【オフ】109話:イベント騒ぎは大騒ぎ




 イベントの準備による調整で、お昼から明日の朝までゲームはお預けだ。


 洗濯物を畳んだり、お掃除を手伝ったりで時間を潰していると何時もの様に樹一と小鳥ちゃんが遊びに来る。矢継ぎ早に桜花ちゃんと葉月ちゃんの双子姉妹がセットで付いて来る感じが日常になりつつある。


 雷刀は少し遅れて来るが、何時も何かしらの手見上げを持ってきてくれたりする。


「あ~もう、なんでイベント前に私達は出来ないのよ」

「仕方ないんだな、ベータテストから参加してるテスター組や初期組の特権なんだな」


 ただ普通に説明すれば何もされなかっただろうに、雷刀が「羨ましいだろう」という様な態度で言うもんだから、二方向から正拳突きやキックを御見舞いされてしまう。


 悶絶しながら床に転がり、最後に葉月ちゃんによる無言の圧と笑顔で簀巻きにされた。


 ちなみに正拳突きしたのが小鳥ちゃん。

 ドロップキックをかましたのが桜花ちゃんである。

 オレと樹一は、もう憐みの目で雷刀を見てやる事しか出来ない。


「さて、そんじゃあズィミウルギアのイベント会議しようぜ。コードギアをノートPCに付いてるカメラに翳してくれ」


 雷刀が持ってきたノートパソコンを勝手にイジり始めて、何やらソフトを立ち上げる。


『あらあら、きたわね~』


 画面にはケリアさんが映し出されて、こっちにむかって手を振っている。

 スノーの姿が画面に出ていて、樹一はティフォのキャラが映っているようだ。

 双子姉妹と小鳥ちゃんは、村娘のキャラとして出てきている。

 モブという感じなのだろう、小鳥ちゃん達のキャラは皆同じ顔をしている。

 ただし髪や服の色が違うキャラクターが映っている。


『シュネーちゃんは? 彼女は居ないのかしら?』

「あぁ、今日は用事があるからね」

『そう、残念ね~……後ろで簀巻きにされてるのがガウちゃんかしら』


 ケリアさんの声に反応してフゴフゴと何かを言いながら飛び跳ねている。


『えぇっと、周りの子達は?』


〈友達です、青い子がティフォの妹で、黄色と緑色の子がオ――友達です〉


 オレと書きそうになって、慌てて消した。


 執事さんとメイドさんに小鳥ちゃん達の視線が一瞬でオレに集まったのだ、すぐに消した事で何事もなく済んだけど、あのままだったら確実にお仕置きされていた。


『そう、よろしくね~。ケリアって言うのよ~』


「よろしくお願いします。次の増員で会えると思うのでその時にまた会いましょう」

「よろしく~」

「……よろです」


『楽しみに待ってるわよ』


 皆が挨拶を終えると、雷刀がのっそりと簀巻き状態で器用に起き上がってきた。


「ティフォナ妃、ディスプレイにあるマップってフォルダーからグランスコートって書かれているファイルを開いてほしいんだな」


「これか? 次はどうすんだ」


「そのままドラッグして今開いてる会議ラインの下に空欄があるから、そこに突っ込んで、それだけで後は自動的に皆で共有が出来るんだな」


 樹一は慣れた手付きでササッと言われた通りにパソコンを操作する。


「このファイルを開けば良いのね。あらあら、詳細な地図じゃない」


 向こうにも表示されたデータをマジマジと皆で見つめる。


「森の中間から手前辺りが侵略してる敵のテリトリーなんだな、そこから奥地はエーコーの御蔭で簡単には入れない様に天然の要塞みたいになってるでござるよ」


 中間地点の奥まった場所には妙に開けた場所や、盛り上がった洞穴の様な場所が所々に描かれ、そこ部分には大きくドクロマークが描かれている。


〈これ、なに?〉


 オレが気になって指さして聞く。


「その場所が敵の本陣になり得る箇所でござる。拙者が偵察した場所には人型の魔物、ドラコス族がうようよ居たんだな」


〈ドラコスって何だっけ?〉


「鬼だよ、皆はゴブリンって言った方が分かりやすいだろうね。プレイヤーの殆どがゴブリンだって言っちゃってるしな」


「絶対に鬼人とか出てきたら、そっちを皆がドラコスって呼ぶんだな。新規ユーザーの加入タイミングに合わせたバージョンアップで種族変化が可能になるかもって、運営ニュースで匂わせてた記事が出回ってるんだな」


