【オンライン】171話:イベント騒ぎは大騒ぎ
『スノーちゃんや、そのまま行くのはちっとばかりマズい。トラップがまだ沢山残っておるし、彼等が発動させた罠や穴もある、脇道に逃げ込むんじゃ』
ジャンシーズの人達と逃げているとダイチお爺ちゃんから、パーティーチャットが届いた。一緒に逃げているティフォ達にも届いた様で、逃げつつ攻撃している彼等にシュネーが口頭で内容を伝えてあげる。
『大きな落とし穴が中央にあるからソコに大鬼を嵌めて、右の脇道に逃げ込むんじゃ。儂等が作ったトラップの位置は逐一報告するから聞き逃すなよ』
〈了解、そっちも気を付けてね〉
『儂等の心配なぞ要らんわい。後五十メートル先じゃから、しっかりやるんじゃぞ』
ダイチお爺ちゃんが教えてくれたトラップの位置を見ると、少し光っている地面が見えた。同じ組の仲間が作った罠を視認が出来るというのは便利だね。
〈ガウは僕を守りつつ正面から駆け抜けられる?〉
「無論、拙者の脚力を舐めてもらっては困るでござるよ」
〈じゃあお願いね。ティフォとケリアさんはサポートをお願い。アズミルは追撃と足場を上手く狙って確実に落とす事を考えて‼ シュネーはニンフィに指示。行くよ〉
僕の打ち込んだ文字を皆が読み、声を揃えて返事をしてくれる。
ジャンシーズ側の人達は何を言っているのか分からないのか、首を傾げて戸惑っている。
一番近くを走っているのは大剣を背負ったティフォより少し若いくらいの青年か、流石に見捨てるっていうのは目覚めが悪いんだよね。
〈キミ、僕が合図したらジャンプして手を掴んで! ゲンドウさんはガウに合わせて飛んで下さいね、それくらいは出来ますよね〉
見た目は忍者なんだからそれくらいは出来て欲しい。
「あ? 何を……」
「彼女は喋れないんだよ、まったくデリカシーってものを学べ。問題ない、彼に負ける様な足をしていたら、私は忍者を辞めねばならん」
一緒に走っているゲンドウさんが説明してくれる。
「ニンフィ少しだけ左に寄ってあげて、高度も下げて」
そうシュネーが叫ぶと、頭スレスレを大鬼の攻撃が通り過ぎていった。
〈いま! 早く掴んで⁉〉
「だぁ、わかったよ」
僕の力じゃあ引き上げる事は無理でも、少しの間だけ飛ばしてあげる事は出来るだろう。
「フール《クラッシュ》キュスは《鉄砲水》を軸足狙いで放ちなさい」
「どっちが遠くに飛べるか、勝負でござるな」
「ぬかせ、忍者がお前みたいなヤツに負けてたまるかよ」
大鬼は怒って追いかけていても、僕等の不審な動きに反応してかすぐ追う足を止めようとしたが一歩間に合わず、落とし穴の端っこで体を仰け反らせて必死に落ちない様にバランスをとっていたけれど、アズミルの一撃で足場から崩れて大穴に落っこちた。
ニンフィも必死に飛んでくれて、ギリギリ穴の向こう側まで青年を連れて飛べた。
彼はもっと力任せに僕の腕を掴んで来るかと思ったのだけれど、随分と優しく握ってくれたな、それでも体重やら装備の重さでしっかりと握らないと落ちてしまうから、浮かんでいる最中は結構に痛いダメージが入ってしまったけど。
「……その、助かった」
青年はこちらを見る事無く、かなり小さい声で呟く様に言う。少しでも物音がしてしまえば聞き逃してしまいそうな程に小声でちょっと耳も赤くなっている。
「よっと、大丈夫か?」
「え、あ~はい。引っ張ってくれたんで落ちずにんでます」
ティフォの方も盗賊っぽい服の青年を助けていたらしい。ペコペコと顔を真っ赤にしながらお辞儀をしている。きっと引き寄せて抱きしめる感じで助けたんだろうな。
「ぬぅ~、かなりの差が出たでござるな」
「……初動はこっちの負けだった、それに装備の重さもある。それでこの差か……お前のステータスはどういうステ振りしてんだ? ふざけるな、どんなタンクだよ」
ゲンドウさんがガウと競い合た差で表情をヒクつかせて苛立っている。
ただ、此処でまったりした時間を過ごしている暇は無い。
〈まだだよ、すぐに逃げるよ!〉
あの大鬼はただ穴にハマって少しの間だけ抜け出せない。足止めでしかない。
開けた道を逸れて森の方へと移動を開始する。
〈ダイチお爺ちゃんごめんなさい、せっかく足止めをしてくれてたのに〉
『なに気にするな。物事にはイレギュラーってのは付きもんじゃぞ。トラブルに臨機応変に対応出来てこそ誇りを持てるってもんじゃ』
森に入ってすぐに後方で怒りに満ちた雄叫びを上げて僕を一番に睨んでくる。
「ニンフィ、頑張って。ボク等が生きれてるのはキミの御蔭だからさ」
大鬼の声に体を小さく震わせているニンフィにいち早く気付いたシュネーが優しく撫でて勇気付ける。僕も一緒になって抱きしめる様に撫でてあげる。
今は速度を落とせば、それこそ命取りになりかねない。
〈ニンフィは僕が示した方向を前だけ見て進んで、大丈夫だよ君の逃げ足なら追い付かれないから。上手く大きな木々を利用して逃げるんだ。怖い思いをする時は僕達が一緒だよ〉
次第にニンフィの震えは無くなっていき、少しづつ速度が上がる。
「流石に森の中は走りに辛いみたいだな」
「そうは言っても、かなら強引に突っ込んで来るじゃない。細い木々じゃあ全然速度は落ちないみたいよ、物ともせずに突っ走ってくる姿には惚れ惚れするけどねぇ~」
「この非常時に、変わらねぇな」
「何事も楽しむのが私の長所なのよ~」
ウザったいという感じで、すぐにケリアさんから視線を逸らす青年。
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