新たな出逢いが七面倒に絡み合う(4)

 二度あることは三度ある。人は同じ過ちを繰り返すもので、特に浦見うらみ十鶴とつるは記憶が消去されているのかと思うほどに、同じ失敗ばかりを繰り返している。最近だけでも、何度不審者と間違われ、何度追いかけられていることか。冷静に考えてみると、間違いではなく不審者なのだが、その事実が露呈しないように行動しろと重戸えと茉莉まりは何度も思った。


 もしかしたら、浦見が調べようとしている組織に捕まり、知らない間に記憶が消されているのかもしれないと考えかけたこともあったが、だとしたら、もう調べないようにその部分の記憶を消すはずなので、これはもう規格外の馬鹿と思うしかない。

 どんな馬鹿でも学習するものだが、規格外の馬鹿である浦見には学習という言葉がない。


 だから、きっと開かないトイレが開くと分かり、そこに何かがあると思ったようで夜に突然連絡してきた段階で、重戸は再びそのトイレを監視するものなのだと思った。


 しかし、意外にも浦見は大人しく、いつものように出版社にいた。その姿に驚いた重戸の方が思わず監視しに行かないのかと聞いてしまったくらいだ。


「監視?行かないよ。また逃げることになるかもしれないでしょう?」


 ついに学習したのか、まるで人が変わったようにそう言った浦見を見て、重戸は一度叩いてみた。


「痛い!?何するの!?」

「壊れたのかと思って」

「だとしても、そんな古い家電の直し方みたいなのを試さないで!」

「すみません。動揺して。けど、意外ですね。先輩が諦めるなんて」


 これまでの浦見なら、警察のお世話になる未来が見えていようと、結果を求めて突っ走り、周りが案の定と言うしかない結末に陥っていたはずだ。それが今になって諦めるとは本当に人が変わったとしか思えない進歩だ。

 そう重戸は思ったのだが、浦見は平然とかぶりを振った。


「諦めてはないよ」

「え?」

「もちろん、あのトイレは調べるよ。ただ連絡した通り、あのトイレが例の組織の隠れ家とかに繋がるなら、そこを直接見張るのは危ないと思ったんだよ。だから…」


 浦見がスマートフォンを取り出し、一枚の写真を見せてきた。あのトイレがあった公園と思われる場所が写っており、その景色の中には三脚とカメラが立っている。


「こんな感じでカメラを仕掛けてきました」

「いや、もっとあったでしょう?こんな怪しさマックスのカメラの仕掛け方をしたんですか?」


 野生動物の観察でも、もう少し隠して設置すると言いたくなる堂々とした隠しカメラに、重戸は呆れていたが、流石の浦見もそこまで馬鹿ではなかったようだ。その写真を撮ってから、うまくカメラを隠したらしい。浦見の言うことなのでそれも本当か怪しいところだが、重戸が追及することでもない。本人が納得しているなら別にいいだろう。


「それで今から調べたいことがあるんだけど」

「調べたいこと?そのカメラを回収するまで待つんじゃないんですか?」

「いや、そもそも、あの尾行した女の人と例の少年が同じ組織と関わっているって決まったわけじゃないからね。その部分の繋がりは何となく内容的に同じなんじゃないかなってだけで、本当にそうか分からないし、それに怪しいところもあるんだよ」

「怪しいところ?」


 強いて言うなら、全てが怪しいと重戸は思ったが、そういうことではないらしい。


「あの女の人が住んでいる場所を教えてくれた人がいたんだけど、やっぱり、あの人は何か怪しいと思うんだよね。もしかしたら、組織が二つあって対立してたりするのかもって思ったら、これで調べ終わるのも何だなって思って…」

「それで何かを調べるんですか?……何を?」

「実はそれで追加で調べてたら、興味深い話を見つけたんだよ」


 そう言って、浦見が重戸に見せてきたのは、一件のニュースだった。


 昨日、浦見と重戸が女性を調べていた時にショッピングモールで爆発物騒動が発生したようだ。不審物がトイレで発見され、それが爆発物ではないかと疑われたそうだが、捜査の結果、そういうものではなかったらしい。ただし、その一件でかなりの騒ぎになったようで、軽傷ながらも負傷者が出たそうだ。


「これが?」

「実はこの事件、爆発物が原因じゃないって噂されてるんだよ」

「え?どういうことですか?」


「事件当時にショッピングモールに巨大なカマキリの化け物が出たっていうSNSでの投稿がいくつかあったんだよ。その投稿自体は残ってるものも多いんだけど、乗っ取りに遭ったとか言ってる人が結構いて、ネットでは何かの事件じゃないかっていう噂もあるんだ」


「巨大なカマキリって信じるんですか?」

「普通は信じないけど、俺達は巨大な蜘蛛を見ているからね。そう考えると、実際にカマキリがいて、乗っ取りに遭ったっていう投稿は…」

「証拠隠滅?」

「もしくは記憶が消されて、投稿した本人が覚えていないかだね」


 そこまで浦見の話が来れば、浦見が何を調べたいと言い出すのかは分かった。高校を調べようとした少し前の行動から比べると、それが幾分真面な調査であるかも理解できる。


「分かりました。行きましょうか。ショッピングモールに行くんですよね」

「流石、重戸さん。行こう」


 浦見の提案で重戸は出版社を後にして、ショッピングモールに向かう。流石に今回は警察沙汰にならずに済みそうだと思った。

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