【オンライン】178話:イベント騒ぎは大騒ぎ



      ♦♢♦♢【視点:樹一(ティフォナス)】♦♢♦♢



 皆は逃げたかと思っていたのだけれど、周辺のサーチで表示された範囲でスノー達はまだ水路の所に居る反応が出ている。


「アイツ、何してるんだ⁉」


 確かに向こう側へ渡っていたはずなのに、今は水路の中央で鬼のボスと同じ位置に居る。


「掴まっちゃったの⁉」

 俺も初めはそう思ったが、どうも違う気がする。

「いや、自分達から近付いた感じの動きだったぞ」


 ずっと周囲の動きに気を配っていたのだろう、少し難しい顔をしながらゲンドウさんが教えてくれた。


 もう一つ、知りたい事がある。


『エーコーさん! どうしてこんなに一気に水が流れて来てるの⁉』


 ミカさんが俺よりも早くに問いただすように声を荒げて聞いていた。


『分からん⁉ 此方と手何とか抑えようとはした! 急に水嵩が増してどうにもならなかったんじゃ‼』


『この辺一帯地で雨の予報は無かったはずです。こっちだって困惑してるんですからね、大雨にでも振られたような水の増えようなんです、心当たりがある人はいないんだすか! 水属性の大魔法でも連発したとか、鬼のボスがそれらしい攻撃魔法をしたんでしょうか』


 その話を聞いて、心当たりがある人達が一斉に息を呑み込んで、黙ってしまう。

 カミルさんのかなり焦っている声に内心では「ごめんなさい」と謝りたくなる。


〈その原因はきっと僕達なんで気にしないでください。それよりもエーコーさん、水路の途中で下に掘った道があったと思うんですけど、そこの柱って今からでも取り除けます?〉


『何時でも可能だであるぞ?』


〈それじゃあ今すぐにお願いします〉


「本当に上手く行くかしらね~」


「でもさ、コレを防げなかったらちょっとね~。自分達の蒔いた種で自滅って一番ダサいよ」


 もうすぐそこまで水が迫っているというのに、焦った様子も無く淡々とした文章が表示されていく。ケリアさんからもシュネーからも追い詰められている感じではない。


「おいスノー! 大丈夫なのか⁉」


〈ん~、特に今のところは問題なしかな。あ、中央部分に気を付けてね。足とられたら終わりだからね。パニア、もうちょっと何とかならないかな〉


『ムリダ、コレでタエルしか、ない』

「何しようとしているのかぐらいは説明が欲しいんだけど」


 アズミルが少しだけ割って入る様にしてスノーに喋りかける。


〈とにかくここで水の勢いだけでも削がないと村に被害が出ちゃうでしょう。だからしっかりと守れるように試行錯誤している所です〉


 悠長な話ではないのだが、俺もアズミルもスノーのマイペースさに呆れてしまう。


〈こっちじゃあもう確認が出来ないからさ、そっちで状況を教えて〉


 チラッとアズミルを見てから、お互いに何も言わずに頷いた。

 アズミルは即座にフールを高く空に放つと、視点共有の能力を使う。


「後十五秒くらいかな、というかそんなんで耐えられるの?」

〈多分? 大鬼さんが何処まで耐えられるかで決まるかと〉

「なんで鬼共のボスが襲ってないんだよ?」


 普通は近付いたら攻撃されると思うんだが、戦っている様子もない。


〈知らないよ。でも敵意は向けられてなかったし今は利用できるモノは何でも頼らないと、村を守れないでしょう。お互いに死にたくないって事で良いんじゃないの?〉


「そんな簡単に物事が片付いたら、誰も苦労はしない」


 眉間を抑えながら文句を言っても始まらないけれどツッコミたくもなる。


「もう来るよ!」


 アズミルの声と共に大量の水がスノー達を飲み込んでいく。


〈大鬼さん、とりあえず頑張って耐えて下さいよ!〉


「スノーちゃん、もうちょっとこっちによって下から水が通っていくから危ないわよ」


「二人ともファイトだよ! この壁はパニアっち大鬼の君達が力を合わせないと耐えられないからね。全力で守ってくれないと生き残れないよ」


 シュネーがそう叫ぶと、少しだけ大鬼の声が聞こえて壁全体が一瞬だけ光った。


 壁に当たる前に手前で水球が膨れ上がっていき、襲い来る水と衝突した。


 この辺り全体に滝みたいな雨が襲う。


 一番近くにいた俺達には強烈なホースで水をぶっ掛けられたような感じだった。




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