憧れから恋人に世界が変わる(11)
放課後を迎えるまでの間に、幸善は何度か久世に確認した。本当に放課後に家に行っても大丈夫なのかと聞いてみるが、久世は曖昧な表情で曖昧な返事を返してくるばかりで、その煮え切らない態度に、幸善は苛立ちよりも不安の方が強かった。
もしかしたら、久世は変に遠慮しているのではないか。本当は家に呼びたくないのだが、東雲やそれに釣られた我妻が乗り気になっていることから、言い出すことができなくなったのではないか。そのように考え、幸善はやはり家に行くことをやめようかと思い始めた。
幸善が放課後になる前に、そのことを伝えようと思って、東雲に声をかける。
「なあ、やっぱり、久世の家に行くのやめないか?」
「え?何で?」
「いや、だって、急に行ったら悪いだろう?親に確認取るくらいだぞ?」
「確かにそれはそうだけど、本人はいいって言ってたよ」
「いや、それは…」
東雲に頼まれたら断れないと幸善は思ったが、それを東雲に言うわけにもいかない。迷っていると話を聞いていた我妻も会話に入ってきた。
「本当に嫌なら、流石の久世でも断るんじゃないか?」
「いや、単純に言い出せないだけの可能性も…」
「そういう性格か?」
我妻に言われてみて、幸善はこれまでの久世との会話を思い出してみる。幸善が好かない人物は、さっと思いつくだけで三人いる。
相亀と葉様、それから久世だ。それぞれ好かない理由は違っているが、久世を好かない理由はその遠慮のなさだ。幸善の家にチャイムも鳴らさず入ってきた上に、土足が上がっていく無遠慮さが久世にはある。
無神経にしか思えないその行動を考えると、我妻の言っている通り、言い出せないということがあるようには思えなかった。
「確かに…考え過ぎか?」
「というか、そもそも、家に呼びたくない事情とかあるか?」
「お前…あんまり詮索すると消されるぞ?」
「幸善は何を想像してるんだ?」
幸善の中で久世の家がとても口には出せない職業にされたが、仮にそれが当たっていたとしたら、久世は一瞬だろうと幸善達を呼べないはずだ。呼ぶ方向に決まった時点で、多少は人を招ける家ということなのだろう。
その上で渋るとしたら、家庭事情よりも久世本人に理由があるのかもしれない。そう思ったら、幸善は一つの答えに辿りついた。
咄嗟に思いついたことを呟くために、幸善は東雲から、さっと目を逸らして、我妻を引っ張ってくる。
「もしかして、あいつの家に東雲コレクションができてる可能性はないか?」
「……ない、とは言い切れない」
何とも煮え切らない久世の態度。その理由を考えていく中で、幸善と我妻は真理に辿りついた可能性があった。久世の部屋に置かれたベッドの下とかを漁ってみたら、そこから等身大に拡大された東雲の写真が出てくる可能性が大いにある。その時は東雲もそうだが、幸善と我妻も反応できないと、二人が顔色を悪くした直後、二人の間に顔が割って入ってきた。
「ないから、安心してよ」
それは久世だった。唐突なご本人登場に二人は驚き、久世がどこから現れたのかと教室の中を見回してみる。さっきまで久世は自分の席どころか、教室の中にもいなかったはずだ。
「ビ、ビックリした…何してたんだ?」
「朝に送った連絡の返信があったから、ちょっと電話で話してただけだよ」
「行って大丈夫なのか?」
「もちろん。ただし、あんまり漁らないでね。親の物に勝手に触れたら、僕が怒られるから」
「フリか…?」
一応、聞いてみた幸善に久世は無言で笑顔を送ってきた。そのまま、しばらく睨めっこが始まり、やがて幸善の方から、ゆっくりと謝罪の言葉が出た。
「申し訳ございません…」
「堅苦しいね」
「本当にコレクションはないのか?」
そのやり取りを見ていた我妻が、何故か掘り返すように確認し始めた。そこまで気になることなのかと思ったが、もしかしたら、我妻は東雲が存在を知って、傷つく可能性を怖れているのかもしれない。
「本当に大丈夫だよ。少ししかないから」
「ちょっと待て。少しあるのか」
風向きが変わり、幸善と我妻は久世を引っ張った。それらの様子を外野から眺めることしかできない東雲が、不満そうに声をかけてくる。
「ねえ、何の話?」
「男の
「え?何?嫌らしい…」
「そういうことじゃないけど、そういうことだから、何とも言えない」
東雲の冷めた目を気にしないようにしながら、幸善と我妻は久世に詰問する。
「東雲のコレクションは全くないのか?」
「…………ノーコメントで」
「あるんだな…!?どれくらいだ?本人が見たら、引くくらいか?」
「…………ノーコメントで」
久世の返答に幸善と我妻は顔を見合わせていた。それから、こちらを冷めた目で見つめる東雲を軽く確認してから、二人はゆっくりと頷き合う。
「久世、死んでも隠せ」
「最悪、協力する」
「え…?いや、でも、何も探られなければ…」
そう呟いた久世に、幸善と我妻はかぶりを振った。不思議そうにする久世はまだ東雲のことを良く分かっていないようだった。
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