【オン87】イベント騒ぎは大騒ぎ



「なんとしてあげたいね」


 シュネーがこそっと耳打ちしてきた。


 丸ノコ台ゴーレムを優しく撫でて、少し気落ちしている背中が寂しく見えた。


『でも、どうすれば良いか良く解らないよ』


 受付嬢のカミルさんが言っていた事も関連してるんだろうけど、流石にすぐにアイディアが出るほど知識がある訳じゃないし、現状が分からない。


 漠然と格差があるなってくらいだ。


「ふむ、なら簡単に火種を越せるもんでも作ってみるか?」


「そんな夢みたいな道具があるかよ」


 ダイチ爺ちゃんが軽く言って、タムさんは眉を歪ませて機嫌悪そう言い返した。


「まさか、ライターじゃないよね?」


 シュネーがクイズの答えを当てにいくように聞くが。

 ダイチ爺ちゃんは横に首を振った。


「それも作れるじゃろうが、面倒じゃろう。もっと簡単なヤツで良い」


「なにかあったかしら? 全然想像できないんだけど。ガウちゃん心当たりは?」


「せ、拙者に聞かないでほしんだな」


「待て、俺に聞かれても分かんねぇって」


「なんじゃ~、誰も知らんのかい」


 ダイチ爺ちゃんが残念そうに肩を下げているのを、ハーナさんが隣で「まぁまぁ」と言いつつも、皆を仕方ないとう感じでしか見ていない気がする。


 なんだろう、簡単に作れる火起こし器。ライターよりも単純な作りで出来るモノ。


『もしかして。圧気発火器ってやつ?』


「ほう、知っとったか。ありゃ便利じゃな」


 ポンポンと髪を撫でられた。


「は? な、なんだよ。本当にあんのか?」


 丸ノコやチェーンの構造を教えたからか。

 

 なんかオレが言う事には素直に受け入れている気がするんだけど。


『簡単にすると、空気を圧縮して火種を作る道具なんだけど』


 細かい部品が作れてるんだがら、筒状の棒みたいなモノを作れるだろう。


 地面に絵を描きながら説明をしていく。


 密閉にした筒と空気が逃げない様にする棒を用意して。

 棒の先を少しだけくぼませてね。

 

 もぐさや綿をそこに詰めるだけ。

 

 用意が出来たら、思いっきり棒を筒の中に押し込むだけで火種が完成する。


「ほんとうにそんなもんで、火が簡単に点くのかよ」


『実際に作ってみたら? 細かい説明をしたってごちゃごちゃするだけですよ』


「たしかにそりゃあそうだ。小難しい話なんて俺には理解できねぇって思うしな」


 学が無い訳ではなさそうだけど、専門用語とか説明するの面倒だしね。


 分子の運動エネルギーなんて説明しだしたら頭パンクしそうだ。


「とにかく作ってみるぜ。結果はすぐに知らせるからな。じゃあな」


 タムさんが物凄いスピードで帰って行ってしまう。


 こっちが挨拶を済ます前には、もう声が届かない距離まで離れてしまっている。


「スノーちゃんが知っとるのに、情けないのぅ~」


 ニヤニヤしながらダイチ爺ちゃんが横目で皆を見やる。


「化学は苦手なのよ」


「正直、分からなかったんだな。本当にそんなんで火が点くのでござるか?」


「俺達の苦手分野だったんだよ」


 皆の目が物凄く泳いでいる。


「オモシロソウだな、イツカ、ツクレる、ダロウカ」



 なっかパニアまで興味を持ってしまったようだ。



 オレが描いた図をジッと眺める様に見ている。



「さっすがスノーだね」



 なんでシュネーが自慢気に胸を張ってるんだろう。



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