【オンライン】142話:イベント騒ぎは大騒ぎ



 二回目の襲撃が終わったくらいに、ヤーさんが火薬職人を連れて戻って来た。


 小柄と言うより、ファンタジー小説などで出てくるドワーフという種族だろう。お髭を生やした丸っこいフォルムに筋肉質な体をしている。


「貴方様かい、ワシを受け入れてくれるっていうお方は?」

〈はい、此処でゆっくり火薬の製造や研究をして欲しくてお呼びしました〉


 物腰柔らかな感じではあるけれど、僕の事を見定めている様な目をしている。


「ワシはイラグ。感謝するよ、ワシに住まう場所をくれて」

〈スノーです、この小さいのはシュネー。よろしくお願いしますね〉

「私はケリアって呼んでちょうだい」


 頭は下げつつも決して遜る事無く、相手から目を離さない感じで観察されてる。

 いや~、やり辛いことこの上ないね。


「スノーさんは火薬を直ぐにでも戦いに使いたいのですかな?」


 一通りの挨拶が終わると、真剣な目付きになってイラグさんが真っすぐ見てきた。

 ボウガさんやエーコーさんと、こっちの世界では何かとこういう人達に縁があるな。


〈確かに後々には使いたいですけど、今はそれより花火が欲しいかも〉


「はな、び?」


 夏祭りに行った時にも見た花火をこっちの世界でも見たい。


「綺麗だよね~、スノーと一緒にみたいな」


 シュネーと一緒に見たいっていうのも少しだけ、あるんだけどね。

 大型イベントがこうも殺伐とした感じでしかない。

 だから、ちょっと息抜きが出来ない気がするんだよね。

 出店とかも出せるんだし、食事だって出来るんだから(しかも実際に食べた訳じゃないから太らない)夏祭りみたいな事をこの世界でやりたい。


 それにはどうしても、最後の目玉である打ち上げ花火は欠かせないだろう。


「おい、はなび? とやらはなんだ。どういった代物なんだ。教えてくれ!」

「こらおっちゃん、そんな激しく揺らさないで!」

「お、おう、すまん」


 両肩を掴まれて、ガクガクと揺らされる。


〈やっぱりこの世界だと花火は無いんだね。お祭りって言ったら花火じゃない?〉

「そうね~、誰も作った事がないから……戦闘に使うって訳じゃないし」

「基本は戦闘に関係あるモノから作りますからね。遊びモノを造る人がまだいない、と言うのもあるだろうな。しかし……祭りか、確かに大型イベントはお祭りみたいなもんだな」


 ヤーさんが腕組みしながら一人頷き、物思いにふけっている。


「だから、お前達だけで納得しとらんで説明を求めてるだろうが!」


 イラグさんが地団駄を踏み、早くしろと説明を催促してくる。


〈火薬と金属の粉末を混ぜて包んだものです。そうすると炎色反応……あ~、つまり、燃焼、破裂した際の火に彩り豊かな色が付いてですね、夜空に花を咲かせるっていうか、花びらを撒いたみたいにちらせるんですよ〉


「た、戦いの道具じゃあないのかい⁉」

「花火はカンショウといった感じね、もちろん二つの意味でね」


 いっつもただ眺めて、綺麗だと言うだけで良かったのに、いざ花火を見た事もの知らない人に説明をするとなると難しいモノがあるな。


 流石に詳しい作り方なんて教えてあげられないんだけど、どうしよう。


 花火の光や彩色、煙を出す部分が星って呼ばれるって知識ぐらいしか無い。


「金属の粉末……それで火に色をなぁ」

〈どうせなら、錬金術と組み合わせて魔法花火なんて作ってみません〉


 詳しい製造方法なんて分からないから、ミカさんに丸投げしてみよう。

 コードギアで現実に戻ってから、資料を取り込んで渡せば良いかな。


「良いねぇ、貴方様は実に良いよ! 火薬の可能性がどんどんと広がっていく。此処に来たのは間違いでなかったな。アンタ等に会えてよかったぜ」


 何か、物凄く泣いて喜んでくれている。


 ちょっと自分が楽しみたいから呼んだだけなのに。



 罪悪感が少しだけ僕の心を突いている。




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