その理由を考えた時に真っ先に思い浮かぶのが、この村の存在だ。第一部隊がすぐにこの村を発見し、ここに到着したように、村はあの地点からかなり近い場所にあった。


 村に近づかないように動物達は停止した。それは村周辺の痕跡の少なさも合わせると、十分に高い可能性と思えた。


「ですが、人を恐れて村に近づかないのなら、そもそも私達を追いかけませんよね?」

「第一、何で私達を追いかけたんだろう?」


 女の子が動物達に指示を出し、傘井達を追いかけるように仕向けたことは何となく分かっていたことだが、そこに至る流れや方法は逃げることに必死で一切、分かっていなかった。


 あの状況で唯一、それを理解していたと思われる人物が、女の子の声よりも先に逃げる準備をするように指示を出してきた羽衣だけだ。


「何があったんですか?」

「詳細は分からないが、私達が敵であることを説明するような発言が聞こえてきた。それで何かがあるかもしれないと思い、先に指示を出したんだ」

「敵であるって、あの状況で急に?」

「理由は分からない。本人に聞くしかないな。それよりも、問題は動物達をどうやって仕向けたのかという点だ」


 動物達から漂う仙気は一般的に動物から感じられるものであり、そこに意図的に加えられたものはなかった。

 それはつまり、仙技や仙術の類で動物達が操られているわけではないことを意味している。


 妖気は言わずもがな、感じた段階でそれが原因であると理解できるので、その部分がない以上、動物達が傘井達を追いかけた理由が分からない。


「あの…」


 自分のお尻を真剣に労っていた尾嶋が唐突に声を出した。眠りかけた夜光を除いた三人の視線が尾嶋に向かい、尾嶋は小さな悲鳴を上げる。


「いや、何を驚いているんだ?どうしたんだ?」

「いや、勘違いかもしれないんですけど、女の子をじっと見ていて思ったんです」

「好みのタイプだったのか?」


 話の腰を全力で折るためだけに夜光が目を覚ましたようだった。瞬間的に沸騰したように尾嶋の顔が赤くなり、全力で否定の言葉を叫びながら立ち上がった。その反応を見た夜光が心底楽しそうにケラケラと笑っている。


「何で笑ってるんですか!?違いますからね!?」

「分かっているから、思ったことを話してくれ」


 このままだと永遠に話が進まないと思った羽衣が、尾嶋を宥めるようにそう聞いた。尾嶋は顔の赤さを継続させながらも、夜光は無視することに決めたらしく、さっき言おうとしたことを今度は口に出す。


「何か、みたいに見えませんでしたか?」

「動物達と会話?耳持ちという奴か?」


 そう言ってから、羽衣はすぐに自分の言葉の違和感に気づいたようだった。


 人型が耳持ちと形容し、その存在を危惧しているのは、妖怪と会話ができる人間だ。今回の動物達は妖怪ではないことが分かっているので、それには当てはまらない。


「ちょっと待って。ただの動物だ。妖怪ではないから、そこの会話が可能だとは思えない」

「いや、あくまでそう見えたっていう感想ですよ。女の子が何かを話して、鹿が一瞬、頷いているように見えたから、会話しているみたいだなって思っただけで」


 前例のある妖怪との会話なら未だしも、動物との会話など聞いたことがない。そんなことはあり得ないと、その場にいる誰しもが思った。


 しかし、そうであると仮定すると、いくつか説明がつくこともあるのは事実だった。


 まず、動物達が傘井達を追いかけた理由だ。会話が成立し、女の子からの指示があったのなら、特別な力を使わなくても、動物達が従う可能性は十分にある。

 それに村の周辺に近づかない理由も、女の子に止められているからであると考えたら納得できた。


「動物と会話できる少女の存在…?流石に…」


 そう呟きながらも、現状では完全に否定できないことであると、呟いた羽衣もそれを聞いていただけの傘井も、十分に理解していた。

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