【オンライン】216話:鬼ごっこと修業のやり方(4)




 妖精達はノリと勢いで楽しんでいる節があるけどね。

 僕とシュネー、それにガウは本気になって逃げる気満々だ。


 カウントを始めた瞬間に僕はシュネーの頭の上に乗って、急いでこの場から離れる。


〈先ずは入り組んだ道に行って!〉


 足の遅さはどうしようもないから、シュネーの運動能力に頼るほかない。


「ねぇ、このまま入り口から逃げちゃえば良いんじゃない」


〈そう上手くはいかないと思うよ。ティフォの事だからきっと用意周到に対策してるよ〉


 微かな希望を胸に門を目指したが、やはりこの場所から出る事は叶わなかった。


「申し訳ありません、ティフォナス様より面白そうな遊びがあると聞いたので、そのルールの為に参加者には、この防壁より外へ出る事は出来ないようにさせて頂いています」


 カミルさんが爽やか笑顔で、丁重にお辞儀しながらも断固として門を開けようとしない。


 どうやらガウも似た感じの事を考えていたらしく、防壁を忍者の様に乗り越えようとしていたのだけれど、見えない壁によって外へと出れず、その上で弾き返される様にして敷地内へと撃ち落とされていた。


〈なんかダメージを受けてない〉


「はい、受けますよ。それにペナルティーとして……『麻痺』と『鈍足』が付きますね」


 僕とシュネーの顔色が少しだけ青く染まった。

 危なかった、ペナルティーなんてモノを


「ですから、あんまり変な事はしない方が良いですね」

「なんでそんなすっごく良い笑顔なのさ」


 無償でカミルさんがティフォの手伝いをしたとは考え難い。


 確かに楽しそうな事には全力を出す人だとは思うけれど、手間が多い様な手伝いを自ら喜んでやるタイプでは絶対にないと僕は思っている。


〈買収されましたね〉


 半ばカマかけで言ったけれど、どうやら当たったようだ。


 カミルさん眼が泳いでいるのが良く解る。


「何の事……と言うか、あれ? シュネー様とスノー様が逆では?」


「そ、チェンジって能力なの。ふふ~んどう、大きなボクは」


〈シュネー、話しを逸らされてるよ。と言うよりも話してる暇なんて無いしね〉


「いえ、別に逸らそうと思っていた訳ではないんですけど」


 なんだかカミルさんが物凄くキラキラした瞳で僕の事を凝視してくるんだけど。


〈ほらほら、もう数え終わったみたいだよ〉


 入り組んだ通りからボウガさんを先頭に、数人がコチラの方へと様子を見に来た。


「げっ! ど、どうしよう」

〈とりあえず、近くの茂みに隠れて!〉


 ギリギリで気付かれる前に茂みに飛び込み、僕等は難を逃れた。

 僕等の方へ一緒に逃げて来た妖精達は騒ぎながら、四方八方へと逃げていく。

 それをボウガさんの後ろに立っていた鬼達が追い始める。


 肝心のリーダー格であるボウガさんはというと、ガウの方へと向かって行った。


 僕等がギリギリ隠れられたのは、ガウという大きなエサがあったから視線が逸れて、気付かれなかっただけだろう。もしもボウガさんの目が最初にガウを捉えていなかったら、最初に僕等の方へと向かってきていたはずだ。


「ガウに感謝だね」

〈彼の犠牲は大きいけどね〉


 ある程度はガウに引っ掻き回して貰った方が、長く隠れられていたのに。

 デバフを受けてしまったガウでは、そこまで囮としての機能は期待できない。


「移動するよ」


 皆の視線が逸れたのを確認したシュネーはより安全な場所に隠れる為に茂みから出ようとした。でも僕はすぐにシュネーの髪を引っ張って止める。


「いたっ⁉ 何するのさ」

〈まだ動いちゃダメ〉

「どうして――」


 僕の見ている先をシュネーも見ると、そこにはティフォの相棒であるスパイクが、そっと顔を出して、周囲をキョロキョロと探る仕草をしている。


〈ティフォの事だから、安全だと思わせて隠れた人を探る動きぐらいはしてくるだろうとは思ったけど、能力を使って良いってこういう事だったんだね〉


 ティフォのヤツ、本気で勝つ気だ。


 最初の登場から参加させる手口にルールを設定まで、全部が計算ずくだ。


 逃げ切らないと、何をさせられるか分かったもんじゃない。




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