影が庇護する島に生きる(1)

 発端は日本に漂着したクジラの死骸の調査だった。妖怪であるクジラの行動経路を把握するために、移動した可能性の高い海域を順番に調べていく中で、それは観測された。


 太平洋上のとある海域で、不自然な海流が発生している場所があったのだ。その海域の地形上、その海流の動きはあり得ないことであり、Q支部から海洋調査を行っている様々な機関に問い合わせたが、その海流について把握している機関はどこにもなかった。

 そこに何かがあると即座に判断し、Q支部は独自の調査を進めたが、どれだけ調べようとしても、その場所に海流の異変以外の異変は発見されなかった。


 もしかしたら、Q支部の機材では限界があるのかと、Q支部の支部長である鬼山きやま泰羅たいらは考え、その海域の調査を本部に依頼してみることに決めた。奇隠の本部でなら、何かが分かるかもしれないという淡い期待の元の行動だったのだが、その期待は確かだったようで数時間後、一つの結果が送られてきた。


 それが該当の海域に地図には載っていない島が存在するという情報だった。それもただ地図に載っていないだけではなく、奇隠の所有するあらゆる機械で、その存在を観測できない正体不明の島であるそうだ。

 その存在の異様さから、その島に何かがあることは明白だった。鬼山はすぐに政府と連絡を取り、その島の調査のために動き出すことにした。


 問題は島に何があるのかという点だった。


 最も考えられる可能性は人型ヒトガタの潜伏だ。日本国内での存在が確認された一部人型を除き、生存している人型の多くは元凶である愚者ザ・フールを含め、その所在が未だに判明していない。観測不能な島の存在を聞けば、そこに人型がいる可能性が高いと考えるものだ。


 もしも人型が島にいるのなら、生半可な戦力では対応できない。最低でも二級仙人をかなり多く集めなければいけないが、Q支部だけでその人数を用意できるはずもなかった。


 そこで鬼山は各国の奇隠の支部に連絡し、島の調査に人員を回してもらおうと考えたが、それは御柱みはしら新月しんげつによって途中で止められることになった。


 御柱曰く、クジラが漂着した地である日本だけで調査を進めるべきであり、人型が存在すると確定したわけではないことに、他国の応援を頼むわけにはいかないらしい。


 人型が存在する危険性を考えると、とても聞けた話ではなかったが、明確に他国の領土であるわけではない海域の調査は、奇隠だけで動くことのできないシビアな問題に繋がる。政府の人間である御柱の言葉を無視することはできず、Q支部だけで調査隊を構成する必要があった。


 しかし、Q支部には現状国内で存在の確認がされた人型の問題も残っている。多くの人手を割くわけにはいかず、どちらかと言うと、人型の存在が確定している国内の方が問題と言えた。


 そちらに主要な仙人を割くとしたら、調査に当てられる仙人は二級仙人以下しか残っていない。それだけで対応できるのかと聞かれると怪しかったが、Q支部で現状割ける戦力はそこしかないという鬼山の判断だった。


 それを聞いた御柱が流石に厳しいと思ったのか、それとも、最初からそれくらいの根回しは考えていたのか、本部に連絡をして、他国との関係性に影響の出ない応援を依頼することになった。


 その結果、本部は何を考えたのか、イギリスとロシアから応援を送ると言い出し、御柱は抗議したそうだが、その内容を聞いたことで黙ることにしたようだ。鬼山がその詳細を聞いた時には、更に通訳兼監視役として、政府の仙人も同行することに勝手に決まっていた。


 勝手に決められた政府の仙人の同行はすぐに認められるものではなかったが、応援を聞くに通訳の存在が必要なことは確かだ。

 仕方なく、鬼山は受け入れることにして、島の調査のために送り出す部隊が決まった。


 部隊は二部隊。一部隊は四人の二級仙人で構成され、そこに本部の手配してくれた応援と政府の仙人が加わり、一部隊六人で行動することになる。


 島までの移動方法は人型の存在を危惧し、発見されやすい空路ではなく、水路からの潜入ということになった。更に二部隊は上陸時のごたごたを避けるために、別々の場所から上陸することになる。


 こうして、Q支部を主軸とした正体不明の島の調査は開始された。

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