第46話一八二七年、幕府の危機感
「巫覡殿、元薩摩藩士の事、どうにかなりませんか」
「どうにかと申されても、どうにもなりません。
薩摩大隅に置いておけば、島原の乱の二の舞になりかねません。
京大阪に置けば、宝暦事件のように、帝を擁して幕府に弓引くかもしれません。
それで仕方なく江戸に置いているのです。
その為に、本来私が召し抱えなくてもいい五万もの家臣を召し抱え、莫大な扶持を使っているのです。
これ以上どうしろと申されるのです」
俺は老中の水野忠成から江戸城に呼び出された。
何事かと思ったら、島津斉宣に頼まれて召し抱えた、元薩摩藩士の件だった。
江戸に五万もの敵性武士がいることが、とても怖いらしい。
正直何を言っているのだと腹が立った。
そもそも徳川家斉が情けをかけろと言うから、薩摩藩の力を削ぎ幕臣を鍛えるための戦争を始める事を諦めたのだ。
まあ、大量殺人を始める決断ができなかったのが、本当の理由なのだが。
「彼らを江戸以外に置いて欲しいのです。
江戸に置く藩士の数は、松前藩の大名行列の人数にくらいにして欲しいのです」
「もう我が藩にそんな余裕はありません。
上様が情けをかけろと申されたから、藩が破綻しかねない、五万もの元薩摩藩士を召し抱えたのです。
それが気に喰わないと申されるのなら、今日帰って直ぐに召し放ちいたします。
彼らがその後何をしようと、私の責任ではありません」
「待っていただきたい。
それでは彼らが何をしでかすか分かりません。
どうか、どうかおやめください」
「では、彼らに切腹でも命じましょうか。
上様が情けをかけろと申されたが、御老中に江戸から出て行かせろと言われたので、殺して江戸から出すと、桜田門の前で五万人を切腹させましょう」
「どうか、どうか、どうかそれだけはお止めください。
申し訳ない、本当に申し訳ない、私が勝手を申しました。
心からお詫び申し上げます」
さて、どうやって責任をとらせようか。
こいつは、あちらこちらから莫大な賄賂を受け取っていた。
だがそれも、徳川家斉の驕り高ぶった驕奢な生活を支えるためだ。
全ての責任は徳川家斉にあったが、今では家斉も質素倹約に励んでいる。
だから幕府には資金的な余裕があるはずだし、水野忠成には不正に貯め込んだ金を全て吐き出させた方がいい。
「では上様に拝謁したい。
上様に御確認せねば、五万の藩士をどうするか決めかねる。
上様の命に従ったのに、それが原因で御老中に叱責されるなど、我慢なりません。
代理人を立てて、御老中に果し合いを申し込みたいくらいだ。
今回の件を聞けば、元薩摩藩士の剣客や、武芸試合で勝ち残った剣客が、私の名誉を守るために、喜んで代理人になってくれるでしょう。
御老中も藩内の剣士に声をかけられてはいかがか」
さて、俺の脅しに水野忠成はどう対応する気だろう。
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