「昨日のイベント調整報告と同時に記載されてたヤツね。あれを見せられちゃってから創作意欲がMAXなのよね」


 オレ一人だけがキョロキョロして、他の皆は知らない話題で盛り上がっている。


 ケリアさんとティフォがオレに気付いて、少しクスクスと笑いながらも運営ニュースというサイトの話題になっているページ部分を開いて見せてくれた。


「ほれ、ここだよ。むくれんなって」


〈別にむくれてないもん〉


 自分でもちょっと拗ねているとは思うけど、そこまで露骨に怒ってないよ。

 ホームページには鬼人・獣人・エルフ・魚人っぽいシルエットが描かれている。


「このタイミングだから今回のイベントに何かしらで絡んで来るんじゃないかって、もうあっちこっちでお祭り騒ぎよ」


 魚人系統は南のジャンシーズで決まりだろう。

 イベントで襲撃を受けている場所が、海岸付近の地底湖だし。


 いま最前線で攻略を頑張っている人達でも他の東、西、北では海なんて見つかってないんだから、他の箇所での出現は考え辛いよね。


 ヴォルマインはオレ達が前に行った泉から少し奥にある、古びた廃坑。


 フォレストヒルは、荒野と湿地帯に挟まれたジャングル。此処に関しては錬金術師のミカさんとガウの情報から、イベント中は全く気にする必要が無いそうだ。


 資源云々という前にフォレストヒル内の二大派閥。

 その中の悪い派閥でぶつかり合うのが明らかだという。


〈新しい種族で盛り上がるのは良いけどさ、結局、戦力ってどうなりそうなの?〉


 簀巻きにされていた雷刀が器用に抜け出して、横から片手でノートパソコンをちょちょいとイジリ、大まかな人数を出してくれた。


「グランスコートに確実に集まりそうな協力者は、ざっと見て五十から七十。エンジョイ勢やスパイ的な奴らを含めれば百はいくかもだけど。イベントミッションが成功しやすい、簡単にイベント報酬が狙えそうって下馬評を見ると、我らグランスコートは最下位」


 一番人気はヴォルマイン、次にジャンシーズと続いている。

 フォレストヒルは内輪揉めで、評価がかなり微妙な数値になっている。


〈まぁ、妥当な感じだね〉


 オレ達の所は外壁がギリギリで間に合ったレベル、それも急ピッチで作った間に合わせ。

 産業も進んでなければ、人手も少ない。


 モンスター達の助けもお助けキャラの力も何処まで頼れるかが不明という、不安要素しかないしね。中身の分からないハリボテ船には乗りたくはないよね。


「あぁそうそう、私はイベント調整のギリギリまでホームに居たんだけど、鍛冶師のタムさんが来たわよ。出来たんですって、ある程度の納得のいくファイアーピストンの試作品」


〈……出来たんだ〉


「なんでスノーが驚いてるんだよ」


 まさか間に合うとは思わなかった。

 原理は説明してわかったからといって簡単に再現は出来ないと思ってたよ。


「まぁ再現できるかは分からなかった訳だし……って、なんでござるか」


 クイクイとガウの裾を引っ張り、樹一の膝上によじ登って座り森の地図を開く。


「お、おい?」

「あらあら、ふふふ」


 なんか樹一が挙動不審な動きをしているが、今は無視しよう。

 そして何故かケリアさんは楽しそうに笑っている。


〈ゴブリン達の本陣ってどんな感じ?〉


「ん~あ~……周りの木々を倒して乱雑に組んだ家なんだな、害獣は洞穴の方に巣を作っていると見て良いと思うでござるよ。其々の場所にボスモンスターが居ると思うんだな」


 少人数でも何とかなるかもしれない。


 エーコーさんに相談しないとダメだけど。確実に敵を追い出せる手段が一つだけ。


 だだし、やるとしても、それはどうしても攻め切れない時の最終手段としてだ。


 安全性を考えると後一手……いや二手は足りないかな。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る