吊るされた男は重さに揺れる(14)

 相亀の右腕を犠牲に確保された重戸は、Q支部内の特別留置室に拘留されることになった。特別留置室は仙人や人型を拘留するために用意された特別な部屋であり、その中では気の使用に制限がかかる。仙技や仙術、妖術を自由に扱うことができなくなり、いくら重戸が強力な妖術を使う人型だとしても、そこからの単独での脱出は困難になる。そのことをすぐに理解したのか、その部屋で目覚めた瞬間から、重戸は非常に大人しかった。


 しかし、その大人しさが問題だった。重戸が拘留されてから数日、奇隠の仙人が入れ代わり立ち代わりで尋問を始めたが、その多くの質問に重戸は口を閉ざし、答えることがなかった。特に奇隠が必要として他の人型に関する情報や、最近確認されている詳細不明の妖怪の詳細について、重戸が答えることは頑なになかった。


 そのことが鬼山の頭を酷く悩ませたが、重戸は全ての質問に沈黙を守っていたわけではなかった。いくつかの質問には答え、いくつかの質問には反応を見せた。


 まず、重戸が吊るされた男であることは確認された。重戸が自分の番号はNo.12であると認めた理由に鬼山は疑問を懐いたが、そこに関して重戸からの返答も、何かしらの反応もなかった。話すことに意味があるのか、隠すことに意味がないと思ったのかは分からないが、その情報により、死神の発言から日本国内での滞在が確認されていた吊るされた男を、ここから更に捜索する必要性がなくなった。その点は奇隠にとって良かったことだった。


 他には、死神の居場所を奇隠に教えた理由についての質問で、重戸の少しばかりの反応が見られた。それは動揺のようにも見えたが、そこについてハッキリと言及しても、明確な返答がなかったので、結局のところは判断できなかった。


 ただし、確認された死神の反応から、重戸と死神の間で意思疎通が取れていなかったことは明白だ。そこに理由があるのなら、人型内部での何らかの利権が関わっているのだろうかと鬼山は推測していた。


 それ以外にも、いくつかの質問に答え、反応していく中で、重戸が唯一自分から聞いてきたことがあった。それは外部の状況に関する質問や、自らの処遇に関する質問ではなく、重戸と交代に解放された浦見の現状だった。その質問を受けた仙人が、浦見の現状について答えることはなく、どうしてその質問をしてきたのかと訊ね返すと、重戸は再び沈黙を保ち始めた。


 もしかしたら、重戸に関する重要な情報を浦見が所持しているのかと思われたが、既に浦見は人型の可能性を疑われた段階で、とても長い時間尋問している。その過程で情報と思える情報が出なかったことや、必要以上の不信感を奇隠に懐かせると、不必要な情報を出されると鬼山が判断したことから、その聞き込みは少し時間をずらして行われることになった。

 特に重戸が人型であることは、外部に簡単に出せる情報ではない。聞き方も慎重を期さないといけない以上、そう簡単に聞きに行くことはできなかった。


 それらのことから数日間、奇隠ではあまり大きな動きが見られなかった。鈴木すずき蕪人かぶとに続き、吊るされた男である重戸を確保したことで、何か大きな動きに繋がりそうだったが、結局のところ、どちらも口を開いてくれないので、他の動きに繋げられない。


 他の悩みも重なり、鬼山が頭を抱える中、ついに我慢の限界に達したディールが、鈴木か重戸を拷問にかけようと言い始め、Q支部がざわつき始めた頃になって、新たな動きがようやく観測された。


 発端は廃校での一件に際して、死神達が何かを移動させている最中だったのではないかという幸善の思いつきだった。それに関する情報を集めようと、中央室で白瀬しらせ按司あんじが周辺の監視カメラの映像を調べ始め、それが駅前にまで及んだ時だった。映像を遡ろうとした直後、昨日の映像の中に白瀬は問題の人物を発見し、すぐさま鬼山に報告することになった。その映像を鬼山に見せながら、該当の部分を指差して、白瀬が鬼山に伝える。


「昨日の夕方頃、駅前にてが確認されました」


 これがQ支部を巻き込む大事件の始まりだった。

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