月から日まで七日で終わる(2)
「大丈夫?」
異常としか言いようのない幸善の様子に、
「もしも、俺の葬式が行われることになったら、その時は少しくらい顔を見せてくれよな」
「え?怖い怖い…本当にどうしたの?」
「自殺するの?」
真顔で聞いてきた
「今まで、お世話になったな」
「そんな記憶はないけど?」
杉咲の突き放したような発言も、絶望を前にした幸善には全く効果がなかった。さっきまで心配した様子だった佐崎は、既に苦笑いを浮かべて幸善を見ているが、そのことに気づけるほどの余裕は幸善にない。
「そんなに難しいことなのか?」
三人の話を聞いていた様子の
「仮にチケットが一枚しかないとして、それを欲しい人が十人いたら、入手できる確率は十分の一になるじゃないですか?その場合をチケット倍率で十倍とか言うんですけど、確か
「そんなに人気なのか?」
「実際はもっと高いと思いますけどね。日本に来るのは年に一回あるかどうかで、日数も少ないので」
「それで取れるのか?」
牛梁が何気なく、幸善に止めを刺す一言を言ってくる。現実の厳しさを思い出した幸善が、その一言に更に表情を暗くする。その様子を見た杉咲が不意に幸善の顔を覗き込んできた。
「大丈夫。人型を見つけるより高確率」
「いや、人型は向こうから勝手に来るし」
「なら、チケットも向こうから来るかも」
「チケットが歩いてくるって?」
杉咲の励ましを一笑し、幸善は更に落ち込むことになった。自分が死ぬことはもう決まってしまったのだ。その思いから、幸善は今後、何をするべきなのかを考えていく。
「遺書でも書こうかな?」
「私はもう書いてるけど」
「え?」
杉咲の一言に思わず驚いた幸善が顔を上げ、同じく驚いた顔の佐崎と目が合った直後、
「揃ってるみたいだね」
そう言いながら、部屋の片隅に座り込んだ幸善を見て、冲方は一瞬、不思議そうな顔をした。しかし、醸し出す雰囲気から、話しかけると面倒なことになると察したのか、冲方は聞いてくることなく、タブレット端末を取り出した。
「支部長が問い合わせてくれた人型に関する情報が本部から送られてきて、例の双子の正体が分かったよ」
その話に流石の幸善も聞かなければいけないと思い、立ち上がった他の四人に近づいていく。冲方はタブレット端末を四人に見せながら、説明してくる。
「一体はNo.18、
「そんなことがあるんですか?」
「他に例はないけど、あるからあるとしか言いようがないね。どういうことなのかは良く分かってないよ。ただ気になる点としては、誕生時に
「それが関わっているんですか?」
「かもしれないね。あくまで可能性の域は出ていないらしいけど」
冲方がタブレット端末を使い終えたのか、そこで仕舞い始める。
「それで次の行動だけど、私達が二体の人型を発見したことで、その捜索を中心に動くことで決まったみたいだよ。姿も確認できてるからね。私達もそのために動くんだけど、まずはショッピングモールで聞き込みをしていこうと思ってる」
「ああ、確かに。あそこでずっと目撃されてますからね」
「そう。多分、あの周辺に潜伏してると思うんだよ。それを探そうと思う」
「分かりました」
そのように返答し、ショッピングモールに向かうことが決まった直後、幸善はそこでの双子の目撃情報を思い出し、不思議に思うことがあった。
しばらく、そのことを考え、そのままショッピングモールに向かうことになったからだろう。気づいた時には、さっきまで死ぬほどに気にして、死ぬと思っていた絶望感を、幸善はすっかり忘れていた。
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