5-08
「調べてみてほしいのです、わたしの『魔法』適正を」
ロミロマ2世界では『魔術』と『魔法』は異なる分類をされる設定だ。
魔術が己の魔力オドを触媒に世を満たす魔力マナを発火させる技術だとすると、魔法は喩えるなら『神様の奇跡を再現する』『越界の法則を現出させる』祈祷だという。
魔法。
神法・法力とも呼ばれ、かつて世界に存在したとされる二十二柱の神々より力を借り受け体現させる祈祷法。
それは決して鍛錬で身に付くことのない、「使える」「使えない」が生まれながらの才能全ての超パワーと称しても良い代物だ。
(ゲームでも魔法は「習うもの」でなく「授かるもの」扱いだったっけ)
ロミロマ2をゲームとして見た場合、魔法の才能は魔術の全属性持ちよりレアな才能ではない。
言わずと知れたヒロイン、マリエット・ラノワールとライバルヒロイン3人が魔法行使者と設定されていたので全属性持ちより人数が多かったからだ。
しかし世界観設定では魔法行使者のレア度は全属性所有者に匹敵し、二十二神の一柱に選ばれた子だとのステータスが与えられ、立場が物を言う貴族社会でも等級とは異なる視点で憧憬の的と化す。
そして何より効力が魔術とは異色。
設定的に神々の奇跡再現と謳われる能力。魔術で防ぐことも遮ることも出来ない代物だった。ゲームでも発動前に食い止める以外に対処法が無かったのだからひどい。
むしろ上記設定は彼女達に専用のスキルを与えるためのものだったといっても過言ではない、むしろそうだったに違いない。『戦争編』で相争う敵味方の重要ユニットに運命的に付与し、直接対決を盛り上げる要素だったんだろうなとは兄の推測。
(このせいで随分とモブが派手に死んだのも懐かしい)
強すぎる力は容赦なくモブの命を削り、兵士の被害を甚大にした。ライバルヒロインの立つ戦場には必ずマリエットを出撃させないとマズかったくらいに。
ともあれそんな強力なる超パワー『魔法』をわたしも備えているのではないか、とある推測を根っこにした予想が立つのである。
「……また面白い提案でトレヴィアンですわね。何故そんな考えを?」
「わたしは全属性行使の才能がある一方で資質はDランクと冴えません」
「『傾けたコップの水』理論の見本のようですわね。水の量は同じでも水深という才能には偏りが出るっていう」
人が持つ才能の総量は変わらない、ただどの分野に割り振られるかの裁量は無く、また見分ける方法も無いため、人が才能を活かすのは難しい──って感じの理論だっただろうか。
その点で言えばわたしには才能と資質を測定できる世界観であったのは幸いした。
「ならばこう見ることは出来ませんか。『わたしの才能はあらゆる属性を有することに特化している』と」
「そんな解釈も出来ますわね、それで?」
「こんな可能性もあるわけです。『魔法にも同じことが言えるのではないか?』と」
「……興味深い見解ですわね」
眼鏡がキラリと輝いた。悪くない感触のようだ。
元々がわたしのデータ取りを定期的に行いたいとの興味を持っていた相手。根がマッドな学者なら一定の気を引く勝算はあっての取引、或いは交渉を持ちかけたのだ。
即ち「魔法に目覚める前の、魔法行使者を観測できる機会」。
「『魔法』適正持ちもそれなりに貴重、サンプル観察が叶うなら抑えておきたいのも事実。ミレディの見解にも一理あるし、測定をやってみる価値はありそうですわね」
「では、お願いできますか?」
「エヴィアン、こっちも願ったりですわ。面白いデータが取れそうだしフフフ」
どことなく火に油を注いだような笑顔に戦慄しつつ、魔術測定は延長戦に突入したのだった。
******
魔術と魔法の測定。
「同時にやればいいのでは?」との疑問を持たれるのは当然だろうが、実態として為されることはほとんどない。
使用する魔導器が異なるのも理由に挙げられるが、一番の理由は「使わなくてもいずれ分かる」から。
魔法は「習うもの」でなく「授かるもの」と言い表される所以。
ある日突然神の力が宿り「あ、魔法使えそう」と自覚する、これが最も多い魔法行使者の目覚め方なのだ。
(ゲームだと劇的な演出になってたけど、ふいに覚醒するのは共通してたっけ)
例えば武術会イベント、暗殺者イベント、決闘イベント。
