【オンライン】215話:鬼ごっこと修業のやり方(3)
一通り歌い終わり、どちらも落とすことなくお手玉を綺麗にキャッチしてお辞儀する。
二人が頭を下げてすぐ妖精達が拍手喝采を送る。
「お~お~、随分と楽しそうじゃないか~」
疲れた顔をしたティフォが転移陣の方角からノソノソと歩いてくる。さながらゾンビ映画に出てくる大物の怪物みたいに左右に揺れ動きながら。
「ティフォナスはったい……ど、どうしたのじゃ?」
事情を知らないエーコーさんが少しだけ怯えた表情を見せるも、すぐに気丈に振る舞って見せる辺り、流石は森の管理人だなっと思った。
「あぁ、どうもエーコーさん……貴方様もどうですか、一緒に遊びの道具作りなどは」
髪の毛は乱れ、ぐしゃぐしゃな前髪から微かに覗く薄ら笑いが更に怖さを倍増させる。
「楽しそうなモノを作っとる様には、見えんがな」
名指しされて、若干だが肩がビクッと反応していた。変な汗を掻きながら、一歩だけティフォが近付くと、あのエーコーさんでも、同じく後ろへと、一歩……下がっていく。
そしてそれは僕等全員が同じ状態だった。妖精達もジリジリと後退していく。
〈シュネー! 【チェンジ】しよう!〉
近くを飛んでいたシュネーを捕まえて、すぐにテルのコメント打ち込んだ。
「え? ど、どうしたの⁉」
〈良いから早く! 今のティフォは完全にキレちゃってるから! 捕まったらきっと同じ地獄を味わう羽目になるよ! 運動能力はシュネーの方が高いんだから、逃げれる可能性を上げておくの〉
僕の体力や逃げ足では一瞬で掴まってしまうが、シュネーのパラメーターなら何とか逃げられる程度には運動の能力値は上がるはずだ。
上手く逃げ切る事が出来れば、身を隠して潜むことぐらいは出来る。
「わ、分かった⁉」
ギュッとお互いに強く目を閉じて手を合わせる。
〈「【チェンジ】」〉
僕等の様子に周りが少し驚いた感じで見ているが、ただ一人だけ……ティフォだけが全然違う顔で僕等を睨んでいた。
その証拠に微かにだが「チッ」という舌打ちが聞こえた。
「遊んでいたんだろう、混ぜて欲しいな~。捕まったヤツから一緒に碁石を作ろうぜ~」
ティフォがそう言い終えると、何故か近場の石を拾いだした。
「い~こ、に~こ――――」
まるで井戸に捨てられた怨念の女性がお皿を数えるかの如く、カウントを始めた。
「いかんでござる! 皆、ティフォナ妃から逃げるんだな! 捕まったら罰ゲームが始まるでござる! こ、これは地獄の遊び! お、鬼ごっこでござるよ」
初めはティフォ一人と思っていたが、転移陣が光だして、ボウガさんやトワちゃん、そしてズナミと、数名の鬼達がぞろぞろとティフォの後ろから湧いて出てきた。
「人数が足りね~んだ。いま、暇だろう? 遊んでたんだもんな」
ボウガさんの目が何か虚ろになっているんですが、何をしてたんでしょうかね。
「ふふ、ふふふ、小さい子達も一緒に作ろうよ、永遠と同じコマを作るの、形だって同じ、あぁ、将棋は少し大きさとか違うけどね。飽きたらチェスってコマを作ると良いよ、気分転換は大事だもんね」
トワちゃんまでもが、何故か虚ろな表情になっている。
「スマナイ、我ラには細かい作業はムカナイんダ。人手が欲しいと頼まレタ」
「運搬はマカセテ」
鬼達が青い表情で申し訳なさそうに僕やエーコーさんを見ては頭を下げている。
「事情はよく呑み込めぬが、あ、遊びの一環と言うなら負けねば良い話であろう」
エーコーさんが憐みの目で鬼達に同情してるよ、何してるのティフォ! 気付いて。事態は良く解ってないけど、色々と察してる顔をしているエーコーさん。
「ルールは簡単、捕まったらこういった、白い石を綺麗にま~るく、半円にねするだけだよ。少しでも風の力を使えれば誰だって出来るんだ。簡単だろう。嫌なら、捕まらなきゃ良い話なんだ。簡単な遊びだろう。コレは戦いじゃあないからね、一切の攻撃は禁止だよ。ただし、相手に攻撃しないのであれば、逃げる為の能力しようはアリだよ」
首をカクッと曲げて、この場にいる全員を見る。
「理解したかな?」
逃げる側の僕等は全員が一斉に頷いた。もちろん妖精達もエーコーさんもだ。
ここで迫力に負けず何の反応もせずに逃げれば良かったのだろうが、そういう雰囲気でも無いし、完全に場の空気はティフォによって支配されてしまっていて、そこまで考えが及ばなかった。遅れて気付いたけれど。もう時すでに遅し。
「十数えたら、開始だよ」
ティフォは拾った石をボウガさんに一つ一つ渡していく。
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