がらくた箱に詰めこんで
藍沢 紗夜
洞窟
気付いたら、洞窟の中にいた。
突然目の前が真っ暗になったあのとき、私はこの洞窟の中に来てしまったらしい。光は見えない、真っ暗闇の場所だ。右も左もわからず、どちらが前かもわからないまま、私は歩き出した。
不気味なほどに孤独な洞窟だった。人一人どころか虫一匹いない。ただ、ぴちゃ、ぽちゃん、と水の打つ音が遠く聞こえてくる。
歩いても歩いても、ずっと暗闇だった。
「痛っ」
濡れた岩場に足を取られて、私は思いっきり転んだ。暗くて血が出ているかどうかすらわからなかったけれど、膝がずきずきと痛む。
私の目には涙が滲んだ。どうして上手くできないの。止まらなくなった涙を拭うことなく、私は膝を抱えて蹲った。
そうしているうちに朝が来ていたらしい。微かな光が漏れ出している場所があるのに気付いて、私は立ち上がった。膝の痛むまま、私は走り出した。
走りながら、私の頭の中にいつものビジョンが流れ込んできた。去っていく背中。届かない手。いかないで、いかないでと私は叫ぶ。
まるでみんなが私を置いて、振り返ることなく行ってしまったような気がした。あの光を捕まえたら、追い付けるような気がした。
私はまた、声もからがら、いかないで、いかないでと叫んだ。もつれる足をどうにか動かして、体力なんか気にしないで、ただ走った。
光は遠かった。走っても走っても、ずっと遠くにいて、近付いている気すらしなかった。周りはずっと暗くて、だけどあの光だけは私の希望で、だから諦めたくなかった。
でもまた転んで擦り剥いて、膝も肘も掌もぼろぼろになった。全てに絶望しそうになった。もう私なんかには無理だって、思ってしまった。
走るのを辞めて立ち止まったとき、他の場所にも光が漏れ出しているのに気が付いた。
私は茫然としてしばらく動けなくなった後、なんだか可笑しくなって笑った。
なんだ、あんなに追いかけていた光は、唯一の希望ではなかった。ちゃんと私は選べるのだ。みんなとおんなじ光を追いかける必要なんて、どこにあるだろう?
私は側にあった光のもとに近付いて、光を遮っていた岩をそっと退けた。
眩い光に包まれて、私は目を覚ました。
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