選択したルートと攻略度合いでタイミングは変わったものの、おおよそヒロインの魔法覚醒はピンチからの逆転で使用される形だった。
(並行してヒーローを攻略してると色々おかしなタイミングで覚醒したのも面白かった)
ともかく、魔法は授かるものとの常識から進んで適正を調べる機会は少ない。
調査の結果で得られる能力ではなく、才能があったとしてもいつ得られるとも定かではないからだ。
「研究者としては調べたいのですけど、効率主義に囚われた世の無常ですわね」
「舌なめずりしてわたしを見るの止めてくれません?」
「ノン、貴方を見ているのではありません! データを見ているのですわよ?」
「人間として見られてないのがなお怖い」
魔術測定の属性水晶の代わりに設置されたのは、これまた大袈裟に見える三面鏡めいた魔導器。
計るのは数値ではなく適正。それも6種類でなく22種類の最適正を調べるのだから属性水晶よりも大掛かりな道具になるのは当然かもしれない。
魔法、神々の力をよりオリジナルに近い形で行使するパワー。
カルアーナの神々は二十二柱、0番神から21番神のいずれかに適合する神力を持つのが魔法行使者である。
(まあ元ネタはタロットカードよねェ)
カルアーナがアルカナのアナグラムなのもタロット由来だろう。占いに興味がなくてもタロットを基にした格好いいサブカルに触れる機会は少なくない。
たまには日本古来のカード、例えばカルタや百人一首に適合するパワーなんてのも個性は出せるかもだけど枚数が多すぎるのとあまり浪漫は感じないかもしれない。ファンタジー世界の西洋依存は強いのだ。
「わたしのパワーは『
「何か?」
「いえ、絵面が名前だけで夏の昆虫遣いに決まりそうだなって話です」
「昆虫に関するカルアーナの神は居ませんが?」
「気にしないでください、ただの妄言ですから」
暇にかまけて漏れ出した妄言に反応し、雑談に応じてくれた職員さんに謝罪する。
そしてごめんなさい百人一首の歌人さん。名前だけで功績については詳しくありません。でも変わったお名前ですね、覚え易いです。
「メルシー、待ち人ミレディ。ようやく準備が完了しましたわよん?」
「見るからぬ大掛かりそうな魔導器ですけど、どう使うんでしょう?」
「使い方は属性水晶と同じ、目の前のパネルに触れてくれればいいんですわよ」
「分かりました」
「ただし属性水晶より魔力吸い上げて疲労度高いけど瑣末な問題ですわよね?」
「疲れ具合によります……」
エナジードレインで干物にならないよう祈りながら、指定されたパネルに手のひらを乗せる。
ヴンと鈍い音を立てて鏡台マシンが起動した。小刻みに震えだし、比例して体の力が抜けていく感触が走る。成程、これは属性水晶の時には無かった脱力感。
小魔力オドが急速に消費されていく感覚だ。
「うーん、まだまだ、まだまだですわよミレディ。魔力をどんどん吸いますからねえフフフフ」
「博士の言動に主旨が変わってる不安を覚えて仕方ないィ……」
「だ、大丈夫ですよお嬢さん。我々がサポートしますから」
「ひとりじゃ駄目って言ってるようにしか聞こえなくてさらに倍ィィ……」
冗談のような言い方をしているが、不自然な魔力消耗にかかる負担は自然消費の比ではない。例えるなら酸素が足りず息苦しさを覚えるのに似た不快感が増してくるのだ。ここに疲労が蓄積される肉体的苦痛も加算されるのだから正直しんどい。
(ああ、魔法の適正を調べる人が少ないのはこれも理由かもしれない)
既に立っているのが億劫になって用意された椅子に座り込んでいる。志願したとはいえ12歳にこれをやらせるのは虐待に近いな、そんな感想をボンヤリと浮かべながら終了の合図を待つ。
運動もしていないのに呼気が乱れ、額に汗をかき、全身に熱っぽさが宿ってきた頃にようやく。
「……そろそろ眩暈の兆候がァァァ……」
「こ、これは!?」
「……そういう思わせぶりな発言はいいので早く結果をォォォォ……」
「カルアーナ適合件数、1件確認。『魔法』適正有りですわあ!!」
ああ、やっぱりィ。
半日を休憩無しで訓練に費やしたかの如く疲労感、風邪を引いた時に感じる気だるさを全身に覚えながら、予想した回答を得たのだった。
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