第85話一八二九年、密偵と武器輸出
「殿様、本当にネイティブアメリカンという者達に武器を売るのですか」
「そうだ、敵の敵は味方と言うではないか。
何も、ただで渡すと言っているのではない。
正当な値段で売るのだから、何の心配もない」
「はあ、それは分かっているのですが、上様や幕閣の方々がどう思われるか」
家臣達の心配ももっともだが、今のところは大丈夫だと思う。
江戸藩邸と品川砲台にドライゼ銃で武装した精鋭を置いているから、何かあっても幕府軍に負けるとは思わない。
まあ、それ以前に、徳川家慶と幕閣は俺を恐れているから、正面切って争うとは思わないし、俺も根回しには気をつけている。
それに、関ヶ原の戦いでも、大阪の役でも、敵対相手の家臣を事前に調略して、寝返りを約束させるのが東照神君のやり方だと、徳川家慶も幕閣も知っている。
だから俺が南蛮の中に寝返る者を探すと言ったら、二つ返事で許可してくれた。
数万人もの死亡者を出した、ネイティブアメリカンの強制移住「涙の旅路」を知っているから、それを防ぎたいと思うのは当然だ。
まずは日本を護る事が最優先だから、アメリカ大陸に送れるのは、情報を集める役目の密偵だけだが、彼らによって情報を流す事はできる。
必要とあれば、米国の主要人物を暗殺する事も可能だ。
経済的に利益が出るのなら、アリューシャン列島、アラスカ、カナダ領という長大な交易路になるが、武器弾薬を輸出する事も考えているのだ。
家臣たちはその事を問題にしているが、どうせ輸出するのは時代遅れの火縄銃と弓矢でしかない。
俺は北前船に乗せて密偵を送り込んだ。
密偵は志願者から選抜することにしたが、それが予想外の者達だった。
原野開拓するのが武士の誇りに反すると思った者たちが、騎乗資格を与えられ、実際には金銀銭の三貨と兵糧用の玄米が支給されるのは同じだが、家格が知行取格百石となる密偵に次々と志願したのだ。
だがその選抜には気をつけなければいけなかった。
役目の途中で死んだことにして逃亡すれば、自分は自由になり、家族が百石の知行取りとなれるのだから。
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