死神は獣を伴って死に向かう(13)
多種多様な妖怪を相手にすることから、本来、仙人は多様な仙技を用いる。簡単なものから難しいものまであるが、多数の仙技を武器として持つことは当たり前のことだ。
性質上汎用性が高く、相性の有利不利があったとしても、ある程度の対応が可能な仙術を使えるようになった幸善でさえ、ノワールのような妖怪の不在時や戦いの中での応用力を上げるために、複数の仙技の会得に励んでいるくらいだ。
多様な仙技が使えることは、仙人である以上の必須事項と言えるかもしれない。
しかし、その必須事項に当てはまらない仙人が一人いた。それも通常の仙技から特殊な仙技まで使用し、仙技のエキスパートとも言える
それがディールだった。
ディールは元々、才能が普通の仙人と比べても、圧倒的に劣っていた。正確には仙気の操作技術が他の仙人と比べて劣っており、仙技を使用するために仙気を移動させることができなかった。
そのため、仙気を対象に飛ばすことも、武器にまとうことも、仙気そのものの性質を変えることも、ディールにはできなかった。
大多数の仙人はその時点で、仙人となること自体を諦めたり、奇隠内の裏方に当たる職務に回ったりするのだが、ディールは自分の才能のなさを認めなかった。
唯一、ディールが実戦レベルで使えた肉体の強化だけに心血を注ぎ、ディールは他の仙人にも負けない強さを手に入れようとした。
それは普通に考えると無謀なことであり、大多数の仙人が無理だと思っていた。
しかし、ディールは結果的に序列持ちの一人になった。たった一つの仙技、肉体の強化だけを極めて。
その偉業とも言える結果と難のある性格から、やがてディールは一つの名前で呼ばれるようになった。
奇隠の問題児。これがその呼び名の由来だ。
その話を牛梁から聞いたことを相亀は思い出した。会話の難しさから、相亀は師事することを諦めたが、その話に相亀は希望を覚えた。同じく、仙技の才能の乏しい相亀でも、序列持ちに匹敵する仙人となれるかもしれないと思えた。
それらの希望がほんの少し前に、丸太のように太い妖怪の腕で潰されたはずだったのだが、相亀の目の前に広がる光景は、その希望を回復させるのに十分なものだった。
妖怪の拳が振るわれた時、そのあまりの速度から、ディールでも避けるのが難しく、ディールは真正面から受けることになってしまったと相亀はそう思った。
しかし、それは違っていた。避けることが難しかったのではなく、避ける必要がなかったのだ。
ディールは防御することもなく、ただ身体で拳を受け止め、平然とそこに立っていた。
「なかなかに気合いの入ったパンチだなぁ。ちょっと痛いじゃねぇーかぁ」
笑いながら呟いたディールの姿に、ただ倒れているだけの相亀は戦慄した。
肉体の強化だけで序列持ちになったこともそうだが、その序列持ちの中でNo.4という立ち位置にいることの意味を、相亀はその姿に知る。
「じゃあ、次は俺から殴るからなぁ。逃げるなよぉ」
ディールが妖怪の拳を左手で掴んだ。それは手を置いただけのように見えたが、実際は違うらしい。手を引こうとした妖怪が小さく何度も身体を揺らしている。
そこから、ディールが左手を引き、妖怪の拳を思いっ切り引っ張った。妖怪の巨体は簡単に宙に浮き、引かれた動きのまま、ディールに引き寄せられていく。
そして、ディールと衝突する瞬間、ディールの右拳が振られた。
瞬間的に爆発が起きたように、妖怪の身体がバラバラに飛び散った。妖怪のまとっていた鱗が四方八方に飛び散り、倒れている相亀の前にも突き刺さっていく。肉片と一緒に撒かれた血液は、グラウンドに大きな円を作り出した。
その光景に相亀は言葉を失っていた。
いくら肉体の強化だけを極めたと言っても限度があるはずだ。その限度をディールは容易に超えているように思えて仕方なかった。
「さて、もう一体の人型はどこだぁ?」
何かを呟き、校舎に目を向けるディールの姿に、相亀は思った。
もしかしたら、自分が目指すところはここなのかもしれない、と。
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