新たな出逢いが七面倒に絡み合う(2)

 巨大な蜘蛛。翼の生えたオオカミ。再生するカラス。電気を放つ羊。そこに新たに加わった巨大なカマキリ。それらが並んだ報告書を眺め、鬼山きやま泰羅たいらは眉を顰めた。


 妖怪の定義。動物の姿をして、その中に紛れている異なった存在。それは人型ヒトガタにも当てはまる絶対的なルールだ。


 そのはずだが、立て続けに発見された妖怪はどれもがそのルールから外れていた。妖術という例外的な要素も存在しているが、そのどれもが妖術の場合に確認される妖気の変化が確認されていない。


 これをどのように考えたらいいのか。鬼山は報告書を眺めながら考えるが、明確な答えと思われるものは一つも湧いてこない。

 唯一分かっていることは人型が関与しているということだ。電気を放つ羊がイギリスに現れた際に、人型の一体が発見され、無事に倒されたことからも、そのことは確定的だ。


 しかし、そうだとしても、分からないことは多過ぎる。


 まず、発見された妖怪の誕生理由だ。人型が関与しているということは人型が何らかの方法で生み出した可能性と、何らかの場所で生まれたが社会に紛れ込めない妖怪を人型が利用している可能性がある。


 どちらの場合も誕生のメカニズムが分からない以上、これまで妖術のみを警戒してきた妖怪に対して、未知なる脅威が生まれることになる。それはこれまで様々な前例を活用し、妖怪に対して優位性を保ってきた仙人の立場が変わってくる可能性を意味している。


 妖怪の対処を仙人が正常に行えなくなった時、奇隠は存在意義をなくし、最悪の場合は人型の計画の進展を意味する。

 新たな妖怪が人型によって生み出されたのか、勝手に生まれたものなのか、どちらにしても、これは人型にとって有利な展開だ。


 それに主目的がそこにあるとも限らない。妖怪を見せることが目的なら、もっと大規模な行動を起こしても不思議ではないはずだ。


 例えば、巨大なカマキリを一体ではなく、大量に連れ出し、ショッピングモールで虐殺を行えばいい。

 そうしないということは、単純にカマキリの個体数が足りていないのか、もしくは、そこを考慮していないのかもしれない。カマキリに戦果を上げさせることが目的ではなく、カマキリの行動を見ることが目的なのかもしれない。


 実験。不意に湧いてきた言葉に、鬼山は納得と同時に疑問を懐いた。


 それに意味があるのか。もちろん、人型がまとまって勝てないほどに奇隠は戦力を高めている。数対一程度なら、人型の方が優勢だが、奇隠の支部は人型の総数ほどあり、それら対一の構図が生まれると人型は確実に敗北する。


 だからこそ、大っぴらに動いていないことも分かるのだが、その関係性を崩すための何らかの準備をしているということだろうか。そのための実験が一連の行動なのだろうか。鬼山はヒントの足りないクイズに眉間の皺を更に深くする。


 取り敢えず、現状追いかけるべき情報は二つだ。一つは例の空港で発見された人物。人型か、人型と接触していると思われる土田つちだという人物だ。


 そして、もう一人が先日のショッピングモールで確認された人物。カマキリが現れたトイレから出てくる姿が確認された人物だ。当事者であるはずの葉様はざま涼介りょうすけは戦闘に夢中で、秋奈あきな莉絵りえはQ支部に連絡中だったため、その姿を確認していないと言ったが、確かにその人物は監視カメラに映っていた。


 この二人の捜索が人型に関しては重要なことであり、現在のQ支部が真っ先に取り掛かるべき案件だ。


 それと別にある問題が土田と同時に発見されたシェリー・アドラーだ。11番目の男ジャックことパンク・ド・キッドと繋がっていると思われる人物であり、その所在を把握している可能性が最も高い人物だ。そのアドラー、それにアドラーと接触していた日本人男性も探さないといけない。


 問題は山積みだと改めて思った鬼山に、そこで一件の連絡が入った。それは有間ありま沙雪さゆきからの連絡であり、どうやら、ショッピングモールで確認された人物の画像を確認したらしい。監視カメラに映った目つきの鋭い男の写真を見た有間からの反応がスマートフォンの画面に映し出されていた。


『私、この人をしましたよ』


 鬼山は思わず立ち上がっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る