影が庇護する島に生きる(2)

 太平洋上で発見された謎の島。その島の調査のために構成された二級仙人を中心とした二部隊。その内、第二部隊と呼ばれる部隊の一員に選ばれたことに、冲方うぶかたれんは驚いていた。


 普段は冲方隊として三級仙人をまとめ上げている冲方が、有事の際に呼び出されることはほとんどなかった。特に冲方隊には頼堂らいどう幸善ゆきよしがいる。人型の存在が確認された今、その人型に狙われている幸善を放置して、自分が離れることになるとは思ってもみなかった。


 その部分を心配した冲方が鬼山に他の仙人を選ぶように進言したところ、序列持ちナンバーズが幸善の周辺に三人もいること、何より、他の仙人の動きを一時的に止めることができないことから、冲方以外にいないと言われてしまった。


 そう言われたら仕方ないと諦めるしかなく、冲方は該当の島に向かうための船に乗り込むことになって、そこで他の第二部隊の面々と顔を合わせることになった。


 一人は冲方が何度も逢ったことのある人物であり、冲方と同じように三級仙人をまとめ上げる役をしている有間ありま沙雪さゆきだった。気の小さい女性ではあるが、肉体の強化に於いては二級仙人の中でも屈指の実力を有しており、戦闘が起きた際に非常に頼りになる人物だ。


 他の二人はあまり顔を合わせたことがなかったのだが、聞いてみると冲方や有間とは違う地域をメインに活動している仙人のようだった。


 一人は渦良うずら憂斗ういとという仙人で、普段は単独での活動が多いらしい。どうやら、山奥の村を中心に活動しているようで、他の仙人が周辺にいない他、大きな仕事に関わることがないようだ。

 今回、その渦良が来たことで、その地域の仕事が滞らないかと冲方は心配に思ったが、既に三ヶ月ほど仕事がない状況が続いていたそうで、話を即答で引き受けたと笑う渦良に、冲方は苦笑することしかできなかった。


 もう一人は仙医せんいのようだった。かえで紫帆しほという女性であり、極彩色の髪の毛が目を引く見た目をしているが、普段は一般的な医者としても働いているらしい。それも小児科医のようだ。


 長物が入っていると思われる袋を所持した渦良は戦闘員として選ばれ、楓は戦闘で傷を負った際の治療を考えて選ばれたと、冲方はメンバーを見た段階で思い、本人達もそう感じたようだった。


 そこに政府の仙人と、海外からの応援が加わると聞いていたのだが、海外からの応援で来る仙人は遅れているようだった。


 それを知らせたのが、最も早く船に到着していた御柱だった。どうやら、第二部隊に加わる政府の仙人はこの御柱のようだ。


「海外から応援が来るのは結構ですが、その一人が加わったところで、向かう先にいるのが人型なら、このメンツで大丈夫なんですか?言っておきますけど、そんな訳の分からない島で殉職とか嫌ですよ」


 渦良が皮肉交じりでそう言っていたが、それは実際にそうであると冲方も思っていた。Q支部からの命令だから来たのだが、そこにいるのが人型であるのなら、二級仙人だけで戦えるのかどうか分からない。特に未だに居場所の判明していない人型は多くいる。その全員が島にいたら、間違いなく対応できないはずだ。


「その心配はいらない。最低でも勝算があると判断したからこそ、奇隠や日本政府は今回の作戦を許可したんだ」

「勝算ってどこに…」


 渦良が信じられないという風に言葉を言おうとした瞬間、船の近くに車が止まった。その中から一人の男が降りてきて、こちらに向かって何かを言ってきた。


「遅れてすまない。渋滞に巻き込まれた」


 その言葉が何であるのか冲方は良く分からなかった。それは外国語であるから分からないのではなく、単純に聞き覚えのない言葉だったのだ。


 少なくとも、英語ではない。そう思った直後、男の顔に見覚えがあることに気づいた。


「いいえ、事前に連絡していただけたので問題ありません」


 御柱が同じ言語でそう答えていた。冲方だけでなく、有間や渦良、楓達も男の顔に見覚えがあったようで、冲方と同じように固まっている。


「君達が第二部隊に選ばれた人達か?」

「ご紹介します。二級仙人の有間沙雪、渦良憂斗、冲方蓮、楓紫帆の四名です」

「名前は聞いていたが、そうか…できるだけ早く覚えるように努めよう」


 何かの会話をしながら、御柱が男を紹介するように冲方達を見てきた。


「その表情から察するに、彼が誰であるかは既に知っているようだが、紹介しておこうか」


 そう言いながら、御柱は到着した外国人の男を手で示す。


「こちら、ロシアからお越しいただいたイワン・アシモフさん。全員が知っているようにだ」


 序列持ち、No.5、イワン・アシモフ。おおよそ仙人が持つことのない腰元の武器を目にしながら、冲方は目の前の男が間違いなく、その人物であることを確認していた。その前でアシモフはゆっくりと頭を下げていた。